黒い浮島
『ギランクス』……鳥も飛ばない遥か高い空に浮かぶ島で大地は緑のない黒く焦げた大地が広がっている。その島は大昔の兵器や技術が残っており、この世界の太陽であるアロピナの光をエネルギー源として人々は暮らしていた。
しかし人々と言っても殆どが忠実に働くゼロラ人ばかりで不老不死の女、デリミストが彼らを治めていた。
「カリュス、まだ鍵は見つからないのか」
黒い服を着た青白い肌のデリミストがひざまずくカリュスに訊いた。
「はい。鍵について色々な噂がありましたが、どうやらボレダンにあった事は間違いかと。しかし肝心のボレダンが前の攻撃で無くなってしまった以上は……」
「何度も言うな。しかし鍵が今でもあるのはわかっている。もしあの時に焼失したらカミラガロルが新たな鍵を作るからな」
カミラガロルとはこの島を浮かせているゼロラ人の意識だ。
「カミラガロル様の力は本当に弱まっているのですか?」
「まだ私を疑っているのか。別に信じてもらわなくて構わないがこの島の高度が確実に落ちているのだ」
「いえ、それは別に原因があるのでは?」
「この島がカミラガロルの力で浮いている以上、それ以外の原因はあり得ない」
デリミストは立ち上がって階段を下りた。カリュスも立ち上がった。
「お前はカミラガロルと同じ脳細胞を持ち私が体を作ったゼロラ人だ。私が初めから作ったゼラミアやブリュバルとは違う。何か思う事があるなら遠慮なく言ってくれ」
「シュア様が匿っている女はどうなのですか?」
「あの子は体をもたないし覚えていないようだ。あの機体からの通信でわかっている」
「しかしフェルサも知らないようですが……」
「そのようだな。そのうちシュアがその子を連れてくるだろう。もはやあいつは私を人類の敵だと思っているからな。あの戦いのせいで満身創痍だった妹の体を不老不死にして救ってやったのに恩知らずな馬鹿な女だ。今度来たら始末するつもりだ。そして計画を実行する」
「本当にするつもりですか。シュア様を殺してまで……」
カリュスは目を伏せた。
「ふっ、ゼロラ人でも長く生きると感傷的になるもんだな。人間達と接して感受性が強くなったか」
デリミストが軽蔑を込めて微笑んだ。
「いえ。別にそういう訳ではありません。それでは失礼します」
カリュスは一礼して部屋を出た。
「まあいい。私の憎しみなど人形にはわからないさ」
壁に映った青空の映像を眺めながらデリミストは微笑んだ。
「ゼラミア、調子はどうだ」
広間に入ったカリュスは椅子に座っているゼラミアに話しかけた。
「ああ、見えるようになったが傷が少し残った。あと少し奥に入っていれば死んでいたがな」
「そうか。まあ良かったじゃないか。無事で」
「あんまり喜んでくれている顔じゃないようだな」
ゼラミアが睨みつけた。
「おお、何を火花飛ばし合っているんだ」
そばで赤い果実を頬張りながらブリュバルが笑った。
「うるさい、大食い野郎。お前だって手負いだろう」
「まあ、俺は美人の前でちょっと油断したからな。年増だったがいい女だった」
「ふん、これだから男は……」
ゼラミアが呆れて腕を組んだ。
「お前も小娘に好かれて良かったじゃないか」
カリュスの皮肉にゼラミアはまた睨みつけた。
「まあいい。そのうちあの小娘の顔に一発、私の剣を刺してやるさ」
ゼラミアは剣を抜いてカリュスの額に止めた。
「威勢がいいのはいいが無理するなよ。ちょっと見回りに行ってくる」
カリュスは振り向いて部屋を出た。
「本当、嫌な奴。母上から特別扱いされて調子に乗ってんじゃねえよ」
ゼラミアは舌打ちして呟いた。
「仕方ねえよ。俺達とは出来が違うからな」
ブリュバルは果実を上に投げて拳を連打した。果物がぐちゃぐちゃに砕けた。宙で飛び散った果汁をブリュバルが持ったカップを勢い良く動かして全て受けて飲み干した。
「ああうまかった。じゃあまた食い物探してくるか」
ブリュバルも部屋を出て行った。
「何とか間に合いそうだな」
研究室に入ったカリュスは画面に映る横たわった人影を見ながら呟いた。
(たった一人の女の恨みが人間を滅ぼすか……滑稽だな)
カリュスの口元が緩んだ。
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