廻る。

水研 歩澄

短編作品

 ────昨日、妹の友達が死んだ。


 学校からの帰り道に歩道橋から身を投げたらしい。今日は朝からそのことで妹のところに警察が事情聴取に来ている。


「心中お察しいたしますが、少しの間我々の捜査にご協力願えますか?」

「……はい」


 亡くなったのは水野優香さん。まだ私より一つ年下の高校2年生だった。妹とは中学の時からの同級生でこの家にも何度か遊びに来たことがある。物静かでおとなしい性格の子で、いつも妹の後ろをついて歩いていた。

 高校に入ってからはウチに来ることもなくなったけれど、同じテニス部に入って変わらず仲良くしていたらしい。


「昨日の優香さんに何か変わった様子はありませんでしたか?」

「わからないです。昨日は普通に授業にも来てましたし、特に、変わった様子はなかったと思

います」


 妹も昨夜はかなり取り乱していたが、一晩経って少しは落ちついたようだ。


「そうですか。それでは、彼女は学校で人間関係に問題を抱えていませんでしたか?」

「さあ。けど最近、彼とあんまりうまくいってないみたいでした」

「その彼というのは?」

「ユウカの、彼氏です。一つ上の先輩で、半年くらい前から付き合ってたみたいです。ついこの前までは、仲良さそうだったんですけど」

「そうですか。わかりました」


 2人しかいない部屋は、時計の秒針がやけにうるさく聞こえた。

 息が詰まりそうになる空間で淡々と質問を投げられるたび、妹の声が細く、弱くなっていく。急にこんなことになってあの子も不安なのだろう。できるなら私もそばにいてあげれたら良かったんだけど。


「昨日は優香さんと一緒に下校されたそうですが、その時の様子をうかがってもよろしいです

か?」

「はい。昨日は部活がなかったので、2人で最寄りの駅まで、一緒に……こんなことになるなら私が家まで一緒に行ってあげればよかったんだ。わざわざあんな、車通りの多いところで」


 妹のそのひと言をきっかけに、明らかに警察の声のトーンが変わった。


「事件があった場所をご存じだったのですか?」

「え?は、はい。その、最初に警察から連絡がきた時に聞いて」

「なるほど、そうですか」


 妹の表情に少しばかりの動揺が見れた。視線は落ち着かず、発汗も目立つ。そんなあからさまな変化を、警察が見逃すはずもなく。


「失礼ですが、優香さんとは何時ごろまで一緒にいたか覚えていますか?」

「え、えっと、正確な時間までは……けど確か!2人で一緒に夕方のチャイムを聞きました。2人とも中学の時好きだった曲で。だから、5時までは一緒にいたと思います」


 焦るあまり口にした不用意なその一言が、疑いを決定的なものにしてしまった。


「それは、少し妙ですね」

「な、なにがですか?」

「昨日はちょうど月が替わって、チャイムが鳴ったのは5時半でした。その時刻はちょうど死

亡推定時刻と一致しています」

「き、気のせいだったかもしれません!チャイムを聞いたのは昨日じゃなかったかも!」

「それと、事件現場のことですが、あそこはこの家の生活圏からは離れていますし、貴方のおっしゃった通り、被害者の通学路からも外れています。仮にニュースや新聞で知ったならともかく、我々警察が一般の方に捜査情報を漏らすことはありえません」

「そ、れは……」


 ついに、言い返すことができなくなって、妹は力なく視線を落とした。


「今回の事件について、一度署のほうで詳しくお聞かせください」

「ちがう、違う。私は悪くない。悪いのは全部、あの子のほうなのに……」




 あーあ。結局捕まっちゃった。

 あの子は元々嘘つくのなんて苦手だし、昔っから肝心なとこでドジを踏む。どうせこうなるだろうと思ったから私は何回も止めたのに。



 ────私の仇討ちなんて、しなくていいって。


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廻る。 水研 歩澄 @mizutogishiro

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