2-04 依頼
トンデモ転校生
ややあって小澄が自分の席に戻ると、代わりに中嶋先生は俺に手招きして、廊下へと呼び出した。
……うーん、小澄と入れ替わりということは、まず小澄関連の用事だろう。あぁ、行きたくないなぁ。GWの
「……なんでしょうか」
「転校生の小澄さんの事なんd――」
「他をあたって下さい。それでは」
先生の言葉を遮ってそう告げると、教室へと踵を返す。嫌な予感しかしないので、この話題には触れない・開けない。このパンドラの箱、絶対に希望が未実装。運営さんが当たり入れ忘れたBOXガチャ、もしくは意図的に入れてない縁日クジと同じ。引いたら負け、はい撤収ー。
「こらこら待ちなさい。話を聞かないと後悔する事になりますよ?」
振り返って中嶋先生を見れば、割と真剣な眼をしている。うーむ……そうまで言われたら、聞かざるを得ないか。でも先生、ちゃんと当たり入れて下さいよ?
「はぁ……何ですか?」
「弓道部に入部希望です」
予感的中。
「……死人がでますよ?」
銀ヶ丘高校弓道部、部活動中に練習用の矢が男子生徒・
「私もそう思います。ということで何とか説得して下さい。教員の立場からは、危なそうという理由で選択の自由を奪うことはできませんので、彼女には部長の許可をもらって下さい、と伝えて時間稼ぎしておきました。もちろん通常はそんな手続きは必要ありませんが」
実に機転の利く先生で助かるが……そもそもこれは部長の仕事では?
「えっと、どうして俺に?」
「おや、宇宙君が部長では?」
「部長は天馬です。なぜ顧問が知らないんですか」
こういう時のために押し付けたというのに……あいつは馬の張りぼてか?
「おっとそうでしたか。指導は福田師範がやってくれていて、私はほとんど顔を見せていませんからね。それに天馬君が部長というのが、あまりしっくりこないんですよね。あぁ、そんなことを言うと天馬君に失礼ですね、はっはっは。まぁ部長じゃなくてもいいですよ。宇宙君が何とかできそうだと、私は思ったので」
中嶋先生は、眼鏡の奥から鋭い眼差しを向けてきており……もしやわざと間違えたのか? この様子では、押し付けた事はバレていそうだ。
「それでは、
中嶋先生はそう意味深に告げて去っていった。数学教師なだけあって、行動が合理的で無駄がない点は嫌いではないのだが……なんとも食えない先生だ。
俺は席に戻ると、さっそくこの重大問題について考える。
まず、ナゼよりにもよって弓道部を選んだのかだ。確かに弓道は老若男女問わず門戸を開くスポーツだし、当然うちには入部試験などもない。だけどあいつはダメ、門前払い確定、断固入部拒否である。下手をしたら、練習用のゴム弓ですら人を殺しかねない。ナウでヤングな言葉で言えば、ゴム弓で
俺以外のヤツならともかく、自分が背後から射られて死ぬのはまっぴら御免なので、ここは何としてでも弓道部入部を諦めてもらわねばならない。それで
押し付ける候補としては、料理……はだめだ、ヒト型クッキー(原寸)ができる。手芸……人が剣山になるか、ミシン大暴走で血の海からの朱芸待ったなし。化学……ヤクブツ、ダメ、ゼッタイ。オカルト……マジもんの悪魔が召喚されそう。美術……人間が彫刻される。書道……下す前の筆は剣よりも強し。
えっと、おかしいな? 安全な文化系に絞ったはずなのに、ぱっと思いつくだけでも安全な部活候補が一個もないぞ? 一体どういうことだよ?
……まぁ考えてもみれば、あいつにとってこの世界自体がそもそも危険だらけであり、よくぞ今まで人を殺めず、もしくは自分が死なずに生きてこられたものだ。これも両親や旧友の努力の賜物であり、幸いにして人には恵まれた――いや、違うか。先ほど小澄に衝突された生徒は、怒るどころか本気で心配しており……庇護欲をくすぐる何かを備えているようだ。調子に乗ったヤスが同じ事をやらかしたなら、血痕案件だろう。これも人徳と言えるかもしれないし、生物が生存する上で備わった本能からくる技能とも言えるかもしれないな。
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