広い公園、飲みかけのコーヒー

春嵐

α

 広い公園。

 子供が、遠くで遊んでいるらしい。声が聞こえる。砂場の辺りだろうか。

 飲みかけのコーヒー。

 恋人が、いなくなってから。しばらく経った。

 それだけ。他には何もない。

 雪が、ちらついてきた。冬の気配。まだ、秋だと思っていたのに。

 普通の人生に戻る。それだけなのに。さびしくて、切ない。彼がいないからか。

 普通の生き方をしてきた。彼が、足を引きずってわたしの部屋に転がり込んでくるまでは。

 彼を介抱してから。わたしの日常は変わった。せいぜい通信端末でゲームをするだけだった休日は、彼とのデートに。せいぜい通信端末でソーシャルサービスを眺めるだけだった平日の夜は、彼との時間に。

 そう。

 すべて、彼が。

 彼の存在で、わたしは変わった。

 そして。

 彼がいなくなったいま、わたしは。元に戻る。ボードゲームの、スタートに戻るマスと同じ。ダイスの出目で、簡単に。簡単にすべては無に帰る。

 簡単に。

 雪。飲みかけのコーヒー。

 彼がいない公園は、いつもより、広く感じる。

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