答5 あの子とお出掛け

 いや、ちょっと待て?


 何故、世界の頂点たる大魔王せきかわが、この程度のことで悩まねばならん?

 こんなもの断固たる決意で拒否するに決まってお…る…?


 あの子、元魔王は期待に目をうるうるさせながら余を見つめている。


 クッ!?

 クソ、クソ……


 かつて、世界を恐怖のどん底に陥れた元魔王、コヤツは血に飢えた狂犬、狡猾な魔犬だった。

 今では余の側近、配下である。

 何も遠慮することなどない。

 ないのだが……

 

 なにこの生き物!?

 くっそかわええー!!


 ギラついていた鋭い目も今では愛くるしくうるうるとし、ピンと立ったケモミミがたまらん!

 モフり甲斐のありそうなしっぽをブンブン振って、の理性が飛びそうじゃないか!


 い、いかん、落ち着け!

 ここで取り乱しては威厳を示すことができん。

 深呼吸せねば……ヒッヒッフー。


「……よく聞け、余はこんなものは、着ぬ!」


 よし!

 よく言った!

 だって、こんな全身タイツ、というか、どう見てもペプ○マンだぞ?

 こんなもの着て出掛けたら、黒歴史どころか永遠に闇の中だぞ?

 そんなの絶対無理!


「そ、そんなぁ……」

「ぐぬっ!?」


 元魔王はしょぼんとした顔で落ち込んでしまった。

 余は言いしれない罪悪感に苛まれた。


 はい、無理でした!

 元魔王ペットには敵いませんでしたー。


「し、仕方ないな! きょ、今日だけは着てやる!」

「ほ、本当ですか!? ありがたき幸せ!」


 元魔王ペットの弾けんばかりの笑顔に、最近憂鬱気味だった余も癒やされた。


 余は元魔王ペットを引き連れ、出掛けた。

 向かう先は、反乱軍の本拠地だ。

 

「なっ!? き、貴様は大魔王せき、かわ?」

「え? ワハハハ! なんだ、その格好は?」

「だ、ダセえ! ダサすぎ……だはぁああ!?」

「黙れ。この姿を見た者は、消す!」


 余は笑い転げる反乱軍たちを一撃で黙らせた。

 

 そうだ。

 反乱をすぐに鎮圧し、一刻も早く着替えねば!

 余は反乱軍の本拠地を元魔王ペットと二人で蹂躙していった。


「あはは! 主と二人っきりでお出掛け反乱の鎮圧、ボク楽しいです!」


 元魔王ペットの満面の笑みには返り血がべっとりとついている。

 それでも愛くるしさがあるのだから、ケモミミ最高だな。

 しかも、ボクっ娘。

 時代はケモミミ娘よ!

 フッフッフ。

 帰ったらたっぷりと可愛がモフってやるわ!


「出たな、大魔王せきかわ! 転生チート勇者の俺がお前を倒してこの世界を解放して……おふッ!?」


 誰か出てきたようだが、知ったことではない。

 誰であろうとこの姿を見た者は生かしてはおけん。

 とりあえずワンパンで沈めた。


「前回ボクが負けそうになったチート転生者をワンパン!? さすが我が主! そこにシビれる! あこがれるぅ!」


 元魔王ペットはしっぽがちぎれんばかりに振っている。

 余も憂さ晴らしが出来て少しは気分がスッキリした。

 反乱を鎮圧し、居城へと帰っていった。


 夢に出てきた女性が未だに気にはなっていたが、今ではこの大魔王ライフが気に入っていた。

 このままこの世界に根を下ろしてもよいだろう。

 この時は、そう思っていた。

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