099 標17話 出撃!ファイヤースターターですわ 4
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王都リーザベスは二重の城壁に囲まれています。
最終的には六重まで拡張される事が決定していますが遷都から四十年、今は五重目の城壁を建設中です。
第一城壁と第二城壁は王城敷地内にあります。
第三城壁内には王城を中心とした貴族区が存在します。
これは王城防衛を前提として区画整理されていますので、第三城壁内に居住している事と王家の信任が厚いとか貴族位が高いと言う事に関連はありません。
第三城壁内に居住する貴族の多くは領地を持たない王宮勤めの宮廷貴族です。
それは王城へ向かう大通り沿いに貴族ではない平民たちの商店が建ち並んでいる事からも判断できます。
第四城壁内は王宮北側に
王宮に向かって右側が左京居住区、左側が右京居住区です。
左右が逆の様に感じますが問題はありません。
区域の呼び名は国王陛下がご覧になって右か左かなのです。
右京と左京の間には中央居住区があり、第四城壁に囲まれたこれら四区域の外側に東西南北の四区が設定されており今も王都は広がり続けています。
領地持ちの貴族たちには広大な敷地の王都別邸を持つ者たちも多く、その様な貴族たちは王都の町外れに居を構えています。
フレイヤデイ侯爵家とサンストラック伯爵家はそれぞれ南区と東区に別邸を構えています。
目的はお嬢様の王子殿下への顔繋ぎに関する算段の打ち合わせです。
時刻の都合で昼食はグローリアベルと共に取るつもりです。
「やはり雪が積もれば寒くなるものですね」
「リア様。それではお昼にハコダテを作りましょうか?」
「ラーメンですか。塩と
「リア様は贅沢ですわ」
「もしそれ以上の贅沢を許されるなら薄着で過ごせる暑い部屋で息を吹きかけながらラーメンを食べる事はつまらなく考えます。目先の変わった美味しい物はありませんか?」
「熱いのが駄目なら冷やしはいかがですの?」
「冷やし?中華ですか?わたしはユーコの記憶を持っていますが基本的にウエルスでは酸っぱい物を食べません。
ウエルス王国周辺で知られている味は甘味、塩味、
これに歯触り舌触り口触りが加わりますがそれらは味に含まれていません。
そして重要な事は酸味が腐った味として嫌われている事です。
「では色物を用意しますわ」
「ん?ユーコ。色物って?」
「甘い味の冷やし中華ですわ」
「ああ、アップルの頬っぺたか。あれなら林檎味で美味しいわね」
お姫様は自分の記憶の中から必要な情報を探し当てます。
アップルの頬っぺたと呼ばれる冷やし中華の味は色物の枠を超えて飛び出し、誰が食べても外れ無しと言う美味しさを持っています。
グローリアベルは、あの味なら冷やし中華を初めて食べる家族たちも間違いなく美味しいと言ってくれる筈だと考えます。
二人の話に馬車に同乗するメイドたちが耳を立てます。
特にお付きメイドたちは毒見の名目でおすそ分けを貰う事が良くあります。
そしてこの二人が美味しいと言うものは間違いなく美味しいと経験から知っています。
素知らぬ顔で次は何を口にできるのだろうかと考えています。
ただしユリーシャだけは期待が満ちる明るい表情を隠しません。
「リア様。ジュエリアは色物と言った筈ですわ。アップルの頬っぺたでは色がつまりません」
「ですが
「ナポリタンの様なオレンジ色のたれを使った冷やし中華がありますわ」
「ユーコ!あれがあるの‼︎」
「ふみ」
「分かりました、それにしなさい。
ふふふ。そかー。あれがあるのかー」
小声でほくそ笑むグローリアベルにレアリセアとチェルシーは気が気ではありません。
お姫様が喜ぶのならそれは最高級に美味しい料理である事が確定したも同然です。
問題は自分たちが味見できるか、どれだけの量を食べられるかの二点だけです。
やがて馬車の向かう先にフレイヤデイ侯爵家王都別邸が見えて来ました。
お嬢様は侯爵令嬢に訊ねます。
「リア様。麺はジュエリアが用意した物を使いますか?」
ウエルス王国の小麦粉は中力粉です。
ルーンジュエリアは前世の知識を使ってグルテン除去でパンやケーキ用の晒し小麦粉を、グルテン添加で麺や団子用の強力粉を作りました。
この製法は既にフレイヤデイ侯爵家にも伝わっていますが、元々の小麦粉が違います。
中華麺はリアライズした既製品ではなく、ウエルス産の小麦粉を使うべきだと考えます。
この思いは、なあなあの、つうかあの、阿吽の呼吸でお姫様にも伝わります。
「麺の泉は当家でも複数種類を所有しています。当家の調理長の腕に期待しなさい」
「楽しみにさせて頂きますわ」
麺を打つ時に粉を練る方法は二つあります。
一つは調理台などの平台の上で
もう一つは鉢などの器の中で練るやり方です。
麺の泉とはこの練り鉢の一種です
内部にある
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ウエルス王国の西側に位置する竜魔王国。
その西端はほぼ真っ直ぐに海が押し寄せており、南から北に向かって暖流が流れています。
暖流に乗って合州王国ハンタストン付近まで一匹の海亀がやって来ました。
普通ならば潮の流れに逆らって南下すれば元々住んでいた暖かい海に戻る事ができます。
ですがその海亀は運が良くありませんでした。
古代峡谷国家プレノアがある大きな半島で囲まれた湾の中に迷い込んでしまったのです。
既に季節は冬。海亀は温もりを求めます。
迷い込んだ砂浜で空を見上げた海亀はソラの日差しにくつろぎます。
そしてそのまま
この海亀が持つ野生の感は自分が進む先に南の海がある事を教えていました。
ですがザラタンと呼ばれる種類のこの海亀には一つの特徴がありました。
体が大きかったのです。
海亀は腹這いで歩きますからその進行方向上にある全ての物は押し潰されます。
進路にある邪魔な家々を押し潰し、ひしゃぎ、粉々に砕いて行く魔の巨大海亀。
新たな脅威がウエルスに接近していました。
ルーンジュエリア達ははまだこの事実を知りませんでした。
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