第55話 各戦場への援護
矢を射掛けるはずだった一般兵は私がやらかしたせいで完全にタイミングを失ってしまって見学しているだけになってしまった。
いや、派手にはやったがやらかしたとは思っていないが。
オーガのリーダーは目の前で行われる惨事にどう反応したものかと悩んでいるようだった。
撤退か、群れの戦士に無慈悲な誇りのない死を与えたニンゲンのメスを殺すか。
しかし、私はそんな葛藤を無視してルイス教官の隣で聞いてみた。
「ルディどうですかね」
「シャープソードはシンプルで意外とあいつにあっているな、体も出来てきたし剣の腕自体悪くないからオーガ3体の武器相手でも折れずに戦えている」
オーガの武器というのはその辺の倒木を鹵獲した剣で削ったようなものや、両手剣などをまるで鉈のように軽々と振り回すのだから一般兵にはたまらない。
「援護しますか?」
「もう少し見たいな、それよりリーダーがどう動くか見ておいてくれ」
「むしろ教官の実力がみたいですね」
「しょうがねえな、じゃあ、ルディのバックアップよろしく、バックアップだぞ加勢しろって話じゃねえからな」と言いながら肩を回すとオーガのリーダーに向かって歩き出した。
「それだと見学できません!」
「早く終わらせれば見れるぞ」とはいうものの、バックアップというのはどうしたらよいのか。
刑事ドラマなら突っ込む相棒に後ろから銃撃して敵を引っ込めておくくらいのイメージしかないので、余計に手を出して邪魔するくらいなら何もしないほうがよい気がする。
「ルディー!がんばれー!」
しょうがないので応援することにした。
「左左!右が!上からくるぞ!気をつけろ!」
「精一杯なんだから気を散らさないで!」ルディが悲鳴を上げた。
「隙をみて
なんだ、それでいいのか。
少し離れた所で
踏み鳴らされた足元から冷気を放つ氷の蔦がオーガの足元に伸びる。
足元の死角から迫る
絡まる
足が止まるだけなら放置してルディに集中したい所だが、上半身まで迫るのであれば放置しておけないらしく手で剥がそうとした。
完全に無防備になったオーガの心臓をルディの剣が貫いた。
3対1で互角だったルディとオーガは私の介入によってルディ優勢となり、これで大丈夫だろうとルイス教官の戦いっぷりを見ようとした瞬間、オーガのリーダーの後ろから首をはねた所だった。
まったくもって見られず、がっくりと膝をついた。
「
「最初応援してたんで」というと呆れ果てていた。
「ルディなら大丈夫だろうから前の方の支援に向かってくれ」
「次々と人使いが荒いですね」というと
「なんたってここは軍でおれは上官でお前は部下だからな。さ、行った行った」と言って手をひらひらと振って追い払われた。
軽く駆け足でA班とロペス達がいる中間あたりにたどり着いた。
オーガと一緒に矢を浴びながら戦っていた。
フェルミン・レニーの後ろに行き
「なんだこれ」と、呟いた。
「おお、貴様か、オーガ共の数が多くてな、いっぺんに抑えるためには
こうするしかなかったわ」と苦々しい顔で言った。
20近くいるのでは一人あたり4体になるとラウルとフリオには荷が重いか。
「教官は?」
「間の悪いことに別件でB班の教官と一緒に先に行ってしまっていてな」と答えた。
混戦状態になっているため、下手に手を出すと味方に当たってしまうが、
試しに
守りの範囲が広いのか少し逸れてしまった。
「援護するのもなかなか難しいですね」というとそうだ。と答えた。
「じゃあ、私が参加してロペスとトミーさん、アイランさん、私が4体受け持つ感じでどうでしょうね。」
「すまんがそれで頼む」フェルミンが頷いて言った。
「カオルが来た!トミー!アイラン!ガルシアの!貴様ら4体受けもて」
「あと矢、止めてもらっていいですか」
「援護はいらんか」
「邪魔なだけです」というと、むっとした表情を一瞬浮かべたが
「まあ、貴様ならそうだろうな」と言って諦めた。
身体強化をかけ、ラウルとフリオのところまで一気に走って行き、後ろからヌリカベスティックで殴りつけて2体ずつ引き剥がした。
とはいえ、数の不利をひっくり返せるほど近接戦闘が匠なわけじゃないのだ。
「
牽制に
しかし、弾速は遅くただ燃え上がらせるだけなら
弾速が早い分使える。
今まで相手にしていた近接戦闘主体のラウル達とは違う戦い方のニンゲンのメスに一瞬警戒する。
彼らも好き好んで火の中に飛び込みたいわけではないからだ。
そして
「炎よ炎!我が前に立つ愚かなる暗黒の使徒達に
その赤き
ぎゅん!と両手の中に煌々と光る炎の玉が生まれる。
なにかしらないがおかしいことになったぞ、と気づいたオーガ達は慌てて武器を構えて走り寄ってくるがすでに遅い。
「くらえ!火柱!」オーガに向かって
走り寄るオーガの足元に着弾した
詠唱付きの
もちろん魔力も大いに消費する。
普通の魔法使いでは使えて1回、しかも魔力量が足りないと発動した瞬間気絶して自分の足元に落として火柱を上げることになるので、こんな危ないを魔法使う人は少ない。
灰になったオーガを確認して灰は灰に、と思ったがそれでは生まれ変わりを望むことになってしまうな、と思って考えるのをやめた。
そして、他の人の援護に回ろうと振り向くと、オーガも含めて私をみてぽかん、としていた。
このままでは自分たちも同じ末路をたどってしまうということに気がついたオーガは泡を食って逃げ出した。
私が荷馬車に戻るとフェルミンが
「よくやった。こっちはもう良い」と私とロペスをB班に向かわせた。
「もうコメントもされなくなった。」とロペスにいうと
「まあ、色々聞きたくなるし言いたくなるからな」と言って苦笑いした。
釈然としないまま
「ペドロもイレーネもいるし、12体って話だからあっちは大丈夫だろうけど様子見に行こうか」と言って先頭車両へ向かって軽く駆け足で進みだした。
B班のいる先頭車両にたどり着くと、思ってもみない光景が広がっていた。
B班は4人いるのだが、誰一人まともに戦闘に参加していなかった。
ニコラがわめき他の3人は逃げ回り、荷駄隊の副隊長らしき人が矢を射掛けさせ、イレーネが魔法を使って足止めをし、ペドロが前に出ていた。
「なんだこりゃあ」思わず呟いて呆然としてしまった。
「カオル!しっかり!」と言ってロペスが背中をばん、と叩いた。
はっとしてそうだった、援護に来たんだった。と思い出した。
イレーネの所に言って手分けして、と考えた時にイレーネが回避に失敗してオーガの持つ大人の腕より太い棍棒で打ち上げられ地面に落下して動かなくなったのは同時だった。
それからのことはよく覚えていないが気がついたら動かなくなったイレーネを抱えて呼びかけていると
「そんなにしたらほんとに死ぬから落ち着け」とロペスに言われて引き剥がされた所だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます