第32話 お通夜の続き
お通夜の参列者も帰り親族だけになった。
レイはそっと席を外した。家にあるばあばの仏壇を思い巡らす。お線香はミータが灰をまき散らすので置くことができない。花を飾るとミータが花びらを全部食べてしまうので花も飾ることができない。だからレイは綺麗な刺繍のハンカチにばあばが好きだったラベンダーの香りをつけておいている。
匂いも消えているだろうなと思っていると、優斗の父親がやってきた。優斗の面倒をみてくれたお礼を言われ、ぎこちない会話をする。病院でしか会っていないので会話が続かない。そうこうしているとヨンの母がレイを呼びに来た。
「レイ、疲れたでしょう。ありがとうね。こっちに来てご飯を食べよう」
レイが座敷にはいると、奥の長いテーブルにヨンの両親世代の親戚たちが陣取り、手前の長いテーブルにヨン達三兄弟と優斗の父親が座っていた。すかさずヨンの弟が「ここに座って」と席をつくる。ヨンとヨンの弟の間にレイは座った。向かいにヨンの兄と優斗の父親がいた。しばらくして優斗が目を覚ました。
「パパ」と言って甘え、抱っこされたままヨンを見た。
「大きいおにいちゃん」優斗はヨンに抱っこされに来た。
優斗はヨン達兄弟を見た目(身体の大きさ)で呼び名を決めていた。確かに四歳児には数年の年の違いなんてわからない。
ヨンは優斗を膝に乗せたまま食事をする。優斗はレイに話しかけていた。皆でしていた会話も個々となって他の人が何を話しているのかわからない状態になっていた。
「おねちゃん、ゆうと、ママがいないの」
レイは優斗の顔を覗き込んだ。なぜかこんな言葉は雑踏の中でも響くものだ。全員が聞き耳を立てていた。
「優斗にはパパがいるでしょう。おねちゃんは、パパもママもいないよ」
「なんで?」
「病気で死んじゃったから」
優斗は聞きたいことが言葉にならないようだ。もう少し大きくなると「寂しい?」とか聞いて来るのかもしれない。レイをしっかりと見つめかえしてくる優斗の頭を撫でた。
「優斗はママがいなくても寂しくないでしょう?おじいちゃんやおばあちゃんがいるから」
「うん!」
「おねちゃんも沢山の人から無償の愛をもらっているから寂しくないんだよ。優斗と同じだね」
「う~ん」
「優斗にはまだ難しかったね。何て言えばいいかな……。ここにいる全員、優斗がいい子のときも悪い子のときも、優斗が大好きで大切に思っているんだよ」
「悪い子だとパパは怒る」
「何で怒られたの?」
「お部屋でお砂の山を作ったの」
「それは怒るわ。お部屋で砂遊びしたら、どうなった?」
「ザラザラになった!」
「そのままにしたら、ばい菌がいっぱいで優斗が病気になっちゃうでしょ?だからダメだよってパパは怒ったんだよ」
「なんで?」
「優斗が病気になったらパパもおじいちゃんもおばちゃんも悲しいから。お家の中で砂遊びはやめようね」
「わかった」
「優斗、『なんで?』は一日3回までにしよう。四歳児の質問攻撃はきついわ」
「なんで?」
「出たな、なんでなんで星人!」
レイは優斗をくすぐり「なんで?」と言わせないように実力行使に出た。
ヨンはレイを思わず抱きしめたくなった。
無償の愛か。
何気なく言った言葉だろうがレイの感謝の気持ちが強く伝わった。ヨンは駅でレイを抱きしめとけば良かったと後悔の眼差しをレイに向けた。
ヨンの想いをかき消すように優斗がヨンの腕を叩いた。
「大きいおにいちゃん」
優斗はテーブルに手を伸ばしミニトマトを取るとヨンの口に押し込んだ。
「小さいおにいちゃん」
今度はキュウリを取ってヨンの弟に渡した。
「おにいちゃん」ポテトサラダを握った手はベトベトだ。
「なぜ俺の時だけ、それを選んだんだ?」
ヨンの兄が真剣に優斗に聞いている。理由なんかない。レイはおかしくて噴き出しそうになるのを堪えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます