第4話 初登校と二日酔い教官と初魔力
昔見たアニメでならなくなったり増えたりしたものにドキドキワクワクして楽しそうだったのに、
実際に味わってみるとまったく別物で違和感だけが体にまとわりついてる気がしてこれが新しい体か、がんばるぞ!
とはとてもじゃないけれども思えない。
石鹸で髪を洗って見ると、髪はギシギシになって絡まって大変だった。
美容室に勤めてた自然派の友人が石鹸と酢かクエン酸があれば大丈夫、と言って私のシャンプーとリンスを捨てようとしたことを思いだした。
適当にタオルドライして、そのままベッドに倒れ込んで寝てしまい、
エリーに明日着る制服と食事を持ってきてもらったときに起こされた。
次の日の朝、エリーよってビスチェをつけられぎゅうぎゅうに締め付けられて制服を着て案内された先は体育館くらいの広さの講堂で
目立たないように入り口側の列の中央より後ろに座りじっと待つ。
周りを見渡す勇気にもなれずに斜め前をぼうっといると
「お前見ない顔だな」
と制服を着た赤毛の少年とピンクブロンドの太っちょと金髪を逆立てた筋肉質の3人の少年に絡まれた。
「今日から来るようにワモン様に仰せつかりまして」
と愛想笑いを浮かべて答えた。
「ワモンの、なるほど、魔力持ちか、女だからといって足を引っ張るんじゃないぞ」
そういって赤毛の少年はデコピンして去っていった。
皮膚が薄いのかすごく痛かった。
ガキ大将か、と納得したがこれからも無駄に絡まれるのかと心配になった。
しばらくして教師というか教官なのか髭を蓄えた短髪のおじさんが入ってきた。
40代半ばだろうか。
「注目、時期も中途半端だが今日から新しく仲間が入ることになった。カオル、こちらへ」
呼ばれたので仕方なく教壇へ向かう。
「今日から諸君らと一緒に学ぶオオヌキカオルである。
貴族ではない士官候補生が来ることが珍しいが同じ学び舎にいるものは平等で対等だ。
我が校の誇りに泥を塗るような生徒が出るとは思えないがくれぐれも気を付けるように。」
講堂中に響き渡る大声で私を紹介した。
「わたしの名前はヤニック・デ・パヴァン、この学年の教官を務める。
学校についての詳しい話はほかのものより聞くといい。」
そう小声で言い席に促した。
「1年のA班は講義室1、B班は講義室2、C班は講義室3、DE班は練兵場へ行くように、
カオルはひとまずC班に入るように、では解散」
教官がそう言って退出した。
さて、講義室3とやらはどこだろう、大事なことはわからないままだ。
「オオヌキカオル様? 講義室3の場所はわかります?」
と、ピンク色の瞳と金色の髪のロングヘアを持った綺麗な少女から声をかけられた。
こういうときに声をかけてもらえるのはありがたい、と新入りに積極的に話しかけてきてくれるこの少女に感謝した。
「わからないのです。」
「ではわたくしもC班ですから一緒についていってあげますね、あたしの名前はイレーネ、イレーネ・モンテーロよ、イレーネって呼んでくださいね」
といって握手を求めてきたので、
その手を握りながら、じゃあカオルでお願いしますね、と答えた。
ロングヘアを揺らしながら立ち上がり、さ、行きましょと言った。
イレーネは歩きながら同性が来てくれてうれしいわ、といった。
「やっぱり女性だって立ち上がって戦わなくてはいけないと思うの、でも女性ってだけで煙たがられることが多いじゃない?
軍だと魔力があって魔法を覚えれば男も女もないと思うの!
あたしはそんなに頭よくないから用兵なんてできないからきっと前線で部下を指揮するいいリーダーになると思うわ、そういえばあなた・・・カオル?
カオルはワモン様に連れてこられたらしいけどどうしてかしら?」
だんだん口調が崩れて本性が露わになってきた。
ワモンについては別に詳しくないしあまり話題にだしたくないと思い曖昧に答えた。
「ところで今日はどんなことを講義するのかな?」
「今日はまだ魔力の扱い方と初級の魔法かな、力がある貴族はこどもの頃から教育を受けるけど、あまり力がなかったり魔力持ちとして連れてこられる子供たちは基礎からやるから。」
「ここが講義室3よ」
と言ってドアを開けてくれた。
イレーネの話に夢中になってたつもりはなかったが道のりを覚えるのを忘れた。
イレーネにお礼をいい、チョップをしながら先に入った。
20人も入ればいっぱいというような小さな教室の教卓で教官らしい男が机に突っ伏して寝ていた。
生徒はそんなに多くなく、7、8人くらいが思い思いの場所にまばらに座っていた。
私は外様なのでやる気アピールしつつ教卓の正面にならない様脇にずれて前から2番目の席に座った。
中学校時代の先生の一人がつばを飛ばす人だったので男女関係なく人気のない先生だった。
イレーネは私の隣に座った。
お喋りっぽいイレーネが口を開かないところをみるとうるさくしてはいけない教官なのかもしれない、イレーネはこっちを向いて小さく手を振ってくる。
どこの世界でも女子は友達に小さく手を振る習性があるのだろうか、と思いつつ小さく手を振り返した。
始業らしき鐘の音が聞こえた。
しかし教官は寝たまま起きない。
この班の女子はイレーネだけらしい。
女子1人だけなら心細いだろうね、と思いつつ外見と中身が違って申し訳ないと心の中で詫びた。
私のせいではないが。
他の生徒も緊張したまま背筋を伸ばして固まっていた。
私はこっそりとイレーネに
「いつもこうなの?」
と聞くと激しく頷いて回答した。
そんなに緊張してたら始まる前から疲れちゃうよ、と思って頬杖をついた。
まだ時間にして数分だがそろそろ起こしたほうがいいだろうか、
と逡巡した最中だった。
あくびをしながら教官が目覚めた。
「いやー、二日酔いがつらくてな、おはよう諸君、初めての顔の者もいるな、おれはルイス・アルメンゴル、ルイス教官だ。君、名前は?」
どこにでもこういう教師はいるのか、と驚いた。
「オオヌキ、カオルです。今日からお世話になります」
「うむ、よろしく、カオル。
では講義を始める、とはいっても今日も魔力の扱いに慣れる訓練だ」
「カオルはこちらへ」
別に呼ばれ、新入生にはするという話を別に聞かされた。
士官学校は4年制となり、幹部候補生や個人で相当数の戦力となりうる場合は3年以上、前線が主になりうる成績であれば2年や3年で卒業、配属となるらしい。
そして今みんながやっているのは体内と周りに流れる魔力の流れ感じとり操る基礎だった。
入学して1か月ずっとこの講義ではこの基礎練習をしているのだという。
最初のきっかけとして教官が生徒の魔力を外から動かし、その感触をもとに自分で動かせるようになれば次のカリキュラムに進むことができる。
「では手を出しなさい、両手を合わせて少し離して、そう」
手首をつかまれて微調整されながら10㎝くらいのボールを持つような形で手のひらを向かい合わせた。
私の手のひらの外からルイス教官が両手で包み込むように手をかざした。
「最初は相当びっくりするから覚悟しろよ、あとその場所から手を動かすな」
ルイス教官は真剣な目で手に注目すると魔力を込めたようだった。
魔力が注がれた手の甲がぞわぞわする。
悪寒が両手の甲を内側に押してくるような圧力を感じるが手の平に熱いビリビリする何かがあり内にも外にも手を動かせない。
あまりの気持ち悪さに口からうえぇ、と声が漏れた。
しばらくして、そろそろいいだろう、とルイス教官は手を離した。
手の周りの気持ち悪さが抜け自由になった。
熱くてぞわぞわしてちくちくする感触が残っているので手のひらをこすり合わせてから、
スカートの腿の所で拭いた。
「余裕がありそうだったな」
と、ルイス教官に言われたが、と手をこすりながら反論した。
「そんなことないですよ、すごい気持ち悪かったです。」
「その程度で済んでるから余裕があるんだ、内包する魔力が少なかったり抵抗力がよわいとおれの魔力に負けて水ぶくれになったりちょっと血が止まったみたいに痺れたりするんだ。力加減はしていたからそうはならないようにしているがな」
自分の手をみると特に何もないことに安心し、丈夫な体で親に感謝と思おうとしたがよく考えたら自分の体じゃないんだった、と思いとどまった。
「では自分の魔力を操る方法は今無意識に使っていた魔力が手の内側にあったがわかったか?
