魔鳥に乗った盗賊

 「やっと着いた」

 フェルサは故郷のボレダンの跡に立った。

 大部分が黒く焼けた土地のままで生暖かい風が運ぶ砂が所々を覆っていた。

 「うん?」

 長老の家があった跡に黒い鎧を着た女が立っていた。

 フェルサはとっさに剣を抜いた。

 「誰だ、お前は!」

 フェルサの声に鎧を着た人物が振り向いた。短い黒髪の女だった。

 「あら、あなたここの人?」

 女が気だるい声で答えた。

 「その鎧、お前もゼロラ人か!」

 「ええ、よく知っているわね。このタイプの鎧を着ているのは限られているけど」

 「お前もカリュスって奴の仲間か!」

 「ああ、そういう事。まあ仲間と言えばそうなるわね」

 女は不敵に笑うと、剣を抜いてフェルサの横を一瞬で過ぎた。

 「……!」

 言葉を失ったフェルサが振り向くと女は髪の毛を持って小型の機械でかざしていた。

 「ふ~ん……確かにここの子みたいね」

 「何をしたんだ」

 「いきなりでごめんね。ここの民族かどうか髪の毛で調べていたの。間違いないわ。ところでここにあった機械について教えて欲しいのだけど」

 女は長老の家を指差した。

 「お前、何者だ!」

 「私はゼラミアよ」

 女がすんなり名乗ってフェルサは拍子抜けて「お、俺はフェルサだ!」と答えた。

 「あんたの名前なんかいいわ。ここの機械について知りたいの」

 「知らねえよ。何だよ」

 「子供だから知らなくて仕方ないわね。焼いた後で調べても何も出ないしやっぱり無駄だったわね」

 「焼いただと!」

 フェルサは目を大きく開いてゼラミアを睨んだ。

 「村をこんな風にしたのはお前か!」

 フェルサの手が震えた。

 「私が直接やった訳じゃないけど門を潰すためにね」

 ゼラミアの答えを全て聞かず、フェルサは「お前!」と切りかかった。ゼラミアは軽く剣を受けた。

 「お前らのせいでみんな死んだんだぞ」

 フェルサは剣を振りながら叫んだ。

 「そう。それはごめんなさいね。こっちも色々あるのよ」

 ゼラミアは軽く微笑みながらフェルサの剣を受けた。

 「父ちゃんも母ちゃんもシャルマも!みんなお前らが殺したんだな!」

 「悲しくなる気持ちはわかるけどね」

 ゼラミアがシュッと剣を振り上げた。フェルサの剣が宙に浮いて地面に刺さった。

 「だけどね。あんた達がゼロラ人にした事は何なのよ。人工的に作った骨や皮膚に培養した人脳を移植して戦う生物兵器として作ったあんた達人間が偉そうに私達に文句を言えるの?」

 剣を握ったフェルサは歯ぎしりをした。

 「それがどうした!昔の人間がやった事を恨んで俺の家族を殺したお前らが偉そうに言ってんじぇねえよ!」

 フェルサは再びゼラミアに突進した。

 「所詮は子供ね。まあいいわ。ついでにあんたも家族の所に送ってあげる」

 ゼラミアは剣を構えて向かった。

 その時、上から黒い球が降って来た。

 「何だ!」

 フェルサとゼラミアが叫ぶと球が破裂してまぶしい光を放った。

 「光弾か!」

 フェルサは目をつぶった時、強い風と共に誰かに腕を引っ張られた。

 「うわあああ!」

 フェルサの足が宙に浮いた。

 「ほら、ちゃんと背中につかまりな!落ちるぞ」

 同じ年頃の男の声にフェルサは目を閉じたまま必死にしがみついた。

 「悪いな。こいつは俺がもらっていくぜ!」

 男は叫んだ。

 「ふん、コソ泥が!」

 ゼラミアは目を開けて飛んでいく大きな鳥の影を睨んだ。

 「なんだこれは。鳥?」

 フェルサは目を開けて手元を見た。背中が赤くザラザラした生き物に乗っていた。

 「危なかったぜ。あんな強者と戦うなんて無茶しやがってよ」

 手綱を持った少年が振り向いた。

 「俺はラック、こいつは相棒のトトだ」

 「俺はフェルサ。こいつはお前の鳥か。ゴルベンダルのようだが色が違うな」

 「ああ、こいつは俺と血の絆を結んだから赤くなっているんだ。大丈夫、襲わないから」

 ラックは左手でトトの背中を軽く撫でた。

 「血の絆?それはいいとしてお前は何者だ。何でボレダンにいたんだ」

 「おい、助けてやったのに礼は言わないのか」

 フェルサは先程の戦いを思い出し「あっ……ありがとう」と答えた。

 「まあいいや。俺は盗賊。その辺の野蛮な連中と違うけどな。あのゼラミアとか言うゼロラ人が何かお宝を探しているらしいから見張っていたんだ」

 「お宝?青い鍵の事か」

 「ほお、青い鍵……」

 フェルサはツデッパスの襲撃の事を話した。

 「魔物を操る笛を持った盗賊達が青い鍵を探していたのか……何だろうな」

 「ラックはあのゼロラ人の事は知らないのか?」

 フェルサが訊いた時、トトが「キューン」と鳴いた。

 「ああ、ごめんなトト。重たいんだな。もう少し我慢してくれ。フェルサ、こいつ二人は乗せられないんだ。もうすぐ村があるから一旦降りるな」

 ラックはトトの首を撫でながら言った。

 「へえ、なついているんだな」

 「ああ、俺の大事な相棒だ」

 しばらくして二人は小さな村に降りた。

 「さてと、さっきの答えだけどよ。ゼラミアとか言うのは他のゼロラ人とは違うようだ」

 「へえ、そうなんだ。他の奴ってカリュスって同じ鎧を着た奴しか見た事なかったから知らないんだ。目が赤いのがゼロラ人って程度」

 「まあ、ゼロラ人は人嫌いだから無理ないか。普通は無口なんだ。人形みたいにな。お前が見たカリュスって奴はゼラミアの仲間なんだろう」

 ラックは村のそばの池でトトに水を飲ませた。

 「それでお前は何であそこにいたんだ」

 「俺はあの村で生まれた。目の前で焼かれた。さっきゼラミアが言っていたがあいつらが村を焼いた」

 フェルサは拳を握りしめた。

 「青い鍵が何かわからないけど父ちゃんが長老の家に行く時に着ていた服を思い出したんだ。青い鍵の模様が入った服」

 「それで調べに来たって訳か」

 「あのゼラミアが門を潰すために焼いたと言っていた。何だろう、門って……」

 フェルサは深刻な表情で呟いた。

 「なあフェルサ。急に色々あってお前は少し疲れているんだよ。今日は村で休もう」

 ラックはフェルサの肩を叩いた。フェルサは黙って頷いた。

 二人は村に入ってラックは泊まれる場所を探した。

 「えっと、これは……」

 住民達がトトを指差して訊いた。

 「ああ。こいつは大人しい奴で大丈夫だから。ハハハ……」

 (何で俺が説明しなきゃいけないんだよ)

何度も同じ答えをしてフェルサは少し嫌になった。その隣でトトが無表情で辺りを見渡していた。

空き家を紹介してもらってその晩、二人はそこで休んだ。

 「それでお前はモスランダに帰るのか?」