第19話 攻撃魔法と痛覚遮断

 今日は朝から戦闘訓練らしい。


 直立で並びヴィク教官の話を聞く。


「と、いうわけで模擬戦闘だが、魔力の基礎ができた者が出始めたころなので

 実戦に近い形式でやってもらう。」


 どう違うのかな、とぼーっと見ていると説明が続いた。


「武器は自分の物を使い、魔法も好きに使っていい。

 装備は訓練用の皮鎧だが、首から上は狙うな、蘇生は難しいからな。

 年に1人くらいは蘇生に失敗するか即死するからそこらへんだけ気を付けること。

 あとは強めの痛覚遮断をするから殺すつもりでやれ」


 急にやれと言われてクラスメートと殺し合いできるものなのか?


 無理じゃないか、と思っていると。


「今魔力の基礎ができているのはペドロとカオルだけか、二人とも前へ」


 うげぇ、と思いながらなるべく表情にださないように前にでる。


 みんなから離れペドロと向かい合う。


「がんばろう、カオル!」少し離れたペドロがキラキラした笑顔で叫んだ。


「教官!私武器がありません!」私が答えた。


 ペドロが勢いを削がれてカクっとなっていた。


「しからば我が剣の予備を貸し与えよう」と言って

 脇に刺した細身の剣を投げてよこした。


「ありがとう存じます!」受け取った剣を鞘から抜き取って構えた。


 教官のはじめの合図でペドロが剣を構えて飛び出した。


 私は身体強化を使い剣を受ける。


 受けられた剣はすぐに引かれ次々と切りかかってくる。


「無理無理無理無理!」肉体強化のおかげで

 この体でもなんとか受けきれるが完全に押されている。


「無理という割に十分受けきってるな!さすがだ!カオル!」


 ペドロは嬉しそうに笑いながら剣を翻す。


 剣に集中して受けているとお腹に衝撃を受けて吹っ飛ばされた。


 ゴロゴロと転がり砂まみれになるが思ったより痛みはなかった。


 転がった際に剣で傷つけてしまったか

 左腕が切れていたがそれも大したことない感じだった。


 なるほどこれが痛覚遮断か。


 これで同級生同士の殺し合いもスポーツになってしまうし、

 傷つける抵抗感もなくなるしもっと言えば心臓刺しても死なないのであれば

 殺す忌避感も薄れてしまうんだろうな、と感心した。


 こっそり戦意高揚するなにかもあるのかもしれない、

 妙に高揚感があることに気づいた。


炎の矢フェゴ・エクハ!」私を取り囲むように14本の炎の矢を出現させる。


「初心者でその量か!」ヴィク教官が驚きの声を上げる。


 牽制に3本飛ばしながら切りかかる。


 ペドロはよけるでもなくこちらに向かって駆け出し、

 2本を体勢を傾け紙一重で回避し、

 残りの1本を剣の腹で叩いて潰した。


 なんだかんだで心得があると違うな、と思い1本飛ばしながら切りかかる。


 炎の矢フェゴ・エクハを払うか剣を受けるか迷ったペドロは

 炎の矢フェゴ・エクハをまともに胸に受けて吹っ飛んだ。


 これで終わりにしてくれるとありがたいが、どうもそうはいかないらしい。


 皮鎧を焦がしただけだったようだ。


「思ったより熱いし衝撃があるな」と砂を払いながらペドロが立ち上がった。


炎の矢フェゴ・エクハ!」ペドロも炎の矢を出したが3本しかでなかった。


「ふむ、カオルほどはやはり無理か」そう言ってにやりと笑うと

 剣を構えて駆け出した。


 手を焼かれた記憶がよみがえり思わず怯んだ。


 その隙をペドロは見逃さずさっき私がやったように切りかかりながら

 炎の矢フェゴ・エクハを全て飛ばす。


 炎の矢フェゴ・エクハに驚いた私は思わず残りの炎の矢フェゴ・エクハを全てペドロに飛ばしてしまった。


 至近距離での炎の矢フェゴ・エクハの応酬でぶつかった炎の矢フェゴ・エクハは小さな爆発を起こし

 ペドロと私はまともに炎を浴びてふっとんだ。


 体中が熱くてヒリヒリするが思ったより大丈夫そうだ。


 そう思って立ち上がろうとすると体に力が入らなかった。


「そこまでだ!至高神の癒し手イオス・キュレイド


 キラキラが降ってくると体が動くようになった。


 立ち上がった時にペドロを見てみると皮鎧は焼けてちぎれ飛び、

 かろうじて皮鎧に守られた胴体部分がなんとか体を覆っている状態だった。


 改めて自分を顧みると自分も皮鎧は真っ黒だし

 服もほぼ焼け落ちかけて際どい状態になっていた。


「服は修復されませんか」ヴィク教官に問うてみると

 教官は無言で首を振り「着替えてこい」と言ってイレーネにマントを渡した。


 マントを持ったイレーネがマントを被せてくれる。


「体痛くない?大丈夫なの?」心配げに聞いてくる。


「大丈夫みたいよ?痛みもねー、全然なくて。

 まだいけるかと思ったんだけど体動かなくてね。」


「えぇ、そうなんだ。結構大変そうだったよ」


 イレーネと一緒に更衣室に向かった。


 訓練用の軍服は自分のものではなく

 ロッカーに大量に掛かっているものから自分のサイズの物を選び

 使い終わったら籠に入れておき、後でまとめて洗ってから

 ロッカーにかけるというシステムらしい。


 ちなみに洗うのはD班E班の仕事ということだった。


 がんばれ若人。


 思ったより綺麗に洗われている軍服にエールを送り着替えた。


「珍しい下着着てるのね」イレーネがマントをたたみながら言った。


「あぁ、これはビスチェだと動きづらいからエリーに探してもらったの。

 昔の召喚者が作ったものらしいよ。」着替えながら答えた。


「動きやすそうだけど、どこで買えるかしら?

 ビスチェで戦闘なんてできないからいつもはサラシなんだけど

 それはそれで息苦しくてさ」


 そう言ってちらっと軍服の襟元からサラシを見せた。


 サラシに押しつぶされた胸が覗いて、おっ、と思ったことを

 ポーカーフェイスで隠しながら

「エリーに聞いておくよ」と冷静に答えた。


 着替えて戻る際にさっきの模擬戦の最後の方を聞いてみた。


 最後切りかかる瞬間にお互いが炎の矢を飛ばしたあと爆発が起き、

 炎に巻かれて私とペドロが吹っ飛ばされて全身からぶすぶすと煙を上げ、

 普通の状態じゃないということが見て取れたらしい。


 しかも最後のペドロの剣は届いたようで、

 私はだくだくと広がる血の海に沈んでたということだった。


 重度の火傷に大量出血でまるで死ぬ寸前だったと言われ、

 聞かなきゃよかったと心底後悔した。

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