第61話 覚悟と決意と
窓はガラスではなく、木の板なので朝になっても部屋の中は真っ暗だ。
木の板の隙間から差し込む光で日が昇ったことを知り、木の板の窓を開けてつっかえ棒を立てた。
朝食の時間を逃した程度の寝坊をしたようだ。
イレーネを朝だよ、と揺さぶるともうちょいといって力尽きたので二日酔いではなさそうだ、と安心した。
セーターとカーゴパンツに着替え、イレーネの分の洗濯の木札も持って洗濯室に出向く。
ずっと着てた制服はきれいに洗ってたたまれた状態で木札と交換できた。
部屋に戻って音を立てないようにそっと制服に着替える。
イレーネの制服はテーブルに置いてそっとドアを締めて鍵をかけてドアの脇にある3分の1にした郵便受けのような穴に鍵を押し込んだ。
これでイレーネが起きるまでこのドアは宿屋の主人以外開けられない。
弱い
「遅かったな」と手を上げてペドロが言った。
「私はいつもは早いんだけどね、昨日はちょっとブラックジャックについて問い詰められてのたのさ」と手を上げて答えた。
「ペドロだけなのはめずらしいね、朝ごはん食べた?」と聞くと
「カオルとイレーネ以外はみんな食べてどっか行ってるよ」と苦笑いしていた。
朝食にスープとトーストにバターを買ってきて食べ始めた。
そういえば米なんてずっと食べてないな、まともに食べたのはいつだったか・・・。
コンビニ弁当は高いからずっと買っていなかったし、せめて野菜を取らなければと思って季節の安い野菜をインスタントラーメンのスープと共に食べて済ませていたので最後に炊飯器が稼働したのは召喚されるずっと前だったはず。
意外と食べたいと思わないもんだなぁ、と3枚めのトーストにバターを塗った。
「食べながらでいいから聞いてくれないか」とペドロが言った。
口の中に甘い香りのバターが広がっている最中なので頷くと
「
口の中のものを飲み込んで
「あぁ、そういうこともあったね」と思い出して心のなかで笑った。
「あれに代わるきちんとしたものを作りたいのだがいいアイディアが浮かばないんだ」
もっとかっこいい
「そういうことか、とりあえずアーグロヘーラ大迷宮に潜っていい着想が出なかったら相談に乗るよ」と答えた。
なぜかわからない顔をしているので
「ここでなにか閃いても実際使えるかわからないし、着想がないまま潜って強敵にあたって自分の欠点がわかればそれを補うものを作ることができるし、強みを強化することもできるからね」
「そうか…」と言って考え込んでいるペドロに
「逆にここでこれがいいと決めちゃうと作るものを想定した戦い方になっちゃうからね、アイディアが邪魔になっちゃう所か怪我にもつながるよ」と言って、おかわりのトーストとコーヒーを頼んだ。
たしかペドロは両手剣だったなぁ、と思い出しながら
イレーネがやっと降りてきた。
鍵を返してチェックアウトして私の隣りに座って朝食を取る。
「ペドロはなにしてるの?」とペドロに問うと
「相談に乗ってもらっていたのだ」と答えたペドロに間髪入れず
「恋の相談ね!」と嬉しそうにいうがこのメンバーで恋の相談されたら相手はイレーネにならないか?と思ったが貴族なら親が決めた婚約者がいてもおかしくないか。と考えた。
「ちがうよ、いい武具のアイディアはないかって話してたんだ」というと
イレーネは
5枚めのトーストを食べているとルイス教官が降りてきた。
「お前らまだ食べてんのか、そろそろ出発する用意しとけよ」と言ってチェックアウトしてどこかに行った。
表情に余裕がないのが気になる。
しばらくしてぞろぞろと全員が戻ってきてルイス教官を待った。
フリオ全員が揃った頃にテパさんに「坊っちゃん!みなさん揃いましたよ!」と叫ばれて坊っちゃんはやめてよ!と言いながら店の奥から出てきて笑われていた。
ルイス教官が中々戻ってこないので大きな6人がけテーブルで7並べをしていると
テパさんがぼっちゃんのご学友のみなさんに、と紅茶とクッキーを差し入れてくれた。
教官が帰ってこないばっかりに申し訳ない、と恐縮した。
2回ほど7並べを遊んだころ、やっとルイス教官が戻ってきた。
「そろってんな、注目、これからアーグロヘーラに行くわけだが、悪い知らせだ」
そういう時はいい知らせと悪い知らせがあるというもんなんじゃないか。
「あっちこっちでアールクドットの
だれかの喉を鳴らす音が聞こえた。
「ハンター連中にも高圧的に行くもんだからいざこざも起こっててけが人が出ている」
「何をそこまで警戒してるのか知らんが」と言って私をみた。
「ファラスの周りにはより高位の
部屋から出てこなかったのは秘密のやり取りをしていたらしい。
「この状況を利用させてもらう」
「アーグロヘーラ大迷宮周辺の
「アーテーナの鉾に会ったのは1年前ですよ、まだ活動してるかわかりませんし、私達のこと覚えているかわかりませんよ」
と私がいうとルイス教官はニヤリとして
「活動に関してはわからんが、忘れられるってことはないな」と言った。
イレーネとロペスが口々にそうだね、とそうだな、とか言っていた。
「ここで重要な働きをするのが他でもないカオル、お前だ、おれを除いた中での最大戦力だからな」
「悪ではなく敵を殺害できるか否かで成否を分けると言ってもいい、できるか」
「弱らせてトドメだけまかせるのは却下だ、万が一逃げられたら本隊が来る可能性がある」
「相手の階級によっては弱らせる余裕すらないかもしれんが、できなければここにいる全員が死ぬ可能性が高い」
すごく畳み掛けてくる。
できるかできないか、殺すか殺せるか、死ぬか守れるか色々な言葉が目の前でぐるぐるしている。
隣に座ったイレーネが混乱する私の手をぎゅっと握った。
ピンク色の綺麗な瞳が不安げに私を見た。
自分の意志で敵を殺せるか、と逡巡する。
私が覚悟できていないと私の友達が死んでいくと言われると胸の奥がざわざわとした気持ち悪さでいっぱいにり心臓が殴られたように痛いくらい強く鼓動した。
ずっと思い出さないようにしていたが去年の年末にイレーネと初めての殺しをやったことを思い出す。
ぶつぶつと肉を切り裂く感触を思い出して前ほどショックを受けないことを確認して言った。
「1人も100人も殺せば一緒です!」
「いや、虐殺しろとは言ってないぞ!」と言ってルイス教官が言ってイレーネは安心したようにすこし微笑んだ。
「やります、やれます」ルイス教官を見て静かに答えた。
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