第25話 イレーネと手加減

 大まかに歴史がわかったところでひたすら暗記することになる。


 座学で丸暗記より外で実際に使ってみながら覚えた方がいい気がするが。


 この時間で黒板にチョークの様な白い石の欠片でマーリンが作ったといわれる魔法を成立年と合わせて書き込まれていった。


 まさか覚えるのか、と思うが学者じゃないのだからその必要はないはずだ。


 学生時代は歴史苦手だったなぁと思い、はるか遠くの場所と時に思いを馳せた。


 なんだかんだで今でもただ暗記しろと言われるのが苦手なのはまったくもって変わっていないな、と苦笑いした。


 授業は置いておいて魔法を覚えることも大事だが魔力量を増やすことはできないのか。


 効率がいいはずの魔法を使っても簡単に魔力切れを起こしてしまう我が班の連中が今のままでは魔法を覚えて模擬戦闘なり実戦投入された所ですぐに息切れして役立たずになるか神の元へ召されてしまうだろう。


 そんな感じで考え事をしていたら講義が終わってしまった。


 昼食はエリーと合流してからイレーネと3人で一緒に食べることにする。


 イレーネとエリーは毎度毎度似たような話しをしてて飽きないのかなと思うが推しの話はいつまでしていてもいいもんなんだろう。


 若干ぱさついたパンとチキンの香草焼きにじゃがいものポタージュ、そして謎の豆の煮物を食べ午後は練兵場で模擬戦闘になる。


 召喚前も今のこの体も肉体派ではないのだから近接戦闘しない様にしたい、訓練ではそうもいかないのかもしれないが。


 練兵場で戦闘服を着て居並ぶ我々の前に立つヴィク教官がいつものようにバカでかい声を上げる。


「基礎の第1段階が終わったと聞いた。ひとまずはよくやったと言っておこう。」


「そこで2段階目の魔法を教える。今日はこれを使用して模擬戦闘を行う。」


「1つは風の守りヴェン・コルナ、魔法や矢をかわすために使う」


「もう1つ消費が激しいが魔法の直撃に耐える魔法障壁マァヒ・ヴァル


「では最初にペドロ・バレステロス!ロペス・ガルシア!」


 呼ばれた二人ははじめの合図とともに剣を交わす。


 ペドロが大振りの両手剣を水平に構え飛び出しロペスの胸元を狙っているようだ。


 ロペスは盾で受けるが勢いを殺しきれずに後ろに飛んで距離を開け、炎の矢フェゴ・エクハを飛ばし盾をかざしたまま飛び込んだ。


 ペドロは風の守りヴェン・コルナ炎の矢フェゴ・エクハを逸らしロペスの盾を正面から両断する勢いで剣を叩きつける。


 両手の全力を片手で受けたロペスはぐらついて反撃には至らない様だった。


 それでもペドロの両手剣を盾で弾き剣を水平に薙いだ。


 剣を弾かれたペドロは弾かれた剣を無理やり戻しロペスの剣を受ける。


 身体強化がある分手数が多いほうが有利なのかな、と思うが同じ速度で振れるなら両手剣の方が重くて受け辛いのかもしれない。


 その後も一進一退の攻防を続け手数に押されて魔法防御をしまくったペドロが魔力の枯渇で負けていた。


「そこまで!」教官の止めに応じて模擬戦闘が終わった。


「今は負けるが魔法を使っていれば魔力量が増え押されなくなる、精進すること」

 と、ペドロに声をかけた。


 ペドロはうなづくと見学の列に戻っていった。


 次はフリオとルディが前に出た。


 自信なさげにオドオドしたフリオの戦いは防戦一方でルディの素振りの練習くらいにしかなっていないように見えるが、よく見れば細身の体で全部受けきっているので意外とすばらしいと言えるのではないか。


 とはいえそれだけでフリオが力尽きて終わった。


 自信をもて攻めろと見た通りのアドバイスを受けてフリオが見学に戻る。


「次!イレーネ!カオル!」

 回復魔法があるとはいえイレーネに刃を向けるのはやりづらい。


 イレーネと正対して立ち剣を構える。


 イレーネも私と同じく荒事の経験がないはず、であれば育成計画は魔法特化の方が私とイレーネに向いているに違いない。


「はじめ!」


 合図と同時に細く高熱を持つ炎の矢フェゴ・エクハを展開してみせた。


 イレーネはショートソードをぎゅっと握りこみ緊張を見せる。


 足を動かして!と思いイレーネの手足を狙い当たらないように炎の矢を連続発射する。


 イレーネは炎の矢を交わすために横に走りながら距離を詰めてくるが足元を狙った炎の矢を回避するために距離を開けざる負えないように発射する。

 が、単調に発射するだけでは当たらないし魔法も使ってくれないだろう。


 氷の矢ヒェロ・エクハを行使し氷の矢ヒェロ・エクハを展開する。


 少し多めに持っていかれたが気にせず氷の矢ヒェロ・エクハを展開したままイレーネに向かって突進する。


 イレーネは炎の矢フェゴ・エクハを牽制の様に発射し、矢の影になるよう後を追って走り出した。


風の守りヴェン・コルナ!」私は風をまといイレーネの炎の矢を背後に逸らしイレーネの足元に向かって氷の矢ヒェロ・エクハを放った。


 イレーネも風の守りヴェン・コルナで逸らすが上から下に打ち下ろした1本が風の守りヴェン・コルナで逸らしきれずに足元に落ち、地面とイレーネの左足を凍らせた。


 風の守りヴェン・コルナでは回避しきれない角度で次々と氷の矢ヒェロ・エクハを放ち、魔法障壁マァヒ・ヴァル使えよ、と願い私は残り少なくなった氷の矢ヒェロ・エクハをイレーネ向かって打ち出した。


 が、期待と裏腹に風の守りヴェン・コルナと剣で弾く、という選択をし、イレーネのふくらはぎを直撃してしまった。

「そこまで!」教官に止められた。


 イレーネは劣勢の時はもっと攻めていけと、消費量が少ないからと言って風の守りヴェン・コルナばかりに頼るな、という話で終わったのに、

 私の場合はなんだあの体たらくは、直接攻めるべき所で攻撃しに行くわけでもなく無駄に魔法ばかりに頼って魔法がいっぱい使えるのを自慢でもしたいのか

 指導したいのなら頭使って誘導しろ思いあがるなと怒られてしまった。


 そして

「あーいうことができるならまだ余裕ありそうだな、そのままラウルとやれ」と次の試合を言い渡された。

 とほほ、と言いたくなる気分で、ラウルと向かい合う。

 とほほ、そう、数年ぶりに聞いた気がする。まさにとほほ。


 太っていたので完全に油断していたが、

 魔法があれば別、ということをいやというほど思い知る事になった。


 はじめの合図で身体強化をかけたラウルが一気に突っ込んでくる。


 こちらも身体強化をかけ剣を受けるが

 受けた剣があまりにも重く踏ん張りが効かず吹っ飛ばされ背中から落ち肺の空気がすべて吐き出さされた。


「げほっいったぁ」追撃してこないのは余裕ゆえか、と思いつつ立ち上がる。


 普通に身体強化をかけたのだと太刀打ちできないなと呟き、多めに魔力を使って強化をかける。


 それでもきっとフィジカルの差は埋まらないだろう。


 改めて剣を握りなおすとラウルと向い合った。

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