答3 優しくしたのに
これは多分大事な二択。
いや、違う。
多分ではなく、最も大事な二択だ。
ボクは一呼吸して、どうしてこうなっているのか記憶をたぐった。
ボクはあることがきっかけで、この世界に勇者として転生した。
その時に、ボクがこの世界の存亡をかけて魔王と戦う勇者だということをこの国の王様から教えられた。
突然そんな事を言われても、ボクはやる気がなかったので断ろうとした。
しかし、隣りにいた大臣や取り巻きの貴族たちの説得、いや、口車に軽く乗せられ、結局ボクは冒険の旅に出た。
それでも、この世界のために戦おうという気になっていた。
ボクは、この人生は選択を間違えないと心に誓ったのだが、早くも選択を誤っていた。
だが、この時のボクはまだ知る由もないことだった。
「せきかわさん、やっぱり聞いてなかったんですか?」
魔女っ子は、また同じことをつぶやいた。
ボクはハッとして、動揺を隠しながらキリッと顔を引き締めた。
「もちろん、聞いていたさ。ボクにとって、特別なのはキミだけさ」
「ああ! せきかわさんもあたしと同じ気持ちだったなんて! あたしたちの間には特別な共通のものがあるのよ! それは『愛』よ!」
魔女っ子は胸に手を当ててうっとりとしている。
ボクはうまくいったと思い、ホッとして息を吐きだしてフフッと笑った。
「そうだよ、ボクたちは最高に相性が良いんだ。共通の価値観があって、魔王を倒すっていう同じ目的を持つ仲間なんだよ。だから……」
魔女っ子の最高に良かった機嫌は、一気に般若の形相に取って代わった。
「……仲間? どういうことよ! あたしのことをその程度にしか想っていないの!?」
「い、いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、愛しているの!? さっさと、ハイかイエスで答えてよ!」
魔女っ子は激昂し、ドンとテーブルの上のボタンを殴るように叩いた。
「う、うわぁああああ!?」
ボクは、言葉の選択を間違えてしまった。
全身に痙攣するような電流が流れた。
ボクの意識が飛びそうになる寸前に電流が途切れた。
鼻孔から自分が焦げているような匂いがする。
ボクは乾いた笑いしか出来なかった。
くそ、失敗したか。
うまく話を合わせてこの状況から抜け出そうと思ったのに。
何が逆鱗に触れるのか全く読めない。
この地雷女め。
そう。
ボクは電気椅子に縛り付けられ、この魔女に監禁されている。
自分を愛していると洗脳するために。
ボクと魔女の出会いは、ごくありふれたものだった。
ボクが勇者になり、冒険者ギルドで仲間を探していた。
その時に、一人ぼっちだった女の子に声をかけた。
それがこの魔女だった。
これが最大の選択ミス、この魔女を仲間にしてしまったことだ。
この時のボクはごく普通に友達のつもりで接していただけだった。
この世界で初めての仲間だったので、多少は優しくしていたかもしれない。
それだけのことだ。
しかし、魔女は何を拗らせたのか、ボクの恋人だと思い込んでしまった。
それからは、女性の仲間が出来る度に、ボクから距離を取らせようとしていた。
ボクがその事に気付き、この魔女をパーティーから外そうとしていたことがバレてしまった。
その結果が、今の状況だ。
「あたしがいるのに、どうして他の女ばっかり見るのよ!」
「そ、そんなことは、ないさ。ボクが見ているのはキミだけ……」
「そっか……わかった! こうすればいいのよ!」
「ぐぅ!? な、にを?」
魔女は突然ニッコリと笑ったと思ったら、ボクの腹に包丁を突き立てた。
ボクはあまりのことに混乱して口を金魚のようにパクパクさせた。
「うふふ。せきかわさんの心臓を止めれば、心が動くことがないのよ。こうすれば、ずっとあたしだけを見ていてくれるの」
魔女はうっとりとしてボクを抱きしめた。
目の前が真っ赤に染まる中、ボクは心のなかで悪態をついた。
こんなの納得できるか!
勇者として異世界転移したのに、また殺させるなんて!
ボクはもう女なんて嫌いだ!
ボクは自分の運命を呪いながら意識が途切れた。
ボクはまたこの世界に復活した。
しかし
「おお せきかわよ! しんでしまうとは なにごとだ!
しかも のろわれているではないか のろわれしものよ、でてゆけっ!」
王様は、世界の存亡をかけて戦っている勇者のボクに、とんでもない暴言を吐いた。
ボクは号泣しながらでていった。
うわーーーん!
この世界のために、みんなに優しくしていたのに!
今度の人生は、自分の好きに生きてやる!
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