2-06 情報
俺たちは食堂で昼食を取りながら、小澄についての緊急会議を開くことにした。
「──というわけで、俺は中嶋先生に何とかするように頼まれてしまった。しかし、中嶋先生に言われるまでもなく何とかしなければならない。主に俺達の安心・安全のために!」
まずは特務内容と現状の危うさを説明してみたのだが……
「別に入ってもらったらいいんじゃない? 仲良くなるチャンスじゃんか」
「おまっ、死にたいのか?」
全然伝わっていなかった。こいつやっぱり馬鹿なのか? じゃなくて、やっぱり馬なのか?
「ハハッ、小澄さんの矢になら貫かれても本望だねっ! というかすでにハートを貫かれているさ!」
「気持ち悪っ。お前がどうなろうと勝手だが、俺はまだ死にたくない」
胸を押さえて
「でもさ、なんでよりによって弓道部なんだろね?」
「さぁな……だが理由が分かれば、解決の糸口になるのは確かだ」
「んー、経験者とかかな? 部長的には、即戦力はありがたいなぁ」
「それはないだろ。俺が前の学校の顧問なら、百%止めてる。断固阻止」
なお、俺が弓道を始めてからではあるが、そういった事故は聞いたことがない。弓道人はみな武器を扱っているという事を重々心得ており、もし初心者が少しでも危険な動きをしようものなら、師範や先輩から烈火のごとく怒られるからだ。
「じゃぁ……大地の事知ってたみたいだし、大地の追っかけとか?」
「ないない、初対面だぞ? それに追っかけはもう沢山だ」
「もう沢山?」
「……いや、こっちの話だ」
例の不思議少女の事は、別に隠す必要もないのだが……いろいろ面倒くさそうなのでまた今度だ。
「ふーん。ま、とりあえず中嶋にでも詳しく聞いてみる?」
「そうだな」
目下の方針が決まったとところで、緊急会議は終了した。
◇◆◆
「ふむ、小澄さんが弓道部を希望した理由ですか」
さっそく俺たちは、職員室で中嶋先生から情報収集を試みる。
「何か言ってませんでしたか?」
「うーん、特にはねぇ……ちょっと待って下さい」
中嶋先生はそう言うと、机の引き出しからファイルを抜き出した。
「なんすかそれ?」
「そりゃオマエ、前の学校からの小澄に関する引継ぎ資料あたりじゃないか?」
この状況で出されたファイルなら、その可能性が一番高いだろう。
「……正解です、宇宙君。えーっと……あぁ、彼女は前の学校でも弓道部だったようですよ」
「ほらっ、僕の予想当たったじゃん!」
まさかの本当に経験者だった。
「前の学校の顧問はなんとも無謀な事を……それで、何人が帰らぬ人に?」
「いえ、事故とか起こした記録はないみたいですよ。案外才能があったんですかね――っとこんなことを言っては彼女に失礼ですね、ははは」
マジかよ。そんなことありえるのか?
「先生、そんな事よりスリーサイズとか、こっそり教えて下さいよー」
こいつは何しにきたんだ……逆にブレないなぁ。
「おいおい、普通に考えて担任が見られる情報じゃねーだろ。しかも男性教諭だぞ。馬鹿か?」
俺が当然のごとくツッコミを入れるが、中嶋先生はファイルを見ながらこう答えた。
「八十五、八十、九十」
え、載ってんのかよ――って違うか。
「まじっすか! うっひょほー。ほれ見ろ載ってんじゃん。ウエスト八十のダイナマイトぼでぇ……――ってあれ? ウエスト八十? 大地、あの子そんなにポッチャリしてたっけ?」
「八十って言うと、俺らより少し大きいくらいの太さじゃないか?」
「うそーん。それ絶対小澄さんの情報じゃないぞ!」
文句たらたらのヤスに対して、中嶋先生はメガネを押し上げてニヤリと笑う。
「私のスリーサイズですね」
「げふぉっ、そんな情報知りたくもなかったっす……」
「天馬君が教えてくれと言ったのですよ? はてさて何が不満だったのやら」
この先生の性格からして、百%わざとだ。やるねぇ。
「ちぇーー。こんな無駄なところにもう用はないな、さっさと帰ろうぜ!」
愚痴りながら両手を後頭部に乗せ、ヤスは出口に向かっていった。
「お前なぁ……先生ありがとうございます、参考になりました」
「そうですか、それは良かったですね。あぁそうそう、気付いた事と言えばですね、部長に許可を取って下さいと伝えた際に宇宙君の名前を出したんですが、どうも君の事を知っていたようですよ。それでその時の小澄さんの表情がですね……あぁやっぱり教えられません」
「え、そこまで言っておいて……ナゼですか? 気になりますよ」
「それを教えるのは野暮というものですよ。まぁ強いて言うならば、『こんな無駄なところでは情報は得られないはずだから』ですかね?」
中嶋先生の眼鏡が鋭く光る。ちっ、ヤスめ。
「後でしばいときます」
「せっかく造ったのに、うっかり倒さないようにね。起こすのが面倒ですよ」
やはり部長の件は気付いていたか。
「ああ見えてアイツはねぶた級なので、そう簡単には倒れませんよ。それでは失礼します」
俺はそう告げて、職員室の出口へ向かう。
「ふぅむ、意外と信頼しているんですねぇ」
背後でボソッと
◇◆◆
次の休み時間となり、反省会となった。
「中嶋からはろくな情報得られなかったし、まどろっこしいことせずに、直接本人に聞いてみようぜ」
「ったくオメェはよ……」
宣言通りしばいておいたが、反省の色が全くない。年上を敬えといった事ではなく、向こうは情報強者なのだから、それなりの対応の仕方があるだろうということだ。怒らせれば、まさしく得られるものも得られなくなるというもので、世渡りが下手クソ過ぎだ。
「まぁ確かに、それが一番てっとり早いか」
正直上手く行く気はあまりしないが、それしか手がないのが辛いところだ。
さっそく作戦を実行しようと小澄の席まで来て、声をかけるが……
「小澄、ちょっといいか?」
「え、大地君? い、いやあぁぁーーーー」
二人で小澄の帰りを待ってはみたが、結局授業開始まで戻ってこなかった。
◇◆◆
最後の休み時間となり、再チャレンジということで小澄の席に向かったのだが……小澄はその時点で気配を察知していたのか、すでに立ち上がって逃げる準備万端だ。
「おい待て、なぜ逃げる」
「合わせる顔がありませぇぇ~んーー」
教室の隅なので、すぐに外へ逃げられてしまう。追いかけて――いや、女子トイレにでも逃げられたら、どうせ手が出せないので無駄だ。
仕方ないので、ヤスの席にぼやきに行く。
「ダメだこりゃ。また逃げられた」
「今朝ので相当嫌われちゃったみたいだねぇ」
「うーん。このまま嫌われて弓道部に来なければ別にいいんだが、それはそれで何かなぁ」
「ま、結果オーライってやつさ」
「そう、なんかなぁ……」
俺は釈然としない思いを抱えつつ、席に戻るのだった。
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