154 標23話 魔のソーラーシフト計画ですわ 11


 轟音を立て、大地から浮き上がり離陸を開始した巨大怪鳥型ゴーレムに向かってルーンジューシーは駆け出します。

 そして怪鳥の頭上に立つダークライトに向かって叫びます。


「ダークライト、最後の質問ですわ!おまえが……、お前がナリアムカラをそそのかしたのかー!」


 怪鳥が頭を下げます。

 その上に立つダークライトはルーンジューシーに答えます。


「己の目的のために父親でさえ手に掛ける。私はバオラ様のなされた御行動に感銘を受けただけです。ははははははははは!

 ガンゾーブ。フレイム・フェザーを使いなさい!」


 私が事件を知ったのは事後の話です。

 ダークライトの言葉と同時にガンゾーブナバロンは飛び立ちます。

 水平飛行に移行すると旋回したのちに戻ってきて三人の頭上へ何かを降らせます。

 それは鳥の羽です。

 ふわふわと風に乗ってゆっくりと舞い下りてきます。

 ルーンジューシーとエリスジューサーはその正体を看破します。


「ちっ!あれは!」

「あの魔力量!ナパーム絨毯爆撃でございます!」

「ナパーム?それはなんだ!」

「バッド!危険です。私達の陰へ!」


「「リフレクション・ジャマー!」」


 舞い落ちる羽は透明なジャマーの障壁や木々、草、大地に触れると大爆発、炎上します。

 三人はリフレクション・ジャマーのシールドの中で燃え盛る炎を目にします。

 旋回するガンゾーブナバロンは三人の頭上を通過する度にフレイム・フェザーを振りそそぎます。


「済まねえ。助かったよ、お嬢さん方」

「お気遣い不要でございます」

「エリス。私は行きます」

「ルーンジューシー様……」

「ダークライトとナリアムカラ。私はやつらを許せません。ラーイズ!」

「その魔法術は危険でございます!」


 中止を求めるエリスジューサーを振り切ってルーンジューシーは飛び出します。

 旋回してたび戻ってきたガンゾーブナバロンに対して向かい立ちます。

 そして怒りをこめて叫びました。


「・バトゥェネラルダイモース!」


 ルーンジューシーの足元から持ち上がってきた地面がそのまま白いカタパルトへと姿を変えます。

 幅一メートル、長さ十メートル。

 ルーンジューシーはそのカタパルトの上をすべる様に突進します。

 そしてカタパルトを飛び出すと思った瞬間、その中央から長さ十メートルの細い棒が飛び出します。

 その棒は左右に広がってカタパルトを延長します。

 ルーンジューシーは次々と延長するカタパルトの上をすべりながら加速突撃します。

 その過ぎ去った後ろではカタパルトが中央から姿を消し、左右に残った細い棒が前部のカタパルトへ収納されます。

 まるで竜に乗った竜騎士のごとくルーンジューシーの乗るカタパルトは空をかけます。

 それを見上げるエリスジューサーとバッドニュースベアーズに言葉はありません。


「コレクト!」


 背中から下ろした大剣シザーズ・トライアを右上打突に構えたルーンジューシーは念話魔法術を詠唱します。

 それは地上のエリスジューサーへと届きます。


「エリスジューサー!」

「コレクト!なんでございましょう、ルーンジューシー様!」

「力を貸してください。私一人ではあいつらを倒せません!」

「ハイル・ディランでございます。

 インベントリー。セタップ・ハイパーエム!」


 エリスジューサーに是非はありません。

 ルーンジューシーが望むのであれば、それは決定事項です。

 彼女は空間収納から魔石ボルトとスクロールを取り出すとボルトを自分の手に装着します。


「スタート、エターナル・ブレーズ!ダブル・チャージ」


 そしてスクロールを起動するとハイパワード化している自分の全魔力を放出します。

 空をかけるカタパルトに乗ったルーンジューシー。

 ガンゾーブナバロンの胸部目掛けて飛ぶ彼女の前に転移アウトしてきたエリスジューサーが現われます。


「御武運を」


 落下していくエリスジューサーの声をカタパルトの下に聞きながらルーンジューシーは彼女が持ってきたエターナル・ブレーズのスクロールを剣で突き破ります。


「ハイパー・シュート!」


 ルーンジューシーが通り過ぎたあとには胸に穴を開けたガンゾーブナバロンがいました。

 怪鳥型ゴーレムはいななきをあげながら体勢を崩します。

 その頭上にはバランスを崩したダークライトがいます。

 とって返したルーンジューシーはダークライト目掛けて突進します。

 その過ぎたあとに残ったのは爆散する細切れのスライムです

 しかしダークライトは残った魔力で千切れ飛ぶ体を繋ぎ止め様とします。

 それはナリアムカラの顔を思わせる白い影を形作ります。

 が、やがて奮闘むなしく霧散していきます。


「ダークライトの最期ですわ」


 ルーンジューシーがそう呟いたその時です。

 三人の耳に聴きなれた声が響きます。


「ルーンジューシー、私は死にません。また会いましょう!ははははははははは」


 ひとつの戦いは終わりました。

 ですが全体の戦いはまだ始まったばかりです。

 援軍の要請を含めて、ルーンジューシーは熊獣人に手紙を託すことにします。


「今更言うのもなんだが、お嬢さん達には助っ人の必要がなかった様だな」

「そうでもありませんわ」

「ふははは。謙遜謙遜。あのジャンボマックスの旦那どころかナバロン破城砕に手傷を負わせるとか、俺じゃあ勝てねえ」

「バッドの持つ知識はとても有用でした。よろしければ私達と共にルゴサワールドへ同行してはくれませんか?心ばかりの謝礼は用意しますわ」

「言ったろう?この世には、死にたくなければ近付いちゃあいけねーものが存在する。そのひとつがナバロンだと。そいつに正面きって喧嘩を売るようなお嬢さん方との同行は御免こうむるぜ」

「残念ですわ。ではホークスへの手紙は運んで頂けますの?」

「ああ、その件は承った」

「頼みますわ」

「バッド様。道中お気をつけください」

「ああ。お嬢さん達も達者でな」


 二人だけになったルーンジュエリアとエリスセイラは元の姿に戻りました。


「ルーンジュエリア様。手紙だけでよろしいのでございましょうか?」

「日輪聖女のちからは普通ではありませんわ。遠距離念話は盗聴の恐れを否定できません。そしてバッドはつわものです。ジュエリア達の気付かない何かをお父様達にお話しする筈ですわ」


 そして二人は転移魔法でグローリアベル一行いっこうを追いかけます。

 それを見送る二つの目がありました。

 それはバッドニュースベアーズです。


「あれがサンストラックのバケモノかよ。怖いぜ」


 熊獣人はサンストラック領領都ホークスへの道を進み始めました。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 その頃ソーラー・シフターではソーラー・シフトの祭祀さいしが行なわれていました。


いーのーちーさーさーげーよー!」


 大神官大主教トリスタンの号令の元にキクロップスの大男二人はそれぞれが担当するワイバーンを太陽へ捧げます。

 それぞれの石舞台から一本ずつ、合計二本の巨大な光束がソラ目掛けて放出されます。

 二つの石舞台の横に建つコントロール・タワー屋上広場ではナリアムカラと三人のゴーレム操騎士がこれを見ていました。

 ふいにナリアムカラは後ろを振り向くと聖騎士団ウエルス対策指揮官に任命しているチャリアット・オブ・ゲーハーソード=ゴッドネロスへ話し掛けます。


「親愛なるチャリアット。残念な情報です。ダークライトとガンゾーブナバロンがウエルスの者達に負けました」

「ダークライト、……はぁ!あ、いえ。申し訳ございません」

「構いません。今は私も同じような気持ちです」


 ナリアムカラの言葉に三人のゴーレム操騎士たちを始め騎士団員や日巫女ひみこたちにも動揺が走ります。


「ナリアムカラ様!ナバロンが、破壊されたのですか!」

「親愛なるハニービー。幸いな事に大破は免れました。しかし自動修復には時間がかかりそうです。ダークライトは再戦を望んでいますが、それを許す訳にはいかなさそうです」


 飛行破城砕ガンゾーブナバロンの小破。

 これは敵に対して浮遊破城砕の持つ兵器としてのアドバンテージが消え失せた事を意味します。

 三人の操騎士達は深刻な表情を浮かべます。


「親愛なるチャリアット、作戦を変更します。聖騎士団はソーラー・シフターの防衛を行ないません。全ては自動防衛システムに任せます」

「食い止められるでしょうか?」

「ヤハー……」


 そんな時オンユーフ・オブ・クロームマスト=ユーロエイザがぽつりと呟きます。

 その声を周りの一同が拾い上げます。


「親愛なるオンユーフ。どうしましたか?」

「はあ。誰か……、何か言った様な気がしました」

「ユーロエイザ卿。お前はそれでもゴーレム操騎士か!誰かが何かとはどう言う事だ!護衛として周りに目を配る事は大切な事だ。だがバオラ閣下のお言葉をさえぎるならば、それ相応の理由をもってこたえよ!」

「は!ゴッドネロス卿、申し訳ございません」

「馬鹿者、俺に謝ってどうなる。謝罪の言葉はバオラ閣下に奏上せよ!」

「はい、申し訳ございませんでしたバオラ閣下」

「構いません。ではどこまで話したでしょうか?そう、ソーラー・シフターの防衛方法の変更についてでしたね。守備は聖騎士団ではなくて自動防衛システムで行ないます」

「ですが自動防衛システムでどれ程の防御ができるものでしょうか?」

「親愛なるハニービー。貴女の憂慮は理解できます。私もまさかガンゾーブが小なりとは言え破壊されるとは思っていませんでした」


 そんなナリアムカラの告白はまたしてもさえぎられます。

 その相手はオンユーフです。

 またか。

 チャリアットはつまらなそうに目を向けます。


「あのー……、バオラ閣下」

「どうした、ユーロエイザ卿?」


 が、オンユーフはそれを気にしません。

 空を見上げて頭上を指差します。

 そこには何か小さなものが見えます。

 それは微動だにせず、天高く浮かんでいるようにさえ見えます。


「「あれは……」」


 ハニービーとチャリアットは思わず呟きます。

 その時です!

 いきなり巨大化したように降って来た細長いピンク色の何かが左の石舞台に突き刺さります!


「どうした!何が起こった!」

「敵襲です!敵の攻撃です!」

「石舞台が!」

「ぅおおおおお!」


 いいえ、それはまだ突き刺さっていません。

 太さ三メートル、高さ三百メートルのピンク色の柱は石舞台の上空二十メートルの位置で火花を散らしながらキリの様にゆっくりと回り続けています。

 操騎士達は愕然とした表情でそれを見上げています。


「あれは、まさか!」

いましめのはしら……」


『力無き正義は無意味です。されど正義無き力もまた無意味です。この言葉を、あのはしらを見る度に思い返し下さい!』


 一人の少女が残したこの言葉を所以ゆえんに闘技場に残ったバターブロンド色の柱は『いましめのはしら』と呼ばれています。

 色こそ違いますが、同じものが今ソーラー・シフター目掛けて落ちてきています。

 石舞台のバリアーに突き刺さったグローリアベルの髪と同じピンク色のコロニーは火花と轟音を撒き散らしながら削れていきます。

 コロニーの真下にいるキクロップスの大男は恐怖のあまり尻餅を突いてへたり込んでいます。

 オンユーフは再び上空を指差します。


「もう一本、来ます!」

なんだと!」

「あちらではありません!隣です!」

「くそ!二つ同時に破壊するつもりか!」

「きあああああ!」


 二本目のピンク色のコロニーも自動防衛システムのバリアーにぶつかり火花と轟音を撒き散らしています。

 そこに残されたキクロップスは四つんばいで逃げようとしますが恐怖の余り動けていません。


「耐えています!石舞台の防御結界がいましめのはしらを粉砕しています!」

「見れば分かる!」

「吉兆です。自動防衛システムの試運転と動作確認を同時に行なう事ができました。これは、ウエルスの無法者共に礼を言う必要がありますね」

「これが、ソーラー・シフターの自動防衛システム……」

「まさか、これ程のものとは」

「決定ですね。聖騎士団と浮遊破城砕は使用しません。ただしウエルスの者を見かけた時には個々にこれを対処します」

「「「は!」」」


 やがて一本目のコロニーは粉になって消え去ります。

 二本目のコロニーは倒れて隣のバリアーにぶつかり、よっつに折れ砕けます。

 それを見たコントロール・タワー屋上広場に立つ人々の顔に笑顔が戻ります。

 皆、互いの顔を見合ってうなづき合います。


 突如そんな彼らの頭上を轟音と火花が襲います。


「なんだ、これはー!」

「敵襲継続!敵のはしらがここ!コントロール・タワーに二本落下してきました!」

「おのれ、ジュエリアかー!」

「親愛なるチャリアット、狼狽は見苦しいです。見なさい。コントロール・タワーの防御結界は完璧です」


 大丈夫だ。ここは大丈夫だ。

 安全だ、安全だ、安全だ、安全だ。

 成る程。生きた心地がしないとはこう言う事か。

 そして数分後。


「私が前に出ます。我々には自動防衛システム、アダムがあります。最後のソーラー・シフトが終わるまでジュエリアを支えられれば良いでしょう」


 安全を確認したナリアムカラが話を締めます。



 ウエルス王国の滅亡まであと三百とよう

 いいえ、最後のソーラー・シフトが終わって太陽の運行軌道が変更すること自体が太陽系の破滅を意味するなら残り日数は変わります。

 再計算の結果、最終チャンスまであと二十日はつか

 あと二十日はつかしかないのです。

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