第68話 ニイと葵の恋人関係

 梅雨に入り、イチと舞子の関係はたまに食事に行くぐらいで、なかなか進展しなった。

 イチは告白したい気持ちを抑える。今、舞子に「好きだ」と言ったら人類愛レベルで「私も好きだよ」と軽く言ってきそうだ。


 イチはゼミの教授からのアドバイスに従い資格を取るため、学校の試験が終わっても別の試験勉強をしていた。

 梅雨が終わるまでの我慢だ。試験が終わって、夏休みになったら舞子と箱根のハイキングコースを歩く。告白できるとは期待していない。少しでも大人の男性として見てもらえる機会になってくれればいいと思う。



*******



 ニイは悩んだ末に葵と話し合い、お互いの両親に恋人として紹介することにした。

 ニイは今回は結婚の顔合わせではなく、恋人を紹介するだけだと軽く考えていた。ヨンの家に比べたら、うちは騒ぎにはならないだろうと思っていたが間違いだった。


 週末、ニイは葵と一緒に実家に帰った。

 母親に付き合っている人を紹介したいと伝えていたので、両親揃って待っていた。

 恋人を紹介するだけだから固くなるなと言っても父親はカチカチに緊張していた。

 「父さんが見合いするみたいだな」ニイの軽口にも緊張したままだ。

 「こんなに綺麗な人が新一のお嫁さんになってくれるなんて」

 母は葵を紹介しただけで嫁にまで一気に飛躍した。俺のせっかちな性格は母親譲りだなと苦笑する。

 

 ニイが何度も今日は恋人を紹介するだけだと言っても両親は「結婚」と言う文字が頭から離れない。

 両親が結婚を急ぐ理由をニイは思い当たった。舞子が結婚をやめたこともあって結婚するまでは不安なのだろう。早く穏やかな生活をしてほしいのだ。気付くのが遅かった。

 ニイは自分の両親の様子をみて葵の家には恋人の紹介ではなく結婚の許可を貰いに行くことになったと考えを改めた。


 俺だって早く結婚したい。俺は思い立ったらすぐに実行したいタイプだ。でもこれは自分一人のことではないから。

 両親に早く一緒に暮らしたいけど、結婚してからの生活をどうするか話し合っているところだから少し待ってほしいとニイは話した。

 

 「お前たちの意向を尊重するから安心しろ」

 「それと結婚式は花嫁のものだから葵さんの好きにしていいからね」

 両親は怖いくらいに協力的だ。それはそれで不安になる。

 「舞い上がってて覚えてないなんて後から言わないでくれよ」

 「周りが煩いとお前が早まって駆け落ちするんじゃないかと心配して言っているんだ」

 ニイは父親の軽口を聞いて安心した。父の緊張も解けてきた証拠だ。


 

 ニイは安心したら疲れを感じた。早く葵と二人きりになりたかった。

 「晩ご飯食べて帰って」 

 母の言葉にニイは目眩がした。両親がもう少し落ち着いてからにしてほしい。ニイが断る前に葵が「はい」と返事をしてしまっていた。


 母は予め食事の用意をしていたようでご馳走が食卓に並んだ。

 料理上手の母が気合いを入れたのだ不味いはずがない。葵はニイの母親が食事を用意していることを気付いたのかもしれない。この料理を食べずに帰っていたら母は落胆していただろう。

 「このご馳走は葵がプレッシャーになるな」ニイは葵を見る。

 「レベルが違うからプレッシャーにもなれない」葵は恥ずかしそうに笑った。

 「いつでも食べに来ればいいのよ」母は嬉しそうだった。


 「みんなに葵さんの紹介は済んでいるんでしょう?」

 食後に母は葵が持ってきたメロンを出しながら聞いてきた。

 「うん、レイのお膳立てで。そうだ舞も一緒だった」

 「レイさんは私たちのキューピットになってくれたんです」葵が言った。

 「悪魔じゃなくて?」

 父の軽口にみんなが笑った。

 

 

 翌週、葵の両親へ挨拶は拍子抜けするぐらい、すんなりと終わった。

 俺が葵に一度振られたけど再度告白したこと、友達関係からやり直しをして交際していることを話したからかもしれない。

 ニイをじっと凝視していた葵の弟も最後に「姉のことをよろしくお願いします」と言ってくれた。


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る