異世界転移~え!?俺が回復術師ですか?やったああ!!~

@migotomigo

召喚される

 気が付くとそこにいた。

 赤い絨毯の敷き詰められた床。

 白く大きい柱。

 足元には漫画やアニメでおなじみの魔法陣チックな紋様。

 目の前には階段。ただし上の階に上がるための物ではなく、玉座へと上がるためのものだ。

 周りを見渡すと時代錯誤も甚だしい厳ついフルフェイスの鎧にそもそも切るということを考えていなさそうな剣で武装した、いかにも騎士様といった風のが等間隔に並んでいる。

 ほかにも同じ状況なのか現代の服をきた人が数人。学生服を着たデブ、チャラそうな男、スーツ姿の女。服装や年齢はバラバラ、共通するところといえばその全員がこの魔法陣の上に立っていることくらいか。


(なぜ僕はここにいる。そもそもここはどこだ。どうきたのか分からない。記憶に障害か。ここに来る前は?)


 様々な思考が頭を巡る。しかし、そのほとんどが堂々巡り。どうして、なぜ、そんな言葉ばかりが頭の中を駆ける。


「おいおいおい!これはなんの冗談だよ、どこだよここは!!なんなんだよこれ!!」


 チャラ男の怒声が響いた。その声は明らかに上方である玉座へと向けられている。

 おもわずチャラ男の視線を追うと王冠を乗せた爺様が威厳たっぷりにその座に収まっている。

 

「成功か…まずは喜ぶべきなのだろうな。」


 聞いただけで重苦しいよく通る声。

 王冠を乗せた爺様はこれまた重苦しくゆったりと口を開いた。


「まずは失礼を詫びておこう。この国の窮地というこちらの一方的な都合でそなた等、異世界人をこちらへ召喚致した。誠に申し訳ない。」


 頭を下げるということもなく淡々と言葉を紡ぐ。

 頭を下げるという文化がないだけかもしれないけどね。


「異世界だかなんだかしらねーけど。謝罪するってんならもっと誠意ってもんがあんじゃねーのか。」


 チャラ男は見た目通り空気を読まなかった。

 こういう時にはこういう人物が頼もしい。

 明らかに周りの騎士たちに守られているうえ立派な服装、豪奢なアクセサリーを身に纏いそしてこれまた立派な椅子に腰かけてるこの場で一番身分の高そうな奴のいう謝罪。

 こういう雰囲気の中だとなかなか面と向かって反論するというのは難しいものがある。

 しかし、流されてばかりでも面倒事を押し付けられるばかりだ。誰かきちんと発言できる人がいるのならその人に任せよう。

 ……願わくばこのチャラ男が空気を読めないではなくきちんと物事を考えて空気をあえて読まない人でありますように。


「こっちの世界ではどうか知らんが俺たちの世界での謝罪ってのは頭を下げる。何かを頼みたいってならまずはそこからきっちりやってくれ。」


 私も同意もなしに勝手に連れてこられたっていうのには思う所がないわけではないので同意。心の中だけで。

 数舜の間のあと騎士たちの中でも一際派手な鎧を纏った人が前に出て剣をチャラ男に向けた。


「確かにこちらの自分勝手さは理解しているつもりだ。だが、それはそれこれはこれ。いささか我らが王に対して不敬が過ぎる。文化の違いとおm…」

「いや、よい。失礼を致した、異世界者どの。」

 

 王と呼ばれた老人は立ち上がりチャラ男に苦言を呈していた騎士を遮ると頭を下げた。


「これでよろしいかな?そちらの文化については知る由もないのでな。ひとつ言い訳をさせてもらうならこの召喚魔術はどのようなものが出てくるのかこちらにも分からないのだ。」

「あぁそれでいい。頭を上げてくれ。しかし、国の窮地ってならそんな何が出てくるか分からないものに頼ってる場合か。」


 チャラ男の言うことはもっともだと思う。窮している状態なら…いや、窮している状態だからこそそんな運任せの行動なんてとるべきじゃない。焼け石に水だろうと運に手を任せて賽を振るよりはましだ。


「ご意見は御尤も。だがもうそのようなことを言って居る場合ではないのだよ。このままだとまさしく人族は滅亡する。」


 人が滅亡する。穏やかな話じゃない。早く帰れないかしらオーラ全開だったスーツ姿の女もさすがに耳を傾けるくらいの気にはなったのか王様の方に視線を向けた。

 ちなみに制服を着たデブは最初っから目を輝かせっぱなしだ。


「その…「なるほど!なるほど!!つまりそれを僕…あいや我らが呼び出された理由。人類の滅亡を回避せよとそうおっしゃられるのだな!!」


 芝居がかった口調で、更には場にそぐわないほどの大声量で、更には更にはまた何か口を開きかけた王様を遮ってそのデブは高らかに語り始めた。

 空気読んだれよ、チャラ男もスーツ女も王様も兜で顔見えんけどたぶん騎士長っぽい人も微妙な顔でお前のことみてるよ。


「大丈夫!我はこの手の異世界転生物にはいささか覚えがある。おそらく人族の滅亡となる原因、この中世っぽい部屋、騎士、王からしてドラゴン退治や魔王討伐あたりではないかな?」

「…あぁ、その通り。魔王率いる魔族軍その対処をお願いしたい。」


 王様は説明しようとしていた目的を先に口に出したデブに面を食らったのか、返事が少し遅れた。


「であろうな!!ならば話は単純明快よ。我ら四人でパーティを組み魔王と戦うための旅に出る。そういう筋書き、そうでしょう王よ。」

「いや、ちょっと待てよデブ。旅に出るだの戦うだのって俺らみたいな一般人にできるわきゃねーだろうが。」


 自衛隊や警察がフル装備何百人とこっちに呼ばれたのならともかくチャラい、スーツ、学生、浪人じゃなぁ。さっきからチャラ男の言うことは全部が全部、的を射ているよ。

 そんなチャラ男の言葉にビクリとしたデブ。


「それにt…「チッチッチ。それはこういう転生物のお約束があるのだよ君。すなわちスキル。」


 また王様が説明しようとしてくれてたよ。チャラ男と目を合わせて話せないなら王様に任せてればよかったんじゃない。そんでわざわざそんな指を振ったりとか芝居口調のオーバーリアクションとかで無意味に周りのヘイトを稼ぐ必要ないと思うよ。


「異世界に転生あるいは転移したものは秘められし力が覚醒を果たしたり、あるいは召喚や転移魔術の影響でその世界での法則に従ったうえでチートな能力を得るものなのだよ。ですよね、王。」

「……其方の博識ぶりには先ほどから開いた口が塞がらないほどだ。その通り、この召喚魔術の方法が載っていた書物には召喚されたものには強力な力が宿ると書いてあった。もっともここ数百年はこの大魔術は行われておらんでな。実際はどうなっておるのかわかりかねるが。

 なので、これから君たちにはスキル鑑定を行ってもらう。」


 スキル!そして鑑定!!デブは鼻息荒く興奮し始めた。

 かくいう俺も今どきの学生浪人だ。そんなRPG的な展開はときめくものがある。ある日すごい力に目覚めてだの学校にテロリストがだの急にモテ始めるだの誰しも一度は考えるものだろう。


「きた…きたきたきたあああ!!我は今、波に乗っている。我の時代の到来だ。我はやはり特別、我を差別していた者どもこそ見る目のない愚物だったのだ。」


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