答2 おお ゆうしゃよ!

 ボクは悩みに悩んだ末、男らしくガッツリ食べることにした。

 でも、気分は絶望的に憂鬱だった。


 足取り重く台所に入ったボクだったが、次の瞬間には自分の目を疑った。


「……え? これ全部、キミが作ったの?」

「うん、そうだよ! 腕によりをかけた自信作だよ!」


 彼女は眩ばかりの満面の笑みだった。

 絶望に打ちひしがれていたボクも、彼女の自信作に希望に満ちた笑顔になった。


 まずは、炊きたてのふっくらとした光り輝く白米がある。

 今までの彼女なら、お粥か干し飯だった。


 次に、八丁味噌の黒めの味噌汁。

 いつもなら、大体闇鍋だ。


 一昔前の人気料理、肉じゃがもしっかりと出来ている。

 ダークマターではないだけで涙が出そうだ。


 鮭の塩焼きもシンプルだが、嬉しい一品だ。

 これもダークマターしか見たことない。


「ねえ、早く食べよ? 冷めちゃうよ」


 彼女は出来上がった料理をテーブルに並べて、ボクを待っていた。

 ボクは感激しすぎて呆然と立ち尽くしていたようだ。

 

「う、うん! ありがとう、美味しそうだよ!」

「えへへ、ありがとう。さぁ、召し上がれ!」


 ボクはいただきますをして、恐る恐る彼女の料理に手を付けた。

 見た目がまともだからって、ボクは油断していなかった。


 料理は愛情とは言っても、いくら何でも限度というものはある。

 肝心なのは、味だ。


 ボクは思い切って味噌汁を口に含んだ。

 思わず、目を見開いた。


 深みのあるコクがある。

 ダシが効いているのか?


「ねえ、美味しい?」

「う、うん、すごいよ!」


 ボクは次々と肉じゃが、鮭、白米をワシワシとかきこんだ。

 彼女は自分で作った料理に手を付けず、一心不乱に食べるボクをニコニコと見つめている。


 ああ、すごい!

 ワシワシと米をかきこむ手が止まらない。

 何て幸せなのだろう?

 まるで、天に昇るかのようだ。

 

 ボクが完食し、ふと気がつくと見知らぬ豪奢なだだっ広い部屋の中にいた。

 目の前には偉そうに綺羅びやかな椅子にふんぞり返っているオッサンがいる。

 ボクはなぜかそのでっぷりとしたオッサンに跪いていた。


「おお せきかわよ! しんでしまうとは なにごとだ!」


 あれ?

 ボクはどうやら本当に天に昇ってしまったようだ。

 勇者に転生してしまったらしい。


 うん。

 次の人生は選択を間違えないようにしよう。

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