069 標12話 ホークスの大決闘!ジュエリア対ゴーレムジュエリアですわ 5
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竜魔王国は五つの国からなる連合王国です。
それぞれの国は国家元首として大将軍を置き、竜魔王国代表国家元首として天空魔竜エクスバーン大王が存在します……と、諸外国には発表しています。
実はそれぞれの魔人種や魔獣たちの中にも独自の国を建てている存在があります。
竜魔王国としては国内に多数あるそれらの国も存在を認めているのですが、人間種には、国に王は一人だけと言う独自の文化があります。
だから面倒事を封じる為に、竜魔王国は連合王国であり国家元首は天空魔竜大王である、と公言しています。
連合王国なのだから、領土内に幾つの国が存在しても問題ないと言う開き直りです。
竜魔王国の中央部に巨大な湖を中心として湖水都市国家ゼニヤがあります。
その国土は高い山脈に囲まれた湖を囲む平地と湖に浮かぶ四つの島です。
天空魔竜大王の居城はその中でも一番大きな島にあります。
そして今その城の中に入ろうとする一人の冒険者がいました。
頭は黒髪、顔はもじゃもじゃの黒ひげを蓄えた革鎧のヒューマです。
竜魔王国内にも人間種は多く居住しています。
ですが登城しているこの冒険者は人間ではありません。
城の正門左右で警備するオーガの騎士二人が交互に彼に話しかけます。
「バロン将軍。随分といつになく厳めしい顔をされていますな」
「うむ。転進ではなく敗退をしてきた」
「はっはっはー。バロン将軍もご冗談がお上手で」
「本当だ。グラウンド・キャノンと言う最新兵器を授けられていたのだがなー。やられてしまったわい」
「なんと!あのバロン将軍が!」
「くふふ。儂などはそれほどでもない。現に今、大王陛下に呼ばれてしまっているくらいだ」
むさ苦しいヒューマの冒険者は握りこぶしで口元を隠すと、少しの間考え込みました。
ですがすぐに顔を上げます。
「陛下を待たせるわけにもいかぬからな。通るぞ」
「「は!」」
バロンは真っ直ぐに謁見の間へ向かいます。
城その物の大きさもありますが、大型魔獣の通行も可能な廊下は人間形状だと突き当りが見えません。
すれ違う衛兵たちはバロンの歩みを邪魔せぬように通路外に立ってその行進を見守ります。
到着したのは巨大な両扉を持つ広間の前です。
「バロンだ」
大扉左右を守る騎士の一人が潜り戸の小窓を通して中の騎士と会話します。
入室できるのは許可が下った
バロンは謁見の間に通じる巨大な大扉の横に控えます。
片側一枚の大きさは高さ二十メートル、幅十メートル。
大型魔獣の謁見などもたまにある話ですので、それに対応できるよう天井も廊下も不必要に巨大な造りとなっています。
竜魔王国では人間種との共存の都合で魔人種や魔獣たちが人間種の大きさや形態を真似る事が一般的ですが、その全てが変身能力を持つ訳ではありません。
どうしても城内には入れない巨大種は外の広場で謁見します。
「バロン将軍、入室の許可がおりました。扉中央への移動をお願いいたします」
「うむ」
バロンが二つの大扉中央に立つと暫くしてそれらが内側へと開いて行きます。
そして入場を告げる呼び出しの声が謁見の間に響きます。
「バロン将軍!只今参上ー‼︎」
扉がそれなりの大きさですから室内もそれ相応の広さがあります。
幅は二百メートル、奥行き四百メートルくらいでしょうか?
