066 標12話 ホークスの大決闘!ジュエリア対ゴーレムジュエリアですわ 2
領都ホークスにあるサンストラック邸も秋の気配が深まりました。
山にも中庭にも萩の花が咲いています。
そんなサンストラック邸の中庭に品の良い貴婦人の笑い声が響き続けます。
「おーっほっほっほっほっほ」
ゴーレムジュエリアを接待しているのはユリーシャです。
紅茶を提供していますが相手を満足させる一杯を
すでにこれが四杯目です。
「おーっほっほっほっほっほ」
ゴーレムジュエリアは鉄扇で口元を隠しながら笑います。
その華美な装飾は鉄扇である事を他人に気付かせません。
「おーっほっほっほっほっほ。ユリーシャ。お前のお茶はこの程度なのですか?」
ティーカップを持ち上げて香りを聞き、唇を湿らせます。
そしてメイドに重ねて訊ねます。
「おーっほっほっほっほっほ。お答えなさいユリーシャ。お前のお茶はこれで終わりなのですか?」
ですがメイドは答えるべき言葉を持ちません。
紡ぐ内容は謝罪文です。
「申し訳ありませんゴーレムジュエリア様。私では貴女様をご満足させるお茶をご用意できません」
「おーっほっほっほっほっほ。その軽い頭で考えなさい。
大いなる我が創造主マスタージュエリア様はこれよりも美味しいお茶をご自分でリアライズになれるとは思いませんか?」
確かに。
メイドは言われてその事に気が付きます。
あえて言うなら自分の主人にできない事があるとかを考える事ができません。
「では何故大いなる我が創造主マスタージュエリア様はお前にお茶を
分かる判らない以前に考えた事がありません。
貴族だからメイドの
しかし考えてみればおかしな話です。
ルーンジュエリアなら短縮魔法で一瞬のうちに紅茶をリアライズする事ができます。
「大いなる我が創造主マスタージュエリア様は既に味わった最良のお茶をご自分の魔法で顕現できます。しかしそれは再現にすぎません。更に上の、更に美味しいお茶を味わうには誰かが
ユリーシャ。大いなる我が創造主マスタージュエリア様はお前ならそれができるとお考えなのです。
もう一度訊ねましょうユリーシャ。お前のお茶はこの程度なのですか?」
メイドは考えます。
目の前に入る貴婦人はゴーレムジュエリアです。
それは自らの主人であるルーンジュエリアをベースにして作られた好みも判断も全く同じ存在です。
ならば自分の役目は目の前の貴婦人を納得させる事です。
「しばらくお待ちくださいゴーレムジュエリア様。
「おーっほっほっほっほっほ。駄目ならば諦めなさい。できるならやり直しなさい」
そう言われたユリーシャは自分の主人を思い出します。
ルーンジュエリアは相手に無理をさせる事を嫌います。
それは時間の余裕と兼ね合う事が多いのですが、裏を返すと相手ができると信じている事に他なりません。
だからメイドは決心します。
ジュエリア様のご期待には応えましょうと。
「失礼いたします」
「おーっほっほっほっほっほ。おーっほっほっほっほっほ。おーっほっほっほっほっほ」
とかなんとか決意を新たに紅茶を
茶漉しの葉を茶こぼしに捨ててポットのお湯とティーカップを温めます。
お客様はお一人ですからティーポットを使っていません。
良く分からないままにマットを二枚にして、お湯を熱くしてみます。
蒸らし方が悪かったのか、時間が合っていなかったのか、味見をすると言う一点を思いつきません。
「おーっほっほっほっほっほ。
「失礼いたします」
そう答えたメイドが茶こぼしにカップの残りを捨てていると、お客様からお声が掛かります。
「おーっほっほっほっほっほ。お待ちなさいユリーシャ」
メイドは手を止めてゴーレムジュエリアの言葉を待ちます。
「おーっほっほっほっほっほ。お前は何が悪いかを分かっていますか?」
「恐れながら、自分自身の未熟です」
「おーっほっほっほっほっほ、
軽く焼き温めた金属板の上に茶葉を広げて、気持ち乾かしなさい。けして
驚いたユリーシャが茶葉を覗くと確かに
この味の差に気付いたのかとゴーレムジュエリアに
しかしこの貴婦人が気付くのもある意味では当然の事です。
そのベースはルーンジューニ、十二歳のルーンジュエリアです。
