第22話 二人きりの夜
「私の顔ある?なくなってない?」
ヨンの激しいキスにレイが自分の顔を触る。
「ガッツリいき過ぎた」
「ガッツリってレベルを超えてた。顔を食われるかと思ったわ」
レイは白ワインを水のようにガブガブと飲みながら言った。冗談を言ったりと冷静に見えるがレイは今も緊張しているようだった。
「仕方ないだろう。今まで生き殺し状態だったんだからな」
ヨンは答えながらレイに水を持ってきて渡した。初めてのキスでこの会話は何だかなと苦笑する。
「今から私たち付き合うってこと?」レイの声はなぜか小さい。
「ニイの言うように付き合わずに結婚してもいいけどな」
レイはニイのことを思い出し笑った。
「私たちこのままでいいんだよね?」
「レイの言動でドン引かないし、レイもおれの暴言には慣れてるし、今さら取り繕う必要もないだろう。生活面も一緒に住んでるから今まで通りだな」
「今までも二人だけで出掛けたり外でご飯食べたりしたことあったじゃん。それを『デート』と呼び方が変わるだけだね」
「そうだな。精神面では変わるけど、生活面でいうとセックスするか、しないか、大きな違いはそれだけかもな。今からするか?」
「ムードも芸も何もないんだから」
レイはそう言い捨てて夕食の後片付けをするためキッチンに行ってしまった。
ヨンも皿をキッチンに運びながら、レイの背中に向かって言った。
「冗談じゃないんだけど。それに芸って何だ?芸を求めるのはどうかと思うぞ」
「とりあえず、今日はどっちの部屋で寝る?」
片付けが終わると待っていたかのようにヨンが言った。ヨンは真剣だ。
「そんなに急がなくても。今の私は混沌のど真ん中にいるの。失恋したと思ったらキスされて、その上一緒に寝るなんて心臓がもたない」
「セックスする、しないは抜きにして、二人だけの時は一緒にいよう。こんな日は滅多にない。それにレイの心臓は軟かもしれないが肝が据わっているから大丈夫だ」
レイは思わず笑ってヨンを軽く叩く。
「確かにニイとイチが同時にいない日は珍しいけど」
「俺の部屋だと緊張するだろう?」
ヨンは渋るレイの手首を掴んでレイの部屋に入っていった。
「さっき、二人だけの時は一緒にいようって言ったよね?」
ベッドに横になり二人して天井を見つめているとレイが言った。
「うん」ヨンも天井に向かって答える。
「この一週間ずっと一緒に寝るわけ?」
「そうなるな」
「嫌だ」
「なんでだ?」
「落ち着かない」
「そのうち慣れる。それより、さっき失恋って言ったよな」
レイはそれには答えなかった。
「いつからだ?いつから好きなんだ?」ヨンはニヤついた。
「さあ?」いつから好きなのか、レイ自身もわからない。
「ところで、俺たちはずっとこの体勢でいるのか?これじゃ、まるで棺桶に入ってるみたいだ」
ヨンが顔だけ横に向けてレイを見ると急にレイがヨンに抱きついてきた。
数秒後、身体が揺れていると思ったらグラグラと家全体が揺れた。ミータがダイニングから走って来てレイのベットに飛び乗った。
「結構揺れたね。ミータが来たから震度3以上はあるよ」
ミータはレイに顔を摺り寄せ、ヨンを一瞥してからヨンの腹の上で丸くなった。レイも抱きついたままだ。
「ナマズ並みの感知力だな。でも抱きつかれるのは悪くない」
レイは咄嗟にヨンから離れようとしたが、今度はヨンがレイを引き寄せ手を握る。レイはヨンの左肩に頭をのせた。ヨンの心臓の音が聞こえる。
「鼓動が早い」
「当たり前だ」
ヨンは答えながら心を無にしようと努力する。そうでもしないと身体が反応してしまいそうだ。ヨンは抱き寄せる以上のことは何も出来なかった。理性と闘ったわけではない。単にミータが自分の腹の上で寝ていて動けなかっただけだった。
握っていたレイの手が急に熱くなった。そのうち、レイの規則正しい寝息が聞こえてきた。
「どこが落ち着かないんだよ」とヨンは溜息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます