7-46 手掛

 俺たち全員が渦巻きチューリップアートの外へ出たところで、なーこの元気な掛け声がかかる。


「じゃぁ〜、五問目ぇ〜、いってみよぉ〜!」

「「「おー!」」」


 それで夕は俺のポケットから入手した問題用紙を見ると、


「えーっと……『沙也推奨』だってさ。ハイどうぞっ!」


 おもてめんの注意書きを読み上げて、その推奨者へと手渡す。


「……え、私のまで……あるの?」

「もっちろ~ん♪」

「……しかも難しいって………………どうぞ」

「えと、どうも?」

「――こらぁ~ひとにあげないのっ!」


 目堂が夕に紙を渡し返そうとしたところ、なこなこちょっぷが間に差し込まれた。


「……でも……私に解けるかな……自信ない」

「目堂さん、皆で一緒に考えるのはいいんじゃ? さっきの女子推奨だって、僕ら男子も参加してた訳だしさ?」


 不安げな目堂を見てヤスがそう言うと、なーこジャッジからウムウムと頷きが返る。


「ほらね。よーし、僕らがフォローすっから、任せときな!」

「……よろしく」


 目堂は少し安心した顔でうなずくと、早速と問題文を読み上げる。


「『見えざれどみせる物、優しき隣を集むれば、見えざるものをも見せんとす』……ん、イミフ過ぎ……やっぱり難問」

「ええ、これはそう簡単に解けそうもないですねぇ」


 目堂の横から紙をのぞき込んだひなたが、首を捻ってつぶやく。


「みえ、ざれ、みせん……大地、現代語訳よろ!」

「ったくオメェは、任せろとか大口たたいた瞬間これかよ?」

「おうよ。僕だけに、とは言ってないからなっ!」

「ハハハ、そうだなっ!? んで意訳するとだ……見えないけど見せてくれる物が、優しい隣とやらを集めてくれたら、見えない物――たぶん次のお題を見せてくれるんだと思う」

「なーるほ――いや、やっぱ全然わからんぞ!?」

「問題文読めるだけで解けたら、謎解きにならんだろうが」

「たはは、そりゃそっか」


 そうヤスに偉そうな事を言いつつも、俺も全然ちっとも分からない状態だ。隣を見ると、さすがの夕もすぐには解けないのか、眉を寄せてむーむーうなっている。


「あ、目堂さん! これもさっきの野菜みたいに、それぞれの言葉が何か別の物を指してる……要は比喩なんじゃないかな?」

「……ん、そうかも」


 マメのもっともらしい助言に、目堂が頷いて同意する。


「じゃ、『見えざる物』が暫定のゴールとして、まずは『見えざれど見せる物』と『優しき隣』が例えていそうなものを皆で考えていこうか?」

「……よろしく……私も頑張る」


 類似問題ということで同じ方針を提案してみると、周りがそれぞれ考え始め……すぐにヤスが手を上げた。


「はいっ! 優しいっつったら、やっぱ人間の話じゃね?」

「まぁ、普通に考えたらそうだよな。あと目堂推奨の問題ってことは、その優しき隣――そばに居る心優しい人? は目堂目線でってことになる?」

「……なのかな」

「んー、普段目堂さんの近くにいて、ザ・優しい人! と言えば……」


 そこで周りが一斉に顔を向けた先は……もちろん、ひなた。


「え!? えとえと……私、なんですかぁ?」

「……断トツで」

「えへへ、皆さんにそう言われると、なんだか照れちゃいますね」


 周りが当然だとばかりに頷けば、ひなたがモジモジしながら少し困った顔をする。俺としては、夕も負けないくらい優しい子だぞ! と全力で主張したいところだが……少なくとも目堂視点では、ひなたが最も相応しいだろう。


「ねねね、沙也ちゃん~、あったしわぁ~?」

「……ふ、笑止」

「ぷぅ~、沙也ちゃんめぇ~! なら笑わせてやるぅ~! こちょこちょぉ~♪」

「――ゎひゃひゃぁっ!」


 表面上は辛辣な目堂の返しに、なーこが頬を膨らませて目堂の脇腹をくすぐっているが、お互い分かっている感が伝わってくる。本当に仲が良い二人だ。


「んじゃ、『優しき隣』は小澄さんに決定だね!」

「は、はい、恐縮です…………でも、私を集めるって、どういうことでしょうかっ!? 私は一人しかいません!」

「んー、ドッペルゲンガーとか?」

「もぉっ、天馬さん! 怖いこと言わないでくださいよぉ!」

「ご、ごめん」


 ファンタジーはさておき、夕のようにタイムトラベルでもしない限り、同じ時間に同じ人間は一人しかいない。何かヒントがないかと出題者のなーこの様子を見ると、うつむきながらニヘッと顔を崩しており……あれかな、沢山のひなたに囲まれるところでも想像したのかな? 生憎とひなたは未来人じゃないから増えないし、それに増えたら増えたで大変困るということを、経験者として言っておくぞ。


「そうしますと、そのまま私を指してはいなさそうですね」

「……二重の比喩?」

「だろうなぁ……っても、これだけじゃ思い浮かばなそうだ。先に『見えざれど見せる物』が指す物が解読できれば、合わせて解けるかも?」

「……ん」


 だがこちらも難解な比喩で、一筋縄ではいかなそうだ。こういう時は、突拍子もない発想をするヤスが、思わぬ切り口を開いて……と思っている間に案を出してきた。


「んー、見えないものかぁ……心とか?」


 なるほど、確かに答えが物体とは限らないのだ。


「あ、でも完全に見えないわけじゃないっか。それなりには分かるもんな?」

「あはは~、ヤスくん、おっもしろ~い! ねぇ~、沙也ちゃん?」

「……ふ、笑止」

「ナンデ!?」


 ヤスは二人の発言が意図するところが全く解らないようで、ただ首を傾げるのみ。……ああ、夕に出会った頃の俺って、周りから見てこんな感じだったのかな……なんか今さらながら恥ずかしくなってくるなぁ。


「…………ん、んん? ……陽、ここ見て」

「なんでしょう──あっ! これは……もしかして?」

「……たぶん手掛てがかり」


 肩を寄せて問題用紙を眺めていた目堂とひなたが、何か重要な事に気付いた様子だ。


「あのぉ、天馬さん。残念ながら……少なくとも『心』は答えから外れそうです」

「え、そなん?」

「……ん……陽、説明よろ」

「はいっ、任されましたぁ♪」


 ひなたは目堂に頷くと、この謎解きにおいて重要なヒントとなる情報を告げる。


「それで問題文を良く見てみますと――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る