063 標11話 降誕!パワード・ルーンジュエリアですわ 7


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 世界は広大です。

 人々の声でにぎわう地域などごく一部でしかありません。

 ほとんどの大地と海は静寂に包まれています。

 ルーンジュエリアの日常もこのファンタジー世界の一欠片にすぎません。

 お嬢様がベストマンフォルテと対戦していたのと時を同じくしてウエルス王国内で別の闘いがありました。

 現・大勇者である大帆船座アルゴ星門守護者スターゲーターノートと竜魔王国の勇猛バロン一人将軍との闘いです。


 大勇者ノートはウエルス王国の人間ではありません。

 諸国を放浪して魔人種の侵攻から人間種を守っています。

 現在のウエルス王国には勇者がいません。

 だからノートはここ数年、ウエルス王国付近を守っています。


 対するバロン将軍は竜魔王国の一人将軍です。

 一人将軍は一騎当千を意味する称号です。

 そして竜魔王国では貴族を意味します。

 その力は勇者に匹敵します。

 早い話、竜魔王国がその気になれば人間種の国なんかは容易くはなくても、間違いなく制圧されます。

 それが数百年の間、均衡状態を保ったままです。

 何故なのでしょうか?


 魔人種は個々がとても強い存在です。

 だからつるむ事を好みません。

 では何故魔人種たちは国を作るのでしょうか?

 理由は簡単です。

 国家を宣言しておかないと人間種の侵略に合うからです。

 ここは俺達の国なのに魔人種に侵略されている。奴らを滅ぼして国土を取り戻そう!

 主にそれを言い出すのはヒューマです。

 だから魔人種たちは仕方なく国家を作り、領土を宣言しています。

 本気で他国侵略を考える魔人種は数百年に一度現れる大魔王くらいです。


 ここで問題となるのが勇者の存在です。

 魔人種たちは面倒だから人間種と戦争なんかをしたくありません。

 けれど、それを放っておくと開拓と称したヒューマの侵略が始まります。

 だからそれを迎撃します。

 脅しを込めてちょっとだけヒューマ側の国内まで追い立てます。

 勇者がいなければ魔人種側が自国内まで転進して終わりです。

 しかし勇者が居た時は、話がそう簡単にはいきません。

 大勇者ノートとバロン一人将軍との闘いもその一つでした。



「くそ!一体どこから攻撃しているんだ‼︎」


 ノートはバロンの光魔法術に苦戦していました。

 その魔法術の名はスターライト・シャワー。

 絶対にバロンが居る筈の無い方向から熱光線が飛んできます。

 その威力は大型ファイアーボール相当であり、命中すれば身体強化しているノートにさえダメージを与えます。

 目標から外れた熱光線はその爆発で地面をえぐり、岩を砕きます。

 その発射元ははっきりしています。

 アーマードスケルトンであるバロン将軍が胸の中に隠している魔道具です。

 集団戦に使う事が多いため、魔法兵器に分類されています。


「直上‼︎」


 勇者の勘が頭上の予備反射に気付きます。

 慌てて飛び込み前転でその場を逃げると、太さ二十センチメートルの白い光束が真上から大地を穿ちます。


「早い‼︎」


 右後ろを振り返り身を引くと、今度はほぼ水平に通り過ぎた光束が彼方の森で木々を吹き飛ばします。

 バロン将軍が制圧を目的としていたボーヨー峠砦を防衛する事には成功しました。

 敵の敗北が決定している以上、大勇者ノートに深追いの必要はありません。

 しかし、ただ一つだけノートには不可解な点がありました。


「何故この魔法兵器による攻撃を砦に対して使わなかったんだ?」


 バロン将軍の目的は砦の占拠でした。

 ここを押さえておくだけでウエルス王国の竜魔王国侵攻に、砦奪回のひと手間を付け加える事ができます。

 そして今回は負けだったとしても後日ボーヨー峠砦の制圧を再開する可能性はあります。

 それ故に砦を壊す訳にはいきませんでした。

 ですが大勇者ノートは別です。

 勇者がいなくなればウエルス王国の竜魔王国侵攻に遅延が生じます。

 たとえ数年だったとしてもその平和は竜魔王国の民にとって素晴らしい贈り物です。

 だからこそバロン将軍は虎の子である魔法兵器を持ち出しました。


 不意に飛び出したバロン将軍と剣を打ち合わせ、ノートはその猛攻に苦しめられます。

 彼の正体はアーマードスケルトンですが、日常的には皮鎧で身を包んだむさ苦しい髭モジャ冒険者に変身しています。

 ノートとて人間種です。

 人の姿をしている相手には人の弱点を攻撃してしまいます。

 分かっていても意味のない弱点を突く、これがバロン将軍の策略です。


 剣戟のさなか、ふいにバロン将軍が変身を解き正体を現します。

 そして胸の奥に隠し持つ魔法兵器からの熱光線でノートを苦しめます。

 肋骨の隙間から撃たれるその威力は大型ファイアーボール相当です。

 例え大勇者でも当たれば痛い!

 どうと言う事は無いのは当たらない事が前提です。


「くはははは。ポルターガイスト様から賜ったこの兵器の威力はいかがかな?」

「ポルターガイストだと!あれもこれもそれも、すべてポルターガイストか‼︎」

「その通りだ!だからお前は、そのお力を頂戴した儂に苦しんでいるのだよ、ノート」


 征夷大将軍ポルターガイストの名はノートもよく耳にします。

 何よりも訳の分からない兵器で、あり得ない攻撃をしてくる恐るべき相手です。

 ノート自身はまだじかに見た事はありませんが、彼の作った武器を持って来た相手は全て強敵でした。

 だからこそその見た事も無い相手に畏怖を感じます。


 一方でバロン将軍もショートソードを打ち合わせながら考えます。

 互角に闘っている様に見えますが、ノートは大勇者の称号を持つ男です。

 このまま競り合えばやがて押し負けるのは自分です。

 スターライト・シャワーは優れた魔法術ですが、どちらかと言えば遠距離攻撃用です。

 その破壊力は致命傷を与えるには今一歩です。


(強破壊力エンチャント兵器を用意すべきだったか……)


 超巨大破壊力の魔法兵器ならば手持ちはあるが、ノート相手では使い様がない。

 バロン将軍は再び距離を取るとスターライト・シャワーによる遠距離攻撃を再開しました。

 取り敢えずは大勇者の持久力を削ぎ取る事が目的です。


 相対あいたいするノートは勇者の勘で熱光線を交わし続けます。

 それでも数度に一度はその直撃を体に受け、吹き飛ばされます。


(バロンの身体から出た光が空から落ちてくる。それは間違いない筈だ)


 ノートは雲が少ない、頭上にある青空を見上げます。

 その事が判っていても相手は雲の上です。

 対処の方法がありません。


(やはり奴の体の中の魔道具をどうにかするしかないな)


 大勇者はバロン将軍を捜し続けます。

 降り注ぐ光束による爆撃を交わしながらついに勇者はアーマードスケルトンを発見します。

 その熱光線発射の瞬間を目撃しました。

 バロン将軍を取り囲むように四枚の板が浮かんでいます。

 肋骨の隙間から放たれた複数の熱光線はその板に反射して空へと昇ります。

 そしてほとんど時間差なく落ちて来た同じ数の光束にノートは襲撃されます。


「くはははは。ばーれーたーかー!」


 人間の姿に変身したバロン将軍はにやにやとした笑顔で睨みつけます。


「だがお前の敗北に変わりはない。しかし見れば見るほど素晴らしい剣だ。もしもその剣を渡すと言うのならば見逃してやってもいいぞ。

 二分だけ待とう」


 ノートは考えます。

 もちろん自分の愛剣を渡すかどうかではありません。

 バロン将軍の胸の高さに二メートルほど離れて浮遊する四枚の反射板。

 その全てを一瞬に斬り捨てる必要があります。

 大勇者であるノートの剣速ならそれは難しい話ではありません。

 ですがそれは相手が回避行動をしない事が前提です。

 どうすればバロン将軍の隙を誘う事ができるのか?