わからないか、もう1度やるが、魔力を使って火を起こすと合格だ。
火じゃなくても光でも水でもいいがイメージしやすいからな、さ、手を出せ」
もう1度、弱めにやってもらうと確かに押し込んで来ようとする何かに対して手の平の中で動く流れが分かった。
今度は少し楽になりました、と言うと
「それは抵抗しようとしすぎて抜けた魔力が自分の手の平に抵抗してたんだな、めずらしいこともあるもんだ、扱いになれたらそういうことも起きなくなるから慣れるように。」
ルイス教官は手をひらひらさせながら
「もういいな、おれは二日酔いで寝るからあとは仲間とやれ」
そういって机に突っ伏して寝てしまった。
席に戻って続きをする。
イレーネは気になるようで
「どうだった? 痛くなかった?」
と、自分の練習を中断して寄ってきた。
「ぞわぞわちくちくして気持ち悪かったよ」
「やっぱり強いんだねぇ」
と感心していると、会話を聞きつけてかほかのクラスメイトが集まってきた。
「強いんだって? おれロペス」
ラウル、ペドロ、フリオ、ルディと口々に言った。
昔から人の顔と名前を覚えるのは苦手なんだ、手加減してくれと思いながら愛想笑いをし
「わたしはカオル、オオヌキカオル、よろしく」
「オーヌキ? 聞いたことない家名だな、どこの貴族だ?」
と、怒髪天を突いたような逆立てた緑色の髪が印象的なペドロが言った。
「遠いところから連れてこられたからだいぶ遠方の国だよ」
とごまかした。
「黒い髪も珍しいな、闇の加護でもあるのか?」
「そんなことは言われたことはないね」
と答えた所でルイス教官が起きて一喝した。
「おまえら! こっちは二日酔いで寝てるんだぞ! 少しは静かにしろ!」
なんてやつだ、つい喉元まで出そうになったがすんでの所で我慢した。
だれともなく目を合わせ声を出さないように笑った。
しょうがないので円座になって基礎訓練を行う。
やはりみんなは1か月とはいえ先に始めてる分、進んでいるようだ。
よく見ると両手の間に陽炎のようなものが見えた。
とりあえず手でボールをつかむようにしてみるがぱっと出たりしないようだ。
目を瞑りさっきの気持ち悪い感覚を思い出し手の平に集中すると、体の内側をなにかこってりしたもがあるのを感じる。
まるで体内をこってりしたラーメンスープが流れているように感じたので、指先に開けた穴から流れ出るイメージでこってりを導いていく。
「カオルカオル! 出てる出てる!」
イレーヌが慌てて声をかけてきた。
初日で出るとは中々に順調じゃあないか、と思いながら目を開けると指先から流れ出たこってりはその場にとどまることなく流れ空気中に霧散していった。
ペドロ達も目を見開いてこっちを見ている。
「液体をイメージしちゃだめだ、もっと扱いやすくなるようイメージして手の中に収めるのが基礎なんだ」
そういって名の知らぬ(覚えていられない)金髪の少年が寄ってきて流れ出たこってりを下から支えて手の中に収めようとしてくれた。
もっと粘土のようにそう念じると体内のこってりは硬くなって指先からまったくでなくなってしまった。
「今度は硬すぎる」
そういって名の知らぬ金髪の少年は苦笑いを浮かべ自分の席に戻っていった。
「ありがとう、ええっと・・・」
「ロペスだ、ロペス・ガルシア」
「ありがとうロペス」
そういって自分の訓練に集中した。
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