紅茶は基本的に香り付けされていますが、お嬢様は混ぜ物の味を好まれません。
普通とは少し違ったご令嬢です。
「おーっほっほっほっほっほ。無駄な時間でしたね。最初からこのお茶を
大いなる我が創造主マスタージュエリア様がお目覚めになった時同じ物を用意しなさい。お褒めの言葉を頂けるでしょう」
「はい、ありがとうございます」
「おーっほっほっほっほっほ。おーっほっほっほっほっほ。おーっほっほっほっほっほ」
例え品の良い、鈴が転がる様な美しい声であっても目立つ事には変わりありません。
聞き慣れない女性の声を耳にした第一夫人が中庭へと足を入れます。
そして見知らぬ女性の存在に気付きました。
誰かへの客人かは分かりませんが、それはそれです。
もしも家人への客であるなら挨拶しない方が非礼です。
「何事です、騒々しい」
そう言って腰掛ける女性に目を移します。
相手は自分に気付いて席を立ちます。
だからグレースジェニアは相手が自分を知っており、貴族位が下であると判断します。
「ユリーシャ。こちらのお客様はどなたですか?」
「はい、グレースジェニア様。こちらの方は……」
「おーっほっほっほっほっほ。これはこれはグレースジェニア様。本日もご機嫌よろしゅう。恐悦至極に存じまする。おーっほっほっほっほっほ」
まだ謎の貴婦人は第一夫人に声を掛けられていません。
下の方から先に声を掛ける事は礼儀上好ましくありません。
ですがまったく知らない相手ですから貴族位の上下が不明です。
もしかしたら自分の先程の判断が間違いであったのかも知れません。
取り合えずグレースジェニアはそれを置いておきます。
「丁寧なご挨拶痛み入りますがそれ程機嫌は
「おーっほっほっほっほっほ。それはそれは、残念この上なく思いまする。おーっほっほっほっほっほ」
「それで?貴女は
「おーっほっほっほっほっほ。妾こそゴーレムジュエリア。大いなる我が創造主マスタージュエリア様にお創り頂いたゴーレムであります。おーっほっほっほっほっほ」
ここでグレースジェニアは対応に困ります。
何故なら相手はどう見てもゴーレムではありません。
ひとまずは人間相手として対応します。
「ゴーレム?
ユリーシャ。何故こちらの女性を我が屋敷に招き入れました?」
「いえ、グレースジェニア様。こちらの方はそのお言葉の通りゴーレムです」
味方である筈のメイドからもダメ出しをされました。
そこで元凶を捜します。
「ジュエリアは
「おーっほっほっほっほっほ。大いなる我が創造主マスタージュエリア様は妾をお創りになるという偉業を成し
「ゴーレムジュエリア。私は貴女をどう呼べば良いのでしょう?」
慣れ切っている上に揉め事ではありません。
かと言ってこの微妙な雰囲気をどう扱えば良いのでしょうか?
グレースジェニアは悩みます。
「おーっほっほっほっほっほ。大いなる我が創造主マスタージュエリア様との混同を避ける為にもゴーレムジュエリアとお呼び下さい。おーっほっほっほっほっほ」
「リナ、シオン。シルバステラ様、ルージュリアナ様、あとジュエリアを除く子供たちを呼んできなさい。面白い物があります。
いいですねゴーレムジュエリア」
「おーっほっほっほっほっほ。是非もない事。
しかしながら拙速ではございませぬか?信を問えるか定かではありませぬでしょうに」
「私はジュエリアの母の一人ですよ。ユリーシャ?
第一夫人はお辞儀だけで席を外そうとするメイドを呼び止めます。
そのメイドは自分が使える主人よりは人付き合いの機微に
だからこう願い出ます。
「申し訳ありません、お許し下さい」
「おーっほっほっほっほっほ。ユリーシャ。先程のお茶と同じものをグレースジェニア様の為にご用意を。
大いなる我が創造主マスタージュエリア様の眠りを妨げる事はおやめなさい」
「
「おーっほっほっほっほっほ、かまいませんとも。
おーっほっほっほっほっほ。おーっほっほっほっほっほ。おーっほっほっほっほっほ」
ゴーレムジュエリアの思考はルーンジュエリアとほぼ同じです。
お嬢様の基本的スタンスは、やってしまってから後悔するです。
お嬢様はまだ八歳の子供なのです。
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