第71話 装備の新調と男の社会と
二日酔いの
イレーネに声をかけて朝食のために1階に降りる。
朝食はいつもどおり、黒く硬いパンをスープに浸して食べる付け合せはこれもいつもどおりスモークキツめの腸詰め。
味噌玉のようなものを持ち歩ければ外でもスープが作れるのに。
味噌の作り方なんて原料くらいしかしらないから誰かにどうにかしてほしいとおまかせしたい。
帰りたくなるほどではないけれども、もう少し食文化が豊かにならないかなぁとは思う。
いや、昔定食があると聞いたな、もしかしたら味噌はあるのかもしれない。
もっとも味噌玉の言葉しかしらないので味噌があっても作り方は知らないのだけど。
朝食を取り終え、紅茶とクッキーを頼んでだれかこないかな、と待ってみた。
イレーネの起動には時間がかかりそうだし、と思い、同じ飲んだくれのルイス教官も潰れていることだろう。
二日酔いの
空になったティーカップに
いやー、一心地ついた、とリラックスしていると一つ思い出したことがあった。
制服が汗でべったべたに汚れたままだった。
慌てて部屋に戻り、シャワー室で石鹸をこすりつけてガシャガシャと踏みつけまくり、3回洗って2回すすいだ所でやっと綺麗になった。
部屋の中で乾かそうと暴れているとイレーネがもぞもぞと動き始めたので起こしてしまったか、と思っていると
「カオルー…、薬ない?」
と、芋虫イレーネが首だけだしてベッドの上でもぞもぞとうごめいた。
「あるよ、ちょっとまってね」
ポケットから薬が入った小瓶を取り出し
「ありがとう」
コップを受け取って一気に飲み干した。
「ちょっと今日は無理そう」
「じゃあ、パンとスープ持ってくるね」
そう言ってベッドに潜ったのを確認して乾きたての制服に着替えてから
イレーネの朝食を持ってきてテーブルに置いておいた。
しょうがないので1人で宿の食堂の隅っこの方で紅茶を飲んで時間を潰した。
「こんなところでなにしてんだ」
ロペスが向かいに座った。
「ペドロ達が帰ってくるのを監視しつつ体調を崩したイレーネの邪魔にならないように表にでてるしかなくてこうして紅茶を飲んで時間を潰しているのさ」
と、答えた。
「難儀なやつだな、どうする? 迎えに行ってみるか?」
いつでも行けるのかそんな事を言った。
「朝ごはんは?」
と、聞くとまだだ、と言って注文しに行った。
ロペスの朝食を、食べるの早いなぁと思いながら見守り、食べ終わったロペスは待たせたな! と言って立ち上がった。
ロペスと一緒に早足でアーグロヘーラ大迷宮前へ向かった。
途中で食べるものがないかもしれないからなんか買っていこうか、と3日分くらいの硬パンを4人分買ってリュックにしまった。
「魔法がある我々には必要ないと思っていたよ、だが12階より先に進むんだったら入ったほうがいいかな」
保険会社のパンフレットを受け取ったロペスが言った。
「保険なんて怪我して治療中働けなくなったりしたときのためのものだから、再起不能の怪我はそのままだし死んでもお金が届くだけだからね、意味があるかどうかは怪我の程度と養うメンバーがいるかどうかだね」
というと、詳しいな、と感心した。
「さあて、入りましょうか」
と言っていつもどおりに
5階に差し掛かった時に聞き覚えのある声が聞こえた。
ロペスと顔を見合わせて声の元へ向かった。
声の元へたどり着くと、思った通りの光景が広がっていた。
相手は
「何してんの」
私が力なく声をかけてみると
「カオルに聞いたとおりに
ペドロとルディがあたふたと言い訳しているロペス達を見ると脱力感が全身を襲った。
「なんで1日で諦めて帰ってこなかったの?」
「7階に行くって言ったからすぐ逃げ帰ったと思われるかと思って」
と言って目をそらした。
まあ、プライドもあるか、あまりそこを攻めるのもかわいそうか。
「予定にないことをするなら伝言してよね」
というと、あぁ、すまないなと答えた。
「じゃあ、おれ達は帰るから、パンは適当に食ってきてくれ」
と言ってロペスがフリオにパンを渡していたのでついでに5級の
ペドロ達の所在を確認して表に出てきたがまだ太陽はまだてっぺんまで登っていなかった。
山分けした魔石はここで売っても安く買い叩かれてしまうので前回同様にファラスに持って帰ってから換金する。
ハンターが多く、商機を求めてやってきた商人もたくさんいるので、質のいい武器とかもありそう、と思いついた。
最近はやっぱり武器でも買ったほうがいいかなと思い始めたのだ。
ヌリカベスティックだけでは致命傷を与えづらいので戦闘時間だけが無為に伸びていくという欠点についてついに目を向ける覚悟ができた。
刃が通らない場合に打撃を使うにしても、ただの金属棒は重さがたりないので打撃攻撃をしたい場合はバトルハンマーの様な専用武器の方が効率がいい。
ただ、壁を出すのはいい機能だと思っているのでこれからも使っていきたい。
と、いう話をロペスにして武器を扱っている店か鍛冶屋を目指した。
迷宮入り口に近い所にある普通の木造2階建ての武器と防具を扱う店に入り、商品を見て回った。
ナタより短くナイフより長い短剣は両手で持てないので重い一撃は耐えられなさそうで怖いのでなし。
ツーハンデッドソードは身体強化をかけると持てるが、長くて取り回しがしづらそうだ。
身体強化をかけた状態で長めの短剣からショートソードに細身の片手剣、鉄の棒にトゲトゲの玉がついたモーニングスター、バスタードソードにツーハンデッドソード、ハルバートにバトルハンマーと、一通り振り回してみたがしっくり来なかった。
「わからん」
と、ロペスにいうと、あまり派手に目立つなよ、と呆れられた。
「ますますわからん」
と周りを見回すと、店主のひげのおじさんが目を剥いてかろうじて動揺を隠していた。
ちょっと気まずい思いをしながらひげのおじさんに聞いた。
「すみません、手甲がほしいのですが」
「うちにそんな小さいサイズの防具はないな」と断られた。
「そうですか、すみません」
と店を後にした。
この体は!なんで!こんなに小さいんだ!
憤りを表に出してもロペスに八つ当たりにしかならないからぐっと押し込めて蓋をした。
サイズがないというのであれば仕方がない、直接オーダーメイドで注文するしかない。
鍛冶職人は槌の音がうるさいことと、設備の移動にコストがかかるので商人と違ってフットワーク軽く引っ越しすることができない。
やっとの思いで工房を畳んでやって来た頃には迷宮前や表通りのいい場所は全て埋まってしまってるため、思った場所に店を出せない。
そのために、迷宮の入り口から離れた所で職人達が固まって工房を建て、職人区画というような地域になっていた。
一番近くにあった大きな工房に入ると、なぜかロペスにだけ話しかけられた。
私が要望を出すと、ロペスに返事をし、ロペスが「だ、そうだ」という謎の会話がなされ、会話には参加しているけれども無視されているという不思議な状況にイライラが募る。
「もういいです、お邪魔しました!」
そう言って私は踵を返した。
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