白雪舞う降誕祭
母親に連れられて、
「卯羅や、飾りでも見てくると佳い」
「うん。一回りしてくる」
会場をぐるり周る。庭に飾られた
「お嬢さん、お一人で?」
「今は一人よ」
一人の男に声を掛けられた。きっと振っても他の男が来る。だったら集めてしまえば佳いかしら。ポートマフィアの娘が無防備に一人。釣り餌にするでも、取り入る餌にするでも、近付く理由は山程ある。
「俺と一緒に祝宴を楽しみませんか?」
「それとも僕と?」
「いいや私と、是非」
「でも、私、もう好い人があるのよ」背には彼の邪な独占欲。傷物にすれば誰も手を出さないという幻想。「その人の代理で来たの。彼ったら、人前に出るのは無精ぶる癖に、私を遣いにやる時は決まってこうなのよ」
背を見せれば男達は顔をしかめる。それもそうよね。掻き傷、噛み傷で飾られた背中。どれもこれもあの人が付けた傷。そのうち焼かれた魚のような背になってしまいそうね。
「卯羅や、何処におるのかえ?そろそろ帰るぞ」母様の呼ぶ声がする。
「ごめんなさいね。次お会いする時は、きっと交渉の場ね」
一礼してその場を去る。
もう一度、水色に輝く降誕樹を目に焼き付けておこうと思った。そうすれば、帰った後に太宰さんも見られるかもしれないから。
「その様な格好で外へ出るでない!風邪を引くぞ」
「母様、凄く綺麗なの。雪が反射してるからかしら。本部の樹とはまた違う綺麗さよ」
中也さんが母様の介添えをし、広津さんが私に上着を掛けてくれた。
目を閉じて空を仰ぐと顔に雪が降り掛かる。高揚した気持ちも、少し鬱屈とした気持ちも、全てが平らになっていく。
「どちらまでお送りしましょう」
「先ず太宰さんの家まで」
本部から家へ向かう最中、雪に降られた。別に濡れたところで気にする人も何も無いから、気にせず向かった。
世話人は紅葉さんに連れられて企業舎弟の降誕祭祝宴に参加。今日は静かな夜になりそうだ。
コンテナの扉を開けると、外気と変わらない冷気が出迎えた。裸電球を点け、濡れた服を着替え、寝台に横になった。近くに置いたスツールの上に置いてある、赤い包装紙と緑の飾紐の包みが目に入った。振ってみても音はしないが重量はある。時限爆弾や、刺激を与えると起爆する型の爆弾では無さそうだ。
中身を検分するために包みを破いた。箱が出てきた。蓋を開けると手紙が一枚。
『メリークリスマス、太宰くん。これ温かいよ。どうにも寒かったら私のお家来てね。風邪引かないでね。今日は一緒に居られなくてごめんなさい』
世話人からの手紙だった。その下には起毛の格子柄の
薄い掛け布団の下に仕込んで潜ってみた。寒さが和らいだ気がする。
「嫌な子だなぁ……」
気紛れに、気持ちになんて応えなければ佳かった。何時もみたいに嘲笑って棄てられなかった。今更棄てられる訳もない。こうして彼女のお節介を言い訳にして、彼女に似た温もりに包まれて、暖を採ろうとしてしまっているのだから。
短編(~21歳まで) ちくわ書房 @dz_pastecake
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