123 標19話 お姉ちゃん育成計画2ですわ 4
グローリアベルは第一王子の素晴らしさをルーンジュエリアに力説します。
けれどもそれは徒労に終わります。
ですが侯爵令嬢はこれを不幸とは考えません。
逆にお嬢様が自分の恋敵にならない事を幸いと考えます。
グローリアベルの恋敵になる可能性を微塵も感じさせないルーンジュエリアは自分が興味を持てない話題のことを気にしません。
ふと思いついた話題を侯爵令嬢に振ります。
「そうだ、リア様。ジュエリアフラッシュができましたわ」
「ん?そ。
ルーンジュエリアの提起した話はグローリアベルにとって火急の要件ではありません。
当然のように
意外なことに話題に食いついたのはユリーシャです。
「ベル様。ジュエリアフラッシュとは
「ユリーシャ。何故そこでジュエリアではなくリア様に訊ねるんですの?」
「はい!なんとなくベル様に教えて頂くほうが理解しやすい気がしました」
「日頃の行ないの差ね」
侯爵令嬢はお嬢様に微笑みます。
そしてメイドの疑問に答えます。
「ジュエリアフラッシュとは魔力剣よ」
「はー、相も変わらずですねー。また新しい魔法術ですか?それはどんな魔法剣ですか?」
「ん?ユリーシャ、魔法剣ではなくて魔力剣よ?」
「え?ベル様、魔法剣と魔力剣は同じものではないんですか?」
「ベル様。もしもよろしければ魔力剣と魔法剣の違いを
「えと。いいけど、そのまんまよ?」
グローリアベルの言葉にユリーシャは頭をひねります。
同じ疑問を感じたチェルシーもグローリアベルに訊ねます。
横に並ぶレアリセアも興味津々で聞き耳を立てています。
「ユリーシャ、チェルシー。お前たちも知っているように魔法剣は魔法術を付与した剣です」
グローリアベルは人差し指を立てて説明を始めます。
「これに対して魔力剣は魔力を物質化した剣です。……いえ、物質化している訳ではないのよね?ユーコ。なんで魔力剣で物が切れるの?」
「ビームサーベルみたいなものですわ」
「そか」
が、本人も話しながら自分の言葉に疑問を感じ始めたようです。
考案者であり知識の提供者であるルーンジュエリアに再度質問します。
単純に納得したように見えて、複雑には納得できません。
二度三度考えて悩みの種をぶちまけます。
「え?魔力剣を使ってつばぜり合いができるのよね?」
「できますわ」
「どうして?」
「どしてもですわ。
リア様はお忘れの様ですが、ビームサーベルだってつばぜり合いができますわ。できると言う前提で可能になる様に呪文を編んでいる訳ですから、そこに疑問を持たれては魔法術の立場がありませんわ」
「あそ。
貴女方が今聞いた様に魔力剣は魔力を物質化した剣です。それで納得しなさい」
「はあ」
ユリーシャ、チェルシー、レアリセアは
それを眺めるお嬢様の頭の中に長距離念話の声が届きます。
(ルーンジュエリア様。よろしいでございますか?)
「ふみ?」
「ユーコ、どったの?」
「セイラからコレクトですわ」
「ふーん」
お嬢様は侯爵令状に断りを入れて、男爵令嬢と話し始めます。
グローリアベルは紅茶のお代わりをメイドに指示します。
(どうしました?セイラ)
(リリーからの情報ですが、マリアステリナ様がお風邪を召されたとの事でございます)
マリアステリナは第二夫人シルバステラの実子、ルーンジュエリアの上の妹です。
口数が少なく、活動的ではありませんがルーンジュエリアにぺたーっとくっついてくる可愛い妹です。
「ふみ!それでテリナの容体はどんなですの⁉」
(はい。ルーンジュエリアお姉ちゃんの作った料理を食べたいと申されているそうでございます)
「セイラ、情報の伝達を感謝します。これは一つ借りとします」
(もったいないお言葉です。それでは失礼いたします)
ルーンジュエリアはグローリアベルに急ぎ
それに気づいた侯爵令嬢が訊ねてきます。
「どったの、ユーコ?」
「申し訳ありません、リア様。テリナが風邪で臥せって、ジュエリアの手料理を食べたいと言っているとの事です。急ぎ帰って、これを治してあげようと思いますわ」
「ジュエリア様、それはいけません!」
「何故ですの、ユリーシャ!」
お嬢様の考えをユリーシャが
ルーンジュエリアはこれを素直に理解できません。
自らのメイドにその理由を正します。
ですが
