第74話 特訓の成果と劣等感
しばらく
ルディの準備が整ってないと見たか、イレーネが
「あたしも試したいことがあるんだけど」
と、主張した。
少し狭いかもしれないが、1対1なら大きく動けないだけでそれなりにステップを踏んで戦えると思ったのだろう。
あれからイメージトレーニングをしたりこっそり練習でもしていたのかイレーネのステップは様になっているように見えた。
そういえばイレーネの近接戦闘なんてずっと見ていなかった気がした。
私がやったようにフェイントを入れながら動き回り、
ここまでは私もやっていた。
リズムが単調な気がしていたが、ステップインした瞬間を狙われて真横に戦斧を薙ぎ払った。
バカ! と心のなかで叫び助けに入ろうとした瞬間、イレーネの上半身が消えた。
ほっと胸をなでおろすと空を斬った
そのままステップバックし、
「かっこいい! まさに蝶のように舞い、蜂のように刺すだね!」
と、喝采すると
「初めて聞く言葉だけど、あたしのためにあるような言葉ね! 合間をみてはルイス教官に教えてもらってたのよ」
と得意になっていた。
2組2列の隊列を組んで歩く。
ロペス、イレーネに少し離れてルディと私。
「自分の規格外を棚に上げて皆が皆ができるなんて思うなよな」
ルディが小さい声で私に言った言葉にカチンときた。
「じゃあ、そこで足踏みし続けるんだね。フリオとラウルみたいに心折っちゃった? もう無理なら帰ろうか?」
発破をかけるためもあるが腹立ち紛れに、きっと痛いであろう台詞を吐いて煽った。
「私に勝てないから諦めるのなら何が出てくるかわからない戦場になんかいけないよね、後方支援に回るの?」
ルディが立ち止まった。
「僕の気持ちも知らずに!」
ルディが叫んだ。
「そりゃあ知らないよ、拗ねて人を羨んでるだけのお子様の気持ちなんてさ、私だってロペスだってイレーネだって努力はしてるんだ」
腕を組んでいたが、ルディがいつ逆上してもいいように腰に手を当ててふん、と鼻息を吐いた。
努力不足を指摘されて、ぐっと言葉に詰まるルディ。
「カオル、いいすぎだ」
下がってきたロペスが私を抑えた。
イレーネは前で心配そうにしながら警戒してくれていた。
「いいや、やめないね。そこの拗ねてるおぼっちゃんは私とイレーネとロペスの努力にケチを付けたんだ」
なんだかイレーネやロペスのことをバカにされた、と思ったら頭に血が登ってしまった。
「おれは気にしないから我慢しろ、迷宮内だぞ!」
ロペスが私を抑えようとしてくが身体強化をかけて軽く押して退かせた。
「ルディにも同じだけの努力を強制します!」
そう言って腰につけた魔力回復の
ルディは私を見下ろして睨みつけた。
「身体強化をかけて
私は半身になって腰を落として右手を引く。
ルディはふてくされながら私に習って腰を落として
ルディと同じくらいの強さの
ルディは弾けた
「もっと強く
ルディは一瞬ぎょっとした表情をしたがすぐにふてくされた表情に戻した。
何度か繰り返すとルディは息荒くへたり込んだ。
「なんどこれを繰り返してきたと思う?」
へたり込んだまま、私を見た。
強い疲労を浮かべた目はもう拗ねたり怒りを浮かべたりしてはいなかった。
「さあ、これを3分の1だけ飲んで」
魔力回復の
ありがたい、とばかりに頷いて私の手から受け取り、クイッと飲むと残りを返してよこした。
「私はまだまだやれるからね、回復したらまたやるよ」
視界の端でロペスとイレーネが引いているのが見えた。
へたり込んだままのルディを見下ろして魔力の回復を待つ。
じっと見ていると目に光が戻ったルディがゆっくりと立ち上がって構えを取った。
私も頷いてそれに答え、
「それが限界の強さなの!? もっと強く張りなよ」
ルディはぎり、と奥歯を噛んで
ほう、がんばったな、と感心してルディの
「やりすぎだ」
「少しね、ルディを抱えて8階の階段に行こうか」
そう言って口の端を上げた。
8階への階段へ向かう道すがら
「ルディの自信になるまで魔力を成長させればいいんだよ、覚悟も気合も魔力も半端だから自信がないし、人の努力がわからないから妬むんだよ」
だから…
「…だから両方満たしてあげたらいい、努力を強制されて、魔力が満ちれば自信がつくでしょう?」
階段に座り、ルディに上げた魔力回復の
大きく息を吐いて私の中の魔力が回復していくのを感じながら頭を下げていると、時間にすると5分くらいだが寝てしまっていた。
疲れたかな、と思って伸びて固まった首筋をコキコキとほぐしているとイレーネとロペスの姿がない事に気づいた。
二人でどっか行ったかな? と思うと急に心細くなって心臓が強く鳴りだし、今すぐ二人を探しに行きたい衝動に駆られた。
やっぱりそうだよな、いつまでも無自覚ではいられないよな。
とは思っていても自覚してしまったらどんな顔で前に立ったらいいかわからない。
子供か、とも思うがこれが今の自分の表に出せない事情ゆえに何事も無い様に振る舞う必要があるのだから仕方がない。
できることなら全部ぶちまけて全部受けれてもらえればいいけれど、この女の体ではどうしたらいいか私の中に知識はないのだ。
受け入れられても拒否されても怖い。
耳をすますと、遠くから破砕音が聞こえてきた。
ほっとするとともに置いていかれた寂しさをちょっとだけ感じた。
自分の中でうずまくドロドロして胸につかえているものをぎゅっと押し込めて心から切り離す。
どんな理不尽だって笑って受け流していた頃の感覚を思い出せ。
両手で顔を叩いて気合を入れた。
しばらく待っていると20分くらいでイレーネたちが戻ってきた。
「
「わ! カオルか、おどかさないでよ」
と、イレーネとロペスの目の前に水の塊を浮かせて驚かせた。
いたずらが成功したのでニヤリと笑って言った。
「おつかれ! 水飲みなよ」
ロペスとイレーネが荷物からマグカップを取り出して一気飲みした。
「カオルとルディの見たら久しぶりにやりたくなってな、イレーネの魔力が前より多くて驚いた」
ロペスが言った。
「秘伝があるからね」
そう言ってイレーネが笑った。
「まあ、そんな意地悪言わないでロペスになら教えるからさ」
ルディがまだ目覚めないのを確認し、2人で少し下の方に移動して距離を取った。
二人で並んで階段の下をむいて座った。
そして、手の上で魔力を闇にしてどんどんと濃くしていく。
「たったこれだけのことなんだけどね、秘密だよ」
と言って人差し指で唇を押さえた。
ロペスは目を見開いてから苦笑いをして自らの手のひらをじっと見ると、圧縮しきれない闇の塊がぐるぐると渦巻いていて、まるで私の中身だな、となんとなく思った。
「難しいな」
「1人の時にだけやってね、力ある言葉も秘密にしてるんだから」
「そうだな、まずは素早く圧縮できることから始めないとな、でこれはルディには…?」
「言えないね、ここにいる3人だから言うんだよ、力ある言葉を使わなくても効率は悪いけど自力でできるんだから」
そう言って全身を闇の魔力で包んでみせた。
ロペスの喉を鳴らす音が聞こえる。
「ルディのことそこまで信用できるか知らないし、ルディのことを考えたらあまり危険なことを言いふらして回るわけにもいかないしさ」
「カオル!ルディが目を覚ましたよ」
イレーネが教えてくれたので、上に登り、ルディに言わなくては。
「さ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます