2-02 冗句

 宇宙こすも家が小高い丘の上にあるため、通学の行きは下りが多いので帰りよりも断然楽である。特に暑い夏場は、行きが楽な方が好ましい――学校に着いた時点で全身汗でべとべとであれば、やる気も失せるというものだ。もちろん、部活動でくたびれた時には、帰りがとても辛いという欠点はある。行きはよいよい帰りは怖い。

 教室に入って自分の席に着くと、見飽きた顔がやってきた。える。


「人の顔見るなり萎えるはヒデェもんだな? そいつぁお互い様だろうよ」


 おっと、思わず口に出ていたらしい。ヤスだし仕方ないよな。

 まぁせっかくだ、ヤスで少し遊んでみようか。


「たまには顔換えてこい。少しはモテるようになるぞ?」

「……んっ? ああ」


 少し頭を傾けて合図すると、ヤスはその意図に気付いた様子。


「おいおい、オシャレするみたいに気軽に言わないで欲しいな? 手術にいくらかかると思ってんだよ」


 悪くないレスポンスだが、そっちじゃないんだなぁ。


「予備用意しとけって、あれほど言ったのによ」

「整形じゃなくて交換っすか!? それすでに中身僕じゃないからね!?」


 両手で空チョップを繰り出しながら抗議してくる。悪くないキレだ。


「だってほら、お前がモテるためには、中身換えるくらいしか手がないだろ?」

「お願いだから、僕の存在を全否定しないで!」

「じゃぁ整形で我慢してやるよ、ほんましゃーなしやで?」

「妥協して整形なのね……どう仕方ないのか僕にはさっぱりだよ。――あと何で突然関西弁?」


 おっと、最後の反応は素だな。確かに唐突な関西弁はベタ臭い、減点。


「俺はな、心配なんだよ。そろそろ顔を変えないと足が付くんじゃないかと思ってな……」

「突然遠い目をして、当たり前のように僕がサツに追われてる事にするのはやめような?」

「あぁでも大丈夫か、お前着いてないし」


 これはどう受ける?


「どゆこと? ツイてないなら捕まるだろう? あっ、いや待って待って、そもそも捕まる事してないけどさ!」

「いや、地に足がな」

「……………………あぁなるほど。僕は地に足が着いてないから、捜査の足も付かないってぇぇ、僕馬鹿にされてる!?」


 その通りだよ天馬君。


「おおお、よく気付いたな、偉いぞ? でもお前の場合、ここで捕まっても足が着かないから、どのみち安心だ。伊達だてやすの字を冠してないなぁ、うらやまだよ」

「何言ってんの? 捕まった時点で、すでに捜査の足は付いてるし、順序が逆だぞ?」


 予想通りの反応だな。


「日本は絞首刑だ」

「え?」

「ほら、足は着かないだろ? 良かったな」

「僕、死刑確定っすか! いったい何やらかしたの、僕!? あとそれのどこが安心なんだよ!?」

「刑を執行して生存した場合は釈放って聞くぜ? ほら、お前天馬だし、飛べるから平気だろ?」

「飛べるかーい!」

「そうか、じゃぁやすらかに之くしかないな。天までね」


 む……名前ネタはちょっと苦しかったかな。イマイチ。


「くっ、しょうもないダジャレだが上手いこと締めやがって……はぁ、お前にゃ一生勝てる気がしないよ」


 ヤスは両手を上げて降参のポーズであり、対戦者が満足しているならば良しとしよう。


「それじゃ逝った後は、是非とも来世で再チャレンジしてくれ。気長に待っててやるよ。来世はちょっとばかしヒトより脳容量が小さいけど、大差ないよな?」

「僕、来世は猿か何かなの!? いくら僕でも猿よりは賢い! 神様、後生ですから人間でリトライさせて下さい……――あっ、今の上手くね?」


 うわぁ、突然の棚ボタネタでこのドヤ顔は腹立つなぁ。


「失格。人間的にも。そして家畜に神はいない」

「もはや現世の人間資格すら失った…………――あぁそうそう聞いたか?」


 ヤスは首を軽く傾げて拙い言葉遊びを打ち切ると、次の話を切り出してきた。互いに遊びを心得ている。


「何だよ」

「今日転校生が来るみたいだよ」

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