第75話 告白の続き
「俺は舞ちゃんの彼氏なれない?一緒にいて楽しいって少しでも思うなら考えてくれる?返事は急がないから」
イチは舞子を見つめて一気に言った。舞子は戸惑った表情のまま小さく頷いた。
その夜、イチは眠れなかった。
ヨンとレイ、ニイと葵の仲の良い様子が羨ましくて、舞子に告白してしまった。
いつかは告白しようと思っていたから、告白したことは後悔していない。ただ少し早かったし、勢いで告白してしまったなと思った。
舞子は家に入る時に「ありがとう」と言った。それは告白に対してなのか、送ったことに対してなのか。多分、後者なのではないかと感じた。
イチは悩んだ末に舞子にメールをした。告白したことで気まずくなった雰囲気を少しでも修復したい一心で。
今までと同じ様に連絡させてほしい。返事を催促している訳ではないから、俺を避けないでほしいと連絡すると、一言「了解」と返事が来た。
来週末、いつものように舞子が図書館に来てくれるか不安だった。
この一週間が時間が止まったように遅く感じた。
自分の落ち着かない行動をこの家のみんなは気付いているはずなのに、何も言わなかった。それがありがたかった。
土曜日、朝から図書館にいたが何をしても頭に入ってこなかった。
本を読んでも活字が頭の中を流れては消えていく。
夕方になっても舞子は来なかった。
やっぱり避けられたのだと落ち込む。すぐに気持ちが切り替えられず図書館の前のベンチで項垂れるように下を向いて座っていた。
「カズくん、具合悪い?」
顔を上げると心配そうな舞子が立っていた。
「良かった……。嫌われたと思った」
イチは泣きたくなるのを堪えて思わず舞子の手を握った。
「ごめん。ごめん。怪我して病院行ってた」
舞子はイチに握られなかった右手をあげた。
「どうしたの?大丈夫?」
驚いて立ち上がったイチを舞子は一緒に座るように促した。
「ヒビが入ってる。小指でも意外と不便なのよね」
舞子は不注意で怪我をしたと笑って答えた。
イチは「気をつけてよ」といいながら、大したことなくてほっとしていた。そして、嫌われたかもと思って落ち込んでいたことも、すっかり忘れていた。
「お酒を我慢するの大変だけど、ご飯食べに行く?」
「うん」お酒が我慢するのが大変なのは舞子の方だと思いながら笑顔で頷いた。
定食屋でご飯を食べ舞子を家まで送るため一緒に歩いた。
「カズくん」
舞子が意を決した様子にイチは緊張した。
「何?」
「告白してくれて、ありがとう。嬉しかった」
イチは寂しげな笑顔を舞子にむけた。
「ダメな理由を聞いてもいい?」
「八歳も年下だから」
「男として見れない?」
「そんな事はない。カズくんは男らしいし優しい素敵な男性だよ。まだ勢いがある二十一歳の若い男性が年上の私と付き合うことはないと思う」
「理由は歳の差だけ?」
「うん」
イチはほっとした。
初めから、一回の告白で付き合ってもらえるとは思っていない。
年齢差はどうやっても縮まらない。
舞子が歳の差が気になるのは、きっと俺が頼りないからだ。俺はまだ大学四年生で、その後2年は修士課程がある。
舞子を好きだと分かった時にイチ自身が悩んだ問題だ。自分が金銭的に自立してないことが舞子との年齢差を感じさせていた。
それでも舞子が付き合ってくれるために、どうしたらいいか。
俺も頼りがいがあると証明しないといけない。本当は就職が決まった時に告白する方が説得力があるのだが、あと三年もある。そんなには我慢できない。
修士課程が終わった時に自分の望む仕事につけることだ。そのために今は資格を取ったり知識を吸収するしかない。イチに出来ることは将来に向かって着実に進んでいることを舞子にわかってもらうことしかない。
「その理由で振られることは想定内。また頑張る」
「えっ?」
「歳の差だけって事は、嫌いじゃないって事でしょ。俺は勢いがあって無謀な二十一歳だよ。また告白する」
唖然としている舞子にイチはイタズラっ子のような笑顔で答えた。
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