その中央に二人の人物が立ち、遥か奥にある玉座では黒長髪黒鎧の王が足を組み頬杖を突いています。
バロンが歩み進むと摂政スペースウォーズ征華大将軍と話し込んでいたのは征夷大将軍ポルターガイストの配下であるハスラー常任将軍でした。
常任将軍が一般的な軍を率いる将軍です。
そして竜魔王国は多種族国家である事が理由で種族差別と混同しない様に、身分差に関する扱いはかなりラフになっています。
その二人に近づいたバロンは気が付きました。
ハスラーが話し込んでいたのはスペースウォーズではありません。
宙に浮かんだ身長五十センチメートルほどの女の子の縫いぐるみです。
四本の金髪縦ロールに大きなリボンを一つ飾っています。
纏うドレスは胸元が白い、ピンクのワンピースです。
ですがその高貴な姿は絶対者のオーラをまとっています。
その縫いぐるみ人形はバロンを見つけると、言葉を掛けました。
「バロン。今回の闘いは散々だったわね」
「は。面目次第もありません」
縫いぐるみですから目も口も縫い付けたキレです。
しかしその耳障り良い美しく澄んだ声を耳にしたバロンの身体は強張ります。
竜魔王国では強さが地位に繋がります。
エクスバーンは五人の大将軍が揉め事を起こした時に力で平定できるからこそ大王なのです。
その実力はバロンの遥か上に存在します。
「率直に訊くわ、バロン。ノートに敗退した原因はなーに?」
「恐れながら……、強破壊力エンチャント兵器の不足が原因かと」
「それは本当なの?」
「は?」
「本当に武器の不足が原因なの?」
視線の高さは同じです。
身長差から言うと自分が見下ろす立場です。
しかしバロンは自分が見下ろされている感覚を払拭できません。
頬に汗が流れます。
「は!それに間違いはございません!」
「判ったわ、バロン。こちらに来て」
エクスバーンは右腕を真横に挙げました。
バロンはそちらに目をやりながら宙に浮かんだ縫いぐるみ人形へと歩み寄ります。
「召喚!」
「これは……!」
エクスバーンの声で天井から鞘に入った一振りの長剣が落ちて来ます。
淡い光に包まれたそれはゆっくりとバロンの目の先まで下りてくるとその高さで止まりました。
未だその力は不明ですが、天空魔竜エクスバーンの提示する武器です。
只の剣である筈がありません。
「この剣の銘はシナノ。たった今ハスラーが持って来たポルターガイストの最新兵器よ」
「兵器?でございますか?剣が?」
「そうよ。まずは手に取って自分の目で確認しなさい」
「は。失礼いたします」
バロンは宙に浮かんだ剣を鞘ごと鷲掴みます。
そしてその刀身を鞘から抜きました。
「――これは……。なんと言う見事な剣だ」
右手で握った剣を立ててその刃を見ました。
握りが一つなのに刀身は二つに見えます。
その先に目を向けると切っ先は二本であるにもかかわらず、刀身は一本です。
カメラレンズのミラージュフィルターが最も近い表現かも知れません。
次にバロンはその腹を見ました。
握りは一つなのに剣腹は三本、切っ先は三本であるにも関わらず剣腹は二本です。
バロンは最近目にしたばかりのもう一振りの剣を思い返します。
大勇者ノートが持っていた剣も素晴らしいものでした。
それは空をも断ち裂くと言われた、とあるフェンリルの牙から削り出されたものです。
しかし今自分が手に持っている剣は、ノートが持つ断空の剣に勝るとも劣らずと確信します。
「バロン。あなたにはその剣にエンチャントされているものが判るかしら?」
「は?エンチャント、でございますか?」
「分からなくても気にする事は無いわ。わたしにも全く分からなかったわ」
剣のあまりの素晴らしさに目を奪われていたバロンはそこでやっと気が付きます。
自分が目を魅かれていたのは刀身の素晴らしさだけではありません。
その隠された能力だったのです。
それが判ったバロンは思わず声を立てました。
「おお!」
それは驚きの声でした。
何故なら、今自分が手に持ち眺めている剣が普通ならこの世に存在しないものだったからです。
この世に存在しない筈のものが、何故目の前に有るのか?
つまり今まではこの世に存在しなかったものだと言う事です。
「この剣には魔法はエンチャントされておりません!」
「ふはははははははは!流石だぞ、バロン‼︎」
遥か彼方の玉座に腰掛ける黒衣の王が立ち上がって手を三度はたきました。
「俺にすらそれは見抜けなかった!
