Living Together!

真夏

第1話 この家に住む

 「ニイニ!一緒に帰ろう」

 聞きなれた女の声に振り向くと、大きなスーパーの袋を一つ渡された。その声の主は隣に10キロの米袋を持っている青年を既に侍らせていた。


 なんだ俺も荷物持ちか。


 「こう見えても箸より重いものを持ったことのないボンボンなのに」

 ぶつぶつと文句を言ったが女が持っていた荷物を二つとも持ってやる。



 普段は「ニイ」と呼ばれている。頼み事のある時だけ「ニイニ」だ。そう呼ばれているが「兄」ではない。確かに最年長の三十歳であるが、名前の「新一シンイチ」の新を訓読みにしてのニックネームだ。家に住む二番目の男という意味でもある。


 俺を呼び止めた女は麗「レイ」、二十七歳だ。お付きのように荷物を持っている青年は「カズ」、通称「イチ」だ。一番最初にこの家に住むようになった男で二十歳。レイの弟のような存在だ。

 


 家に入ると猫の「ミータ」がレイの足にまとわりつき出迎えた。この家に住む三番目のオスだ。こいつは二代目だ。

 この家で一番若い二歳。初代「ミー」は推定十八歳で亡くなるまでレイとイチの心の支えだった。気落ちした二人を慰めるために俺が保護猫をもらい受けた。キジ色のミーはツンデレの女王様タイプだったが茶トラ色のミータは甘えん坊で一瞬にして、この家のアイドルになった。


 風呂場からガタイのいい男が濡れた髪をタオルで拭きながら上半身裸で出てきた。この家に住む四番目の男「ヨン」だ。

 ヨンはレイと同じ二十七歳。四番目の男だからヨンと言いたいとこだが、小学生の頃からのあだ名が「ヨン」だ。正確には「yawnヨーン」。英語の先生が命名した「あくび」と言う意味だ。「カケル」というかっこいい名前があるにもかかわらず、幼なじみのニイのせいで、この家では名前では呼ばれたことはない。


 この家に全く血縁関係がない四人と猫一匹が住んでる。


*******


 金曜日の夜に住人全員が揃うことは珍しい。


 最近、酒が飲めるようになったイチが今日は宅飲みしようと言い出した。

 すかさずレイがキッチンに入り夕食の用意をしながら男どもに指示を出す。

 「ニイは今からお風呂に入って。イチはミータにご飯をあげたら、お酒を買いに行ってね」

 「俺は?」

 「ヨンはまず服を着て」

 ヨンはTシャツを着てレイを盗み見る。

 例え、俺が全裸だったとしてもレイは動じることなく、同じセリフを言いそうだ。


 「で、何かあった?」レイがさりげなく続けて言った。

 レイは俺たちのことをよくわかっている。

 俺がいつもと様子が違うことを感じ取り、話を聞くために意図的に二人になったのだ。ニイもイチにも気付かれることなく、ごく自然に。しかも、酒を飲むと長いニイを先に風呂に入らせた。


 「今日実家に行ってイラついただけだ。あー、肉が食いたい。あと、いつもの茄子とささみのサラダを作って」

 ヨンは大したことないと話題を変え、冷蔵庫から取り出した茄子をレイに渡した。


 イチが買い物から戻りニイは風呂から出て普段のダイニングではなく、ソファのあるリビングに料理を運んでいった。腰を据えて飲む気満々だ。

 「じゃ、食うか」

 ニイは座った途端、レイが投げたTシャツが顔に当たった。

 「服を着て。うちに住む男は裸族か」

 「俺の肉体美に惚れたか?」

 ニイは力こぶを作ってみせるが、一番の肉体美の持ち主はヨンだ。

 ニイは身体より顔だ。美形の部類にはいるのに、ふざけた発言が多いため、この家では美形の恩恵はない。


 「このクソ暑いのに!風呂上りに服は着れないよ。拷問だ」

 最後にお風呂に入るイチの抗議は切実だ。

 「とりあえず、乾杯しようや」

 早く飲みたいヨンがハイボールを次々と作ってグラスを置いていった。

 「何に乾杯する?」

 ハイボールをさらにソーダで薄めながらイチが聞く。

 ヨンは少し考えたあと、意地悪そうに笑って言った。

 

 「ニイの肉体美に!」

 「乾杯!」ニイを除く三人の声がそろった。

 

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