第58話 桜の季節の続き
ニイは葵ではなくレイが自分のところに来るのを見て一瞬ほっとした表情を見せた。
でもすぐ気を引き締める。違う意味で心配だ。
「デートですか?」
ニイの会社の女性が聞いてきた。
「もし、良かったら一緒の席でお茶しませんか」
男性は立ったままのレイに話しかけてきた。
「いや、俺たちはもう行くから」ニイはやんわりと断り立ち上がった。
「せっかくだから」
「彼女はいいって言うかも知らないじゃないか。どう?」
別の女性と男性も誘ってきた。
レイに意見を求めるな。ぼろ糞言われるぞとニイは心の中で言う。
「お断りします。いいはずないですよね。%△#?%◎&@□!」
レイの挑戦的な笑顔に危険信号を読み取ったニイは慌ててレイの口を押さえた。
「じゃ、楽しんで」
ニイは葵のコートを持ってレイの背中を押す。歩きながらレイは言えなかった不満をニイにぶちまけた。
「デートを邪魔されていいと思う人がいるって本気で思っているなら、頭おかしいか、付き合ったことないかのどちらかだよ。それに、何がせっかくなのか全くわからない!」
ニイは会社の人に聞こえると思ったが、どうでもよくなった。
「気が済んだか?」
「いや、まだある。デート中だと思っているのに初対面の私を誘うなんて、無神経か意地が悪いかどちらかだよね。居心地悪くて楽しいわけないだろう!」
「終わりか?」
「うん」
「じぁ、帰るか」
ニイはスッキリした表情で頷いたレイの肩にコートをかけた。
ニイの会社の人たちはニイとレイのやり取りを唖然として見ていた。
ニイがカフェを出てすぐにスマホを確認すると、ヨンから「家にいる」とメールが入ってた。
ニイとレイが家に戻ると葵が心配そうにレイの側にきた。ヨンは椅子に座ったままニイに笑いかけた。
「どうだった?」
「想像通りだ」ニイは笑い出した。
「ニイにおやつを買ってもらったからお茶にしよう。葵さんは何飲みます?」
レイは呆気に取られている葵に大福が入った袋を掲げて見せた。
ニイはすり寄って来たミータを抱えて葵に微笑んだ。
「いつからあのカフェに二人はいたんだ?」ニイはヨンとレイを見た。
「順番待ちしてたら葵さんが目の前にいたから入ったばかりだよ」
レイとヨンはコーヒーを飲めなかったと言ってコーヒーを飲みながら大福を食べている。ニイは葵に暖かい緑茶を渡した。
「レイはニイの会社で最悪な彼女って言われるな」
大福を食べながらニイから詳細を聞いた葵はさらに呆気にとられ何も言えなかった。しかもレイの彼氏のはずの男はのんきなことを言っている。
「私は彼女だって言ってないもん」
「俺もレイが彼女だなんて一言もいってない。デートかと、あっちが勝手に誤解しただけだ」ニイは平然と言った。
「レイさんが陰口言われちゃいますね。すみません」葵が言った。
「同じ会社に勤めている訳じゃないし。今後一生会わない人たちだから全然平気です。これで寄って来なくなればラッキーじゃないですか。それに悪口はお互い様です。私の方がぼろ糞言いますから」
「レイさんは強いですね」
「葵、強いんじゃなくて、変わっているんだ」ニイが小声で言う。
「ニイ、聞こえてる」レイはニイをにらんだ。
「そう言うニイがレイと一番思考が似ているぞ」
「……。確かにそうだな」
ヨンの言葉をニイは少し考えた後で素直に受け入れた。
ニイは「自分が嫌いな人には嫌われたい」と言っている。嫌いな人に好かれるほど面倒くさいものはないと思っている。確かに避けたい人に食事に誘われたら断り方に気を使う。今後も誘われないような断り方は難しい。人気者ゆえの悩みだろう。
ヨンのように一見怖そうだと嫌いな人どころか、普通の人もあまり寄ってこない。ヨンにはわからない悩みだ。
「葵さん、うちで晩御飯食べていきませんか?と言っても鍋かプレートを使った簡単なものなんですけど」
レイの言葉にニイの顔がさらに明るくなった。
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