ではバロン!その剣にエンチャントされているものはなんだ‼︎」
「恐れながら、スキルでございます。斬撃二倍、打突三倍、いかがでございますか?」
「上出来だわ、バロン。ストーンピラー!」
エクスバーンは両腕を掬い上げる様に振ります。
バロンの左右に一対の巨大な石柱が建ちました。
「バロン。その剣に付加されているスキルを試しなさい」
その声にバロンの顔が曇ります。
確かにシナノは素晴らしい剣の様です。
しかし斬撃二倍、牙突三倍程度のスキルであれば自分は既に持っています。
残念ながら試し斬りを行なう必要を感じません。
「申し訳ございませんエクスバーン様。この程度のスキルであれば、儂は既に持っております」
「待たれよバロン将軍!」
しかしここで待ったの声が掛かります。
常任将軍ハスラーです。
「ポルターガイスト閣下の手による作がその程度の物だと思われますか?」
「違うのか?」
自分が読み取れなかった何かがまだ残っているのか?
バロンはグラウンド・キャノンを思い出します。
スターライト・シャワーを思い返します。
確かにポルターガイストは自分の三歩も四歩も先を歩いています。
「お試しあれ!」
「うむ。試させて頂く!」
バロン将軍は右の巨大石柱に向きました。
そして高く飛び上がると袈裟切りと逆袈裟、最後に上段の剣をそれぞれ二閃します。
それらの斬撃はバロンの所有スキルでさらに倍増します。
「おお。これは!」
「見事だわ、バロン!」
バロンの剣を受けた石柱が粉砕して崩れます。
実際に巨大石柱が受けた斬撃はそれぞれ八筋ずつだったのです。
(馬鹿な!儂のスキルを更にスキル強化すると言うのか……)
バロンは手に持つ剣を腹側から見ます。
そのエンチャントされたスキルの効果で切っ先が三本に見えます。
(ではもう一つのスキルも……)
バロン将軍は振り返って残った石柱に向き直ると高く飛び上がり、剣で突き続けます。
彼の所有スキルは打突二倍です。
しかし実際に石柱が穿った穴はその振るった剣の六倍です。
これにはスペースウォーズも驚嘆の思いを隠しません。
「まさか……。バロン将軍ほどの実力者を更にスキルアップすると言うのか。それは既に魔剣にあらず!まさに魔法兵器だ‼︎」
「バロン将軍!それこそが二連三段ソード、その真の力!」
まるで我が事の様にハスラーはシナノの力を讃えます。
天空魔竜ですらその剣の力を疑いません。
「良し!バロン。貴様にシナノを授ける!これでノートに勝てるか!」
「は!必ずや!」
バロンの顔に笑みが浮かびます。
願いは一つ、ノートとの再戦です。
けれどもその願いはかないません。
何故なら竜魔王国として貴重な重鎮を無駄に失う訳にはいかないからです。
「バロン。申し訳ないけれども、あなたには別の事を頼みたいの」
「は?ノートとの再戦を果たすのではないのですか?」
「違うわ。その剣は、万一ノートと出会った時の為の用心よ。あなたは必ず雪辱を果たそうとするでしょ?」
「やらんとは、言えませぬな」
「あなたならそんな強敵とも戦うわ。逆にあなたで無ければそんな強敵とは戦えない。だからシナノはあなたの物よ」
「感謝の極み」
少なくともノートへの敗戦は自分の評価を下げてはいない。まだその信は失せていない。
バロンはそれを理解しました。
「そしてあなたにお願いする本当の仕事は王女捜しよ」
「王女捜しでございますか?」
人探しと言う事は行方不明者がいると言う事です。
失踪した王女とは誰の事でしょうか?
