062 標11話 降誕!パワード・ルーンジュエリアですわ 6
ルーンジューサーは目の前に立つ騎士の盾を見ます。
まだ試合前ですので前には構えず、左に向けて立てています。
その名はガルーダの盾。
エンチャントされている魔法は伝説の最上級神聖治癒魔法術ペナルティーキャンセラー。
全ての怪我や魔法攻撃、呪いを無効化すると共に、所有者限定ですが魂を冥府へ連れ去られていなければ死者さえ蘇生できます。
お嬢様の前世である地球にもガルーダと名乗る存在は知られていました。
まずはそれについて思い返します。
ガルーダの名前を聞いて最初に思い付くのは超大型太陽光発電パネル群です。
幾何学的に整地されたアシモフ大陸に整然と建ち並ぶ、その美しい姿です。
燦然と輝くハインライン太陽から燦々と降り注ぐその陽射しは、……。
(思い出すだけ無駄ですね。この立ち合いには意味がない情報ばかりです)
お嬢様は盾についての情報は諦めました。
次はハイランダー本人について思い返します。
お嬢様とて貴族の一員です。
貴族社会での付き合いに必要な他家の情報は丸暗記しています。
ハイランダー・オブ・オペラシティ=ミレニアム公爵家第一令息は五男四女の長兄ですが、養子です。
まだ子供がいなかった頃に公爵夫妻が旅先から連れ帰って来て家族としました。
この為もあってかハイランダー自身は公爵家の家督を継がないと公言しています。
サンストラック騎士団に入団したのもその辺りの都合の様です。
ですが家宝どころか国宝になってもおかしくない様な盾を抱えて入団した理由が判りません。
いえ、そこら辺は今は置いておきます。
お嬢様にとって最大の疑問はハイランダーはその盾を使わなくても不死に近い強靭な肉体を持っているからです。
何故ミレニアム公爵は自分の息子に無駄な荷物を持たせたのか、ここが不思議でなりません。
おそらくは目の前に立つ息子本人に聞いても言葉を濁されるだけでしょう。
他家の令嬢が訊ねるには家庭内の事情が関わり過ぎています。
教えてもらえると考える方が能天気だと言われるでしょう。
家宝の盾についてベストマンフォルテは魔法武器では無く魔道具だと言いました。
ならばエネルギー源として魔力石、いわゆる魔石が組み込まれている筈です。
しかし目の前にある盾には魔石が組み込んであるようには見えません。
お嬢様は魔力を視認判別できます。
使用者が魔石を持って触れていれば、そこから魔道具に魔力を供給できるのでしょうか?
そんな話は聞いた事がありませんが、目の前にいる盾士ならやりそうな気がしています。
この世界には多種の人間種がいます。
ウエルス王国だと貴族の名前は次の様になります。
個人名・オブ・個人家名=共通家名
平民だと次の様になります。
個人名・共通家名
しかしこれは略した表記です。
このファンタジー世界には多くの人間種がいます。
ですから正しい表記では名前に種族が入ります。
お嬢様の名前を正確に書くと次の様になります。
ルーンジュエリア・オブ・ハッピーレイ=サンストラック・ヒューマ
今更の話ですが、ヒューマが人間の種族名です。
お嬢様はハイランダーの持つ膨大な魔力を見つめます。
その魔力量は今のルーンジュエリアと同じくらいです。
いえ、ルーンジュエリアがやっと追い越したくらいでしょうか?
自分が物心付いた頃からの知り合いなので味方扱いしている事と、ハイランダーが魔法術に不得手である事が気の置けない理由です。
そうは言っても、かつてのお嬢様だって生活魔法術を主体にしていました。
魔力量の力技で押し切っていたのが過去の自分です。
だからハイランダーがその気になればお嬢様を苦しめる位の魔法術を使える筈です。
そこまで考えて、お嬢様は首を振ります。
(今考えるべきは盾を封じる方法ですわ)
お嬢様はハイランダーの体から溢れ出る巨大な魔力の形を見つめます。
その魔力が放出されている源を見つめます。
ハイランダー・オブ・オペラシティ=ミレニアム・デモン
彼の心臓付近にある魔石を見つめ続けます。
もちろんヒューマの国であるウエルス王国は魔人種の入国が禁止されています。
たとえ公爵家でも魔人種を匿っている事が露見したなら只では済みません。
王家に対する大逆の罰として公爵家の断絶もあり得る話です。
お嬢様にとっての問題は、その当人が今サンストラック領に滞在している事です。
これを知られる訳にはいきません。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
優秀な騎士団員であるハイランダーはサンストラック邸に招かれた事も数多くあります。
お嬢様とは旧知の仲です。
「どうした、ジュエリア。やっぱ、この盾はこえーか?」
いつもの様に盾士の軽口が飛びます。
おそらく軽く見られる事で公爵家の後継ぎとして相応しくないと思われたいのでしょう。
お嬢様はそう推測しています。
「んー。怖いと言うよりは、どう攻めるべきか悩んでます」
「ははっはー。正直だな、めんこいかわいいぞ」
盾士は自分の盾を杖にして
「一つお聞きしますが、何故そんな物をサンストラックへ持って来られたのですか?」
「親父殿が持ってけーって言ったからさ。他に理由は無い」
「いや、有りますでしょ。そもそもハイランダー様にはそんな盾なんか不要ですよね?」
「まー、なー。俺が怪我するとかありえない。いや?あるかな?」
「でもハイランダー様は怪我したって、あ!ああ。バレると困るから……?」
「ん?」
「え?」
ハイランダーはルーンジューサーの言葉が耳に留まります。
お嬢様は自分が口を滑らした事に気が付きます。
「ジュエリア。バレるってなんの話だ?」
「まだバレていませんから私は知りません」
「なら、それについて知っていそうな奴に心当たりはあるか?」
「真面目に見当が付きませんね。誰も言わないと思いますよ。
ハイランダー様ご自身が一番知る機会が多いと愚慮します」
「そっかー。これは予想もしていなかったな」
ハイランダーはお嬢様が魔力を視認できることを知りません。
お嬢様は親友であるエリスセイラに口止めしていますが、自分たちが気付いている話です。
他の誰かが気付いていても隠している可能性は捨てられません。
「愛されているのですね」
「ん?」
「家宝よりも子供の方が大切だからその盾を持たせたのでしょう」
「ああ。そう言う捉え方もできるな」
「ハイランダー様はそれ以外の理由が思い当たりますか?」
「んー、ねーな」
「ではそれでいいのではないですか?」
「ああ、俺も親父様やお袋の気持ちを疑った事はねー」
盾士は軽く空を見上げます。
秋の空は青く澄み切っています。
そんな澄み切った青い空を盾士はしばらく見上げていました。
「だから家督を継がないのですか?」
「親父が持っている爵位は三つだ。公爵位は一番上の弟が継ぐ筈だから、俺は実家の騎士団総長でもさせてもらうよ」
「うわー、怖いですね。私はその頃どこかに嫁いでいる筈ですから、サンストラックとは良い関係を保つ様にお願いいたします」
「お前に距離は関係ねーだろ?」
「味方は多いに越した事がありません」
「だろうな」
「ではそろそろ始めましょうか?」
「ああ。来い!」
そう声を掛けてくるハイランダーを見つめながらルーンジューサーは一つの事を思い出しました。
(まだ、ガルーダの盾の対処法を考えていませんわ!)
待ったを掛けるべきでしょうか?
お嬢様は本心から悩みます。
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