第64話 イチと舞子のゴールデンウイーク
ゴールデンウィーク後半。
イチは、やっと舞子に会うことができた。
舞子はゴールデンウィークを利用して大阪の友達のところに行っていたのだ。
イチはゴールデンウィーク前半はこの家の住人全員でリビングの改造をした。
以前レイが使っていた三つ折りのマットレスにカバーをかけて壁際に置き手作りソファーの代わりにした。今まで使っていたソファーの向きも変えてL字型になるように配置している。よりくつろげるようになったが、イチやレイは相変わらず床に座ることが多かった。
舞子と会えない分イチはやることがあったため気分が紛れていた。
今日は舞子が大阪のお土産を渡したいとイチを呼び出した。
「はい、お土産」
舞子から渡されたのは「くいだおれ太郎」がプリントされたエコバッグだった。なかなかのインパクトだ。
「ありがとう」イチは戸惑い気味に言った。
「可愛いでしょう。私とお揃いなんだ」
舞子は持っていたエコバッグをイチに見せた。
「舞ちゃんとお揃いだったら使う」
「それって一人だと恥ずかしいけど、皆んなが使ってたら大丈夫ってこと?」
「いや、可愛いと思う」
イチは慌てて言い直した。
ゴールデンウィークにどこにも出かけてないと言うイチに舞子が行きたい場所があれば付き合ってくれると言った。
「舞ちゃんはどこか行きたいとこある?」イチは舞子と一緒ならどこでも良かった。
「凄く混んでるけど、高尾山に行ってみたい」
「去年ゼミで行った。ロープウェイやリフトが混んでるんだよね。俺らは歩いたから並ばなかったけど」
「じゃあ、山を登れば混んでないってこと?」
「うん。一番混んでるのがそこ。あと頂上での食事のところかな」
「じぁ、歩く」
「えっ、大丈夫?ちゃんとした靴持ってる?」
「失礼な」舞子は怒ったふりをした。
「一番優しいコースで100分かかるって書いてあるけど……」
スマホでルートを確かめ、心配するイチをよそに舞子は行く気満々だ。無理そうだったら帰りはロープウェイに乗ればいいとイチも心配するのをやめた。
次の日、新宿駅で待ち合わせをして高尾山口駅まで行った。
イチも舞子も登山をする格好だ。人混みを避けて朝早めに来たがそれでも人が多かった。ケーブルカーやリフトの順番待ちをしている人を横目に登山道を歩いて行った。
舞子はイチが思うほどか弱くなかった。なかなかの健脚でイチは心配することなく二人で景色を楽しみながら歩いていた。
高尾山薬王院でお参り前だが小腹が空いていた。茶屋でごま団子を食べることにした。ここは金ごまと黒ごまの二種類の団子がある。
「そうだ。両方たのんで半分こしよう」
真剣に悩む舞子が可愛くイチは見とれていて、理解するのに時間がかかった。
間接キスじゃないか。
ドキドキしながら舞子を見ると器用に団子をするりと取って食べた。イチは関節キスにもならず落胆して舞子と同じように団子を食べて舞子と交換した。
高尾山の山頂に着くとイチは富士山が綺麗に見える場所に舞子を連れて行く。天気も良く富士山がくっきりと見えた。
「気持ちいいね」
「なんか心が浄化されるね」
イチの言葉に舞子が呟いた。
山頂で軽く蕎麦を食べ、帰りも徒歩で下山する。すると舞子が来た道と同じだとつまらないと言い出した。
「この吊り橋コース行ってみたい」
「俺も歩いたことない。中級者向けってあるけど」
「じゃ、ゆっくり行こう」
舞子はそう言って歩き出した。
イチは吊り橋コースに入ってすぐに後悔した。舗装された道ではなく登山道だ。かなり急な階段や道が続き、後ろから舞子の様子をはらはらしながら見守っていた。吊り橋を見た時は「怖い」よりも「たどり着いた」と安心した。
舞子は躊躇なくスタスタと吊り橋を歩いくが、橋の入り口で足を滑らせてしまった。驚いたイチは咄嗟に舞子の腕をつかみ引き寄せる。
舞子も驚いたらしく「ありがとう」と言った後は吊り橋を渡りきっても暫く無言だった。
「まさに吊り橋現象がおこったわ。カズくんにドキッとしてしまった」
舞子がふざけたように言った。
「俺はいつも舞ちゃんにドキッとしているよ」
舞子はイチの顔をまじまじと見つめた。
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