 時間一杯の間、それを考えます。


「時間だ」


 変身を解き、スケルトンの姿になったバロン将軍が多数のスターライト・シャワーを撃ち出します。

 ノートが回避する前提の絨毯爆撃です。

 けれども不思議な事にノートはよけません。

 剣を構えたまま微動だにしません。


(ノートめ、万策尽きたか)


 バロン将軍は心の中で自分の言葉にスモールダブリュを七つくらいくっ付けます。

 そして彼が第二弾のスターライト・シャワーを撃とうとした時に大勇者が動きました。

 剣の一閃で四枚の浮遊反射板全てが切り裂かれます。

 そしてそれらは撃ち出された熱光線を跳ね返す事が出来ずに直撃を受けて爆発します。


「くそ!スペクトラム・リフレクターが‼︎」


 人間の姿に変身し、剣を最上段に構えたバロン将軍は全力でノート目掛けて駆け寄ります。

 ノートも迎え撃とうと剣を構えます。

 そしてバロン将軍が振り下ろした剣は、すっぽ抜けてノートの背後へ飛び去ります。

 この時、大勇者ノートに大きな隙が生まれました。

 バロン将軍はノートを羽交い絞めにすると空の彼方へ向かって飛び立ちます。


「オブジェクト・オー‼︎」


 超魔法兵器が起動します。

 オブジェクト・オーとはその被害を抑える為のシールド魔法です。

 天空の遥か、雲の上までを完全に閉鎖します。


「何をする!バロン‼︎」

「くはははは。ノートよ、さすがだ。だが儂も竜魔王国のバロンだ。お前だけは倒す!」


 そう笑うバロン将軍の首が切り離れます。

 それを見た勇者の勘が叫びます。

 二手に分かれた。奴には死ぬつもりなんかない!


「死ぬがいいノート。グラウンド・キャノン‼︎」


 勇猛バロン将軍の呪文詠唱で地中に置かれた超転移魔法兵器が起動します。

 その直径は百メートル。

 けれども、大きいから超転移魔法兵器な訳ではありません。

 バロン将軍自身は理解できていませんが、グラウンド・キャノンは三十秒間こちらからは何も送らずに向こうのものだけをこちらへ送る転移空間を作ると言う機能を持っています。

 それにどんな意味があるのかは、何度ポルターガイストの説明を受けてもバロン将軍には理解する事ができませんでした。

 けれどもあの征夷大将軍ポルターガイストが自信を持って授けてくれたのだから凄い魔法兵器だろうと言う事だけは信じています。


 バロン将軍の首がオブジェクト・オーの障壁を越えて脱出したのと同時にグラウンド・キャノンが発動しました。

 地面に展開した直径百メートルの転移魔方陣を経由してソラのフレアが立ち昇ります。

 オブジェクト・オーの障壁内部は地獄の炎に焼き尽くされます。

 振り返ってそれを見つめるバロン将軍の首、いいえ、その額から脂汗が流れます。


「なんと!これがグラウンド・キャノンか……」


 ポルターガイストの説明で炎を使った攻撃だとは知っていましたが、これほどの威力とは想像できていませんでした。


「くは」


 思わず笑い声が漏れ出します。


「くはははは!」


 障壁が消えた内部では土が水になって湯玉が湧いています。


「くはははははははははははは‼︎は?」


 バロン将軍は見ました。

 ドロドロに溶けた大地の上で誰かが剣を杖に片膝を突いています。

 あれは、まさか……。

 その相手と目があった気がします。

 首だけのバロン将軍は文字通りに飛んで逃げました。


 一方、大勇者ノートはそれを追いかけません。

 追いかける余力がありません。


「危ない所だった。今やられたら俺でも間違いなく死んでいるな」


 大勇者ノートは思います。

 次が有るとしたら一対一では駄目だ。

 あの二人と共に戦わなければ奴を相手に勝ち目はない、と。




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