白雪舞う降誕祭

 母親に連れられて、企業舎弟フロント企業の降誕祭祝宴に参加した。私は背中の大きく開いた水色の礼服ドレスを纏って母様の隣に佇んでいた。中也さんと広津さんが護衛として来てくれた。付いて来て欲しかった人は、きっと友人達と夜を楽しんでいる。

「卯羅や、飾りでも見てくると佳い」

「うん。一回りしてくる」

 会場をぐるり周る。庭に飾られた降誕樹クリスマスツリーに眼を奪われた。電飾に雪が反射している。綺麗ね。だけど眩しすぎる。窓を背にして、天井から釣り垂れる、七芒星の灯りを眺めていた。

「お嬢さん、お一人で?」

「今は一人よ」

 一人の男に声を掛けられた。きっと振っても他の男が来る。だったら集めてしまえば佳いかしら。ポートマフィアの娘が無防備に一人。釣り餌にするでも、取り入る餌にするでも、近付く理由は山程ある。

「俺と一緒に祝宴を楽しみませんか?」

「それとも僕と?」

「いいや私と、是非」

「でも、私、もう好い人があるのよ」背には彼の邪な独占欲。傷物にすれば誰も手を出さないという幻想。「その人の代理で来たの。彼ったら、人前に出るのは無精ぶる癖に、私を遣いにやる時は決まってこうなのよ」

 背を見せれば男達は顔をしかめる。それもそうよね。掻き傷、噛み傷で飾られた背中。どれもこれもあの人が付けた傷。そのうち焼かれた魚のような背になってしまいそうね。

「卯羅や、何処におるのかえ?そろそろ帰るぞ」母様の呼ぶ声がする。

「ごめんなさいね。次お会いする時は、きっと交渉の場ね」

 一礼してその場を去る。

 もう一度、水色に輝く降誕樹を目に焼き付けておこうと思った。そうすれば、帰った後に太宰さんも見られるかもしれないから。

「その様な格好で外へ出るでない!風邪を引くぞ」

「母様、凄く綺麗なの。雪が反射してるからかしら。本部の樹とはまた違う綺麗さよ」

 中也さんが母様の介添えをし、広津さんが私に上着を掛けてくれた。

 目を閉じて空を仰ぐと顔に雪が降り掛かる。高揚した気持ちも、少し鬱屈とした気持ちも、全てが平らになっていく。

「どちらまでお送りしましょう」

「先ず太宰さんの家まで」


 本部から家へ向かう最中、雪に降られた。別に濡れたところで気にする人も何も無いから、気にせず向かった。

 世話人は紅葉さんに連れられて企業舎弟の降誕祭祝宴に参加。今日は静かな夜になりそうだ。

 コンテナの扉を開けると、外気と変わらない冷気が出迎えた。裸電球を点け、濡れた服を着替え、寝台に横になった。近くに置いたスツールの上に置いてある、赤い包装紙と緑の飾紐の包みが目に入った。振ってみても音はしないが重量はある。時限爆弾や、刺激を与えると起爆する型の爆弾では無さそうだ。

 中身を検分するために包みを破いた。箱が出てきた。蓋を開けると手紙が一枚。

『メリークリスマス、太宰くん。これ温かいよ。どうにも寒かったら私のお家来てね。風邪引かないでね。今日は一緒に居られなくてごめんなさい』

 世話人からの手紙だった。その下には起毛の格子柄の膝掛ブランケットが丁寧に折り畳まれて入っていた。微かに彼女の匂いがした。

 薄い掛け布団の下に仕込んで潜ってみた。寒さが和らいだ気がする。

「嫌な子だなぁ……」

 気紛れに、気持ちになんて応えなければ佳かった。何時もみたいに嘲笑って棄てられなかった。今更棄てられる訳もない。こうして彼女のお節介を言い訳にして、彼女に似た温もりに包まれて、暖を採ろうとしてしまっているのだから。

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短編(~21歳まで) ちくわ書房 @dz_pastecake

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