バロンは意外な成り行きに驚きます。
「そうよ。マスシプーラ家の王女を捜して欲しいの」
「まさか……ジュニア王女でございますか?」
「ええ」
いたなー。
それがバロンの感想でした。
ローパーは双子葉系の植物魔獣です。
マスシプーラの成長過程だと、まず双葉が出ます。
この双葉には捕虫葉となる口があり、会話ができます。
マスシプーラ・ローパーはこの幼児期に母親から色々な事を教わります。
その後、双葉の間から目が出たローパーは捕虫葉を捨てて、双葉で羽ばたいて永住の地を探します。
本葉が出たローパーは双葉が無くなりますので飛行移動ができなくなります。
根を使った移動ができない種類のローパーはこの本葉が出る前の飛行が唯一の移動期間になります。
そしてマスシプーラ・ローパーは根による移動ができません。
マスシプーラ家のジュニア王女は行き先の方角すら告げずに飛び立ってしまったのです。
「儂の口から言うのも不敬ですが、ジュニア王女が消息を絶ってから十年。既に枯れてしまっているのではないかと」
「それがそうでもないのよ」
「と、申されますと?」
「実は、ジュニア王女探索を続けている部隊の一部がディオニア女王の知らないマスシプーラ家の子孫を見つけているの」
ここまで説明されればバロンにも合点が行きます。
ジュニア王女生存の可能性が極めて高くなったようです。
「考えられるのは古くに別れた傍系。あるいは最近の行き先知れずでございますか?」
「そうよ、そう考えているわ。そしてその可能性が一番高いのはジュニア王女よ」
「ジュニア王女が名を変えたと言う事でしょうか?」
「あり得ない事ではないわ。だからバロン。あなたにはそれを確認してもらいたいの」
「は!それでもしも、大勇者ノートが儂の前に立ちふさがる時には?」
「シナノを使いなさい」
「は!」
バロンは天空魔竜エクスバーンとの謁見を終わります。
そのバロンに続いてハスラーも部屋を後にします。
「バロン将軍!」
「何用かな?ハスラー将軍」
「ポルターガイスト閣下は貴殿が命と引き換えてでもノートへの雪辱を果たすと考えておられる。
その辺りはいかがなものだろうか?」
「雪辱か……」
確かに雪辱かも知れぬ。
だが戦士として、剣士としてノートと雌雄を決してみたい。
その思いにも間違いはありません。
「その推測に間違いはないかも知れんな。積極的に奴目を捜そうとは思わぬが、もしも出会ったならば儂は命を捨てるだろう」
「ふふ。左様ですか。インベントリー」
ハスラーは空間収納から一つの玉を出しました。
直径は五センチにも足りません。
「ではもしも命を捨てればノートを倒せる武器があると言ったらどうかね?」
「なんだと?」
右手に載せたその玉をバロンの胸元に差し出します。
「この魔法兵器の名はウルトラサイン。使えば間違いなくバロン将軍はお命を亡くすだろう。だが、それと引き換えて確実に、」
「ノートを倒せるのだな?」
バロンはその玉をつまみ上げました。
抗魔石の陶器玉に似てるな。
そんなたわいもない事を考えます。
「あずかろう」
「使い方は地面に叩きつけるだけだ。武運を」
歩き去る勇猛バロン将軍の後ろ姿をハスラーは黙って見送ります。
願うのはその無事な帰還です。
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フォリキュラリス辺境伯爵領領都ビッフェに着いたフラバとセフィロタスは真っ直ぐにフォリキュラリス邸へと向かいました。
玄関フードを抜けた二人を出迎えたのはロビーに置かれた大きな植物魔獣の鉢植えです。
「めしーめしー」
葉っぱをくねらせながら喚き続ける植物魔獣にセフィロタスは声を掛けます。
「シンディ。ただいまー」
「おうセフィーロ。腹減ったー。めしー」
「なに?ご飯を貰えていないの?」
「ちゃうちゃうちゃうー。大きくなりすぎて来たから食事制限中だぜー。水も控えて乾燥中だー」
そう言われたセフィロタスがシンディを見ると何枚かの葉が一メートル半ほどになっています。
これは確かに危険です。
具体的に言うと、葉が大きいのなら口も大きくなって大きな餌を食べられるようになります。
「んー。頑張って我慢してね。応援するわ」
「応援なんかいらねーぜー。めしくれー。めしー」
セフィロタスにとっては久しぶりの親友との再会です。
毎日会える恋人なんておっぽり出して女同士の会話に花を咲かせます。
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