第76話 ヨンとレイ

 ヨンとレイは8月終わりに入籍した。

 区役所からの帰りにヨンの実家に立ち寄ったため、家に帰り着いた時は夜になっていた。


 イチもニイもいなかった。レイは出迎えたミータを抱いたまま、ソファーに倒れ込むように座った。

 「疲れた……」

 「だな」

 ヨンもレイの隣に座り込んだ。




  二人がヨンの実家に行くとヨンの両親だけではなくニイの両親もいた。レイがニイの両親に結婚報告で伺うと伝えたらヨンの実家で待っていたのだ。

 レイにとってはニイとヨンの両親に見守られ育てられてきたようなものだ。四人全員にお礼が言えて嬉しく思った。

 ここでも二人はからかいという祝福を受けた。


 ニイとヨンの両親への挨拶が終わるのを待っていたかのようにヨンの兄弟は自分たちの部屋から出てきた。

 「見慣れすぎてて、まだ信じられない」

 弟はヨンとレイを交互に見る。

 「昔から、こいつがモテるのが不思議だったんだよ」

 兄が首を傾げた。


 それから結婚式、新婚旅行はどうするのか、子供ができたのかと質問詰めだ。

 とうとう、ヨンが兄弟にキレた。

 「先に籍を入れろって言うから、そうしたんだ。まだ何も決めてない!」

 

 ヨンの怒声に兄弟は一瞬びくき、レイは「そろそろ限界だと思った」と笑った。



 「俺の初恋はレイだったのにショックだ」

 弟の呟きにヨンは思わず顔をしかめた。

 ヨンの様子を見た兄がすかさずヨンをからかう。

 「レイのどこが好きなんだ?」

 ヨンはレイを見てニヤっとした笑顔をむけた。嫌味を言う時に見せる悪い顔だ。そして兄を直視して真剣な表情で言った。

 「顔」

 

 兄はヨンの言葉にどう答えていいのか分からず動揺しながら申し訳なさそうにレイを見る。

 「えっと、こいつのどこが好きなんだ?」

 ヨンの兄には冗談は通じないだろうと思いながらも、レイは冗談を言うのをやめられなかった。

 「身体からだ


 ヨンとニイの両親が爆笑している中、ヨンはレイとハイタッチをした。

 「完璧な返しだな」ニイの父が思わず呟いていた。


 「二人が息ぴったりだってことがわかった」

 ヨンの兄は呆れ、弟は二人の様子を口を開けて見ているだけだった。


 ひと騒動の後、ヨンの家族と夕食に出かけて、さっき家に戻ったのだ。




 しばらく二人でソファーに座っていたが、重い腰をあげレイはコーヒーを淹れる。

 ヨンがミータの餌の用意をして口笛を吹く。ミータが走ってきて軽やかにヨンの肩に乗った。

 「メシだ。降りろ」

 ミータはヨンにしがみつくようにして腕まで降りると、ヨンに捕まえられ下された。ミータは登るのは得意だが、降りるのは苦手なのだ。


 「ミータに嫉妬しそうだわ」

 レイはミータの態度に苦笑しながらマグカップを2つ持ってソファーに座った。

 「嫉妬してくれるのか?」

 ヨンはまたレイの隣にだらしなく座りコーヒーを受け取った。

 「私、めっちゃ嫉妬深いよ」

 「俺もだ。レイに他の男が寄ってこないように結婚指輪を買いに行かないと」

 「ヨンも結婚指輪をしてよね。昔からモテるらしいから」

 レイが真顔で言うのでヨンは思わず笑った。

 俺をビビらずに寄って来る人は、男女関係なく、そうそういないんだが。



 ヨンはレイとソファーに向かい合うように座り直す。

 「これからも、よろしく」

 そう言うとヨンはレイにキスした。

 

 キスをした後、ヨンは一年経っても、まだがっついてしまう自分に苦笑した。

 「その笑いは何?」

 そう言ったレイも笑っている。

 「いや、俺はスマートなキスはできそうにない。いまだにガッツリいってしまう」

 「大丈夫。そこも含めて好きだから」

 ヨンはまじまじとレイを見つめた。

 「好きだと、俺にはっきり言ったのは初めてだよな」

 

 レイは顔が熱くなりながらも、記憶を辿る。

 確かに、ヨンの両親にヨンが好きだとは言ったが、本人に言ってないかも……。

 「遅くなって、ごめん」

 「いや、いいんだ。嬉しかったから。入籍した日だ。いいタイミングだな」

 好きだということは直接的な表現じゃなくても言動で伝わる。でもやっぱり「好き」と言われると嬉しいものだ。魔法の言葉だ。



 ヨンが「俺も好きだ」と言おうとした時レイが真顔で聞いてきた。

 「呼び方は変えた方がいいかな?ダーリン?それとも旦那様?」

 「やめてくれ」

 答えながら噴き出すように笑ってしまった。レイも嬉しそうに笑っていた。


 好きだと言うタイミングも雰囲気もぶち壊したレイにヨンはもう一度キスをした。

 


 



 


 

 

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