090 標16話 ホラー男爵の冒険ですわ 2
ヨウガンドウム台高地を出発したバロン将軍はガルン山脈の先にある牧羊の町ボルストを目指します。
そこは港から家畜を船で出荷している大きく豊かな町です。
まずはヨウガンドウム台高地の目の前にあるアストラル山地を越えてウエルス王国フォリキュラリス辺境伯爵領に入ります。
そして巨大湖ホロビナイ
街道が
本来の目的はジュニア王女探索ですから海路よりも陸路を噂話でも聞きながら歩こうとか考えます。
捜しているシンディはビッフェのフォリキュラリス辺境伯爵邸でビビッドビビッドしているのですが、それを知らないバロンには他の選択肢がありません。
今バロンは出発早々、途中の町ガイルで足止めを喰らっていました。
理由はガイルの先にあるアストラル山地で神聖なる神の儀式が行なわれているからです。
バロンの道行きは二十年に一度行なわれる祭事に運悪くぶつかってしまったのです。
この祭事は二十年に一度末尾が二十の倍数年だけ行ないます。
そしてゼロゼロ年だけは行ないません。
つまり百年間に四度しかこの祭事は行なわれません。
バロンは自分の運の悪さを嘆きます。
予定を思案しながら山地を眺めつつパンをかじるバロンの元へ、この町を治める町長が訪れます。
バロンの名前を耳にして助けを求めに来たのです。
町長であるロイ・ロッキーは自分の秘書を兼務する、この町の書記長チエルネンコとの二人連れでやって来ました。
彼はチエルネンコから受け取った一枚の似顔絵をバロンに渡します。
バロンは似顔絵を軽く目にした後で町長に訊ねます。
「町長。この男は誰だ?」
「この男はこの町の大工の棟梁でレイガンと申します。彼は山の民とこの町の間に結ばれた掟を破り、入山した為に山の民に捕縛されました。一緒に禁を破り、逃げ帰った者の話ですとその際に投石に当たって大怪我をしているようです。
どうか彼を助け出して頂けます様にお願いいたします」
「話は分かった。しかし、そ奴はなんの為に山へ入ったのだ?」
バロンの疑問も尤もです。
祭事の期間は一か月ほどの様です。
山の民と町の間に結ばれた掟と言う事は部族同士の取り決めであると言い現わす事もできます。
そのルールを破った方が悪いのは間違いありません。
話を聞くとレイガンは掟の期間を忘れ、山に木材を切り出しに行ったのでした。
「疑問に思われる事も当然でしょう。
この祭事は四年に一度行なわれておりまして、入山禁止は二十の倍数年だけです。しかもゼロゼロ年は入山可能です。
今年は八十年ですから、二十年振りの入山禁止になる訳です。開き直って言いますと、二十の倍数年は必ず誰かがパチンコ銃で撃たれます」
「ん?パチンコ銃?なんだ、それは?」
「二股の木の棒に革紐を張り、棒のしなりで玉を飛ばす武器です。おもちゃの様な物ですが、山の民が使うと弓矢の代わりに鳥を打ち落とす事さえ可能です」
「うむ。つまりレイガンが撃たれたのは防ぎようがない事故だったと言う訳か」
「はい。四十年後の末尾二十年にはまた誰かが撃たれたとしてもおかしくは無いと思っとります」
バロンは考えます。
レイガン救出の為に自分が出ていく理由が見つかりません。
「こう言ってはなんだが、山の民を呼び出す事は出来んのか?