彼女は自分の
「いいですか、ジュエリア様!屋敷には奥方様達をはじめ、治癒魔法術を使える
そうであるのならばジュエリア様が駆けつけてご病気を治されるのはよくない行動だと思います!そうするのは、それが必要なほどにマリアステリナ様のご容体がお悪くなった
「そうですわ!ユリーシャの意見に間違いは何一つありません。ジュエリアの早まった行動を止めた事に感謝を覚えますわ」
「いいえ!おそば付き侍女として当然の事です!」
「ふみー。ではジュエリアは何をすればいいんですの?」
妹をかまってあげたいお姉ちゃんは自分の出番が必要ない事を理解しました。
しかしそれで満足するルーンジュエリアではありません。
お嬢様は愛する可愛い妹のために自分がやっても良い仕事を探します。
手を差し伸べたのはグローリアベルです。
「ユーコ。マリアはユーコの料理を食べたいと言っているんでしょ?なら、そうすればいいでしょ」
「ふみ。リア様のお言葉は正しいですわ。フ」
お嬢様は短縮呪文で側面に
それは言わずと知れた白桃の缶詰です。
病人へのお見舞いには欠かす事ができない逸品です。
「ジュエリア様!何を顕現なされたのですか?」
「これこそは理想の病人食、桃缶ですわ。その中身は
「んー。私は食べたことがないので判りません!」
「ふみ?ではこれを
「そね。チェルシー、全員分のお皿を持ってきて。わたしの毒味も必要だからあなた
「はい、お
チェルシーはよだれを飲み込みながら自分の幸運を歓喜します。
彼女の経験上、ルーンジュエリアの準備した食べ物にはずれはありません。
レアリセアもつばを飲み込みます。
グローリアベルのための毒見として口にした白桃の砂糖煮は二人の予想を超えた味です。思わずうなってしまいます。
ユリーシャはユリーシャでその味を喜びます。
「これは、」「凄い」
「おいしいです!」
歓声を上げるメイドたちを目にしたルーンジュエリアは何度も大きくうなづきます。
やはりジュエリアの判断に間違いはないですわ。これならきっとテリナも喜んでくれますわ。
けれどもその笑顔はグローリアベルを目にして薄れます。
彼女は桃缶を一口食べただけでフォークを置き、口をナプキンで拭きました。
リア様、何か問題がありますの?
侯爵令嬢はゆっくりと口を開きます。
「ユーコ。やはりあなたは愚かです」
「ふみ?」
「マリアはユーコの料理を食べたいと言った筈です。しかしこの桃缶はあなたの料理ですか?ただ皿に載せるだけなら、わたしがやっても同じです」
「そうですわ……。テリナの希望はジュエリアの料理。しかしこの桃缶はジュエリアの料理ではありませんわ。
リア様、ご指摘がなければジュエリアは大きな間違いをしでかすところでした。感謝いたしますわ」
ルーンジュエリアは
グローリアベルはそれを温かく受け入れます。
「いいわ。ユーコの妹ならマリアはわたしにとっても妹同然です」
「ふみー。それではジュエリアはテリナのために何をすればいいんですの?」
「それは簡単です。マリアのために新しいおいしい料理を作れば良いのです。例えばお姉ちゃん育成計画のような……、お姉ちゃん育成計画?あんた、そんな事もしてたの?」
「そうですわ!お姉ちゃん育成計画
姉は妹を喜ばせ、妹に慕われるために存在します。
ルーンジュエリアの行動指針は決定しました。
お姉ちゃん育成計画
「桃缶の様に甘い
そして病人に必要なものは栄養です。つまり甘くて栄養があり、子供が食べたがるものでなくてはいけません」
「甘くて栄養があると言えば砂糖と玉子ですわ。でしたらパンケーキかホットケーキですわ」
ホットケーキとは厚いパンケーキであり両者はイコールではありません。
そしてフライパンで焼くケーキは全てパンケーキだと言い換えることが可能です。
「確かにクレープも良いだろうとは思いますが、病気の子供にはもっとあっさりしたものが適当よね?」
「玉子と砂糖……。そうですわ!
「ジュエリア様。玉子と砂糖で作る
「ありますわ。この世のものとは思えないほどに美味しい
ルーンジュエリアはマリアステリナのために甘くて栄養がある料理を思いつきます。
玉子と砂糖で作った
それはお嬢様が知る最も甘い
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