例えば、山のふもとから呼び掛けるとかだ」
「実は、そう言った事ができぬ理由があります」
「ほう、何かな?」
町とは無関係のバロンに話を持ってくるくらいです。
相手にはそれなりに筋が通った理由があるのでしょう。
ですが、その理由がバロンにとって筋が通っているかどうかは別問題です。
まずは話を聞いてみようと考えます。
「入山禁止の祭事では、彼らが敬う山の神がそのお姿をお見せになるのだそうです」
「山の神だと?」
「はい。全身に瑠璃色の鎧をまとった巨人という話です。私どもは山の民とは友好な付き合いを続けており、彼らを不快にする真似などをしたくは思いません。ですので山の中で騒がしくあばれたいとも考えません。
そこで町とは無関係であり、十分な実力を兼ね備えたバロン様のお力をお借りしたいのです」
「レイガンを救出に向かった時点で町との関わりを疑われるのではないのか?」
「向こうにもレイガンの友人は多く居ますし、我々との仲を台無しにはしたくないでしょう。
早い話、向こうも困っている筈だと考えております」
町長の説明が正しいのならば、十分に納得できる理由です。
次の話題はバロンに対する報酬です。
彼の望みは一日も早いガルン山脈への到着です。
「一つだけ聞きたい。儂が祭事期間中にアストラル山地を越える事は可能か?」
「レイガンを連れて一度こちらへ戻り、もう一度山に入るのでしたら私どもが邪魔立てする事はございません」
「レイガンは、――何処にいるのか見当はついているのか?」
「あの山を越えるには峠が二つあります。その間にある谷に巨人は姿を現すそうです。山の民も巨人を崇めてそこに集まるようです」
「道なりに山を越えれば必然的に出会える訳か。
もしも万が一、儂がレイガンと会う事叶わぬならどうすべきだ?」
「その場合は祭事が終わったと言う事でしょう。そのまま通り抜けて下さり結構です」
「そうか。山に入れば必ず襲われると言う事だな?」
「左様です」
「話の内容は理解した。少し考えさせてくれ」
「よろしくお願いいたします」
町長ロイは書記長チエルネンコと共にバロンの元を離れます。
バロンは巨人について考えます。
「この辺りで巨人と言えばトロールであろうな」
トロールは山奥に住む魔人種の巨人族です。
成人の平均的な身長は二十メートル程で全身に金属製の鎧を着込み、顔も面で隠しています。
青い鎧のトロールと聞いてバロンが思いつくのはその一族のある勇士です。
かつてバロンはその男と対戦した事がありました。
はっきり言ってかなりの強敵でした。
単なる立ち合いでしたので事無く終わりましたが、もしも実戦であったとしたらバロンは無事には済まなかったでしょう。
「やはり青い巨人と言うのが拙い。普通に思い付くのが蒼の死神ゴセンしかいない」
暫らくの間バロンは、道路脇の低い石垣に腰掛けて物思いにふけります。
が、ふいに自分を呼ぶ声に気付きます。
この町の住人らしき子共が一人、バロンを見つめて立っています。
年の頃は七つか八つ、身なりは悪くありません。
「どうした?儂に何か用か?」
自分に呼び掛けていた少年に訊ねます。
すると答えが返ってきます。
「おじさん。レイガンおじちゃんを助けて下さい。お願いします!」
「坊主は誰だ」
「ぼくはロッド・ロッキー、おじいちゃんは町長のロイ・ロッキーです。お願いです。おじちゃんを助けて下さい」
「そうだな」
バロンにとってはある意味、願ったり叶ったりです。
それはどう言う事なのでしょうか?
レイガンを助ける理由は自分にはありません。
これは頼んできた相手が大人だからです。
けれども今度は子供がお願いして来ました。
ならば助けに行くのが、できる大人と言うものです。
この辺に人間種と魔人種の差はありません。
自分を納得させられる理由があればそれでいいのです。
時刻はまだまだお昼前です。
「道案内は頼めるのか?」
「え?あ、はい!」
日暮れ前に帰って来れるだろうか?いざとなれば子供とケガ人の二人を担いで儂が夜道を走ればいいわい。
いざ歩くと少年の足は自分よりもかなり遅いものでした。
「うわー!すんごーい、すんごーいー!」
「こら。足で暴れるな」
左肩に担ぎ歩いて山の奥へと向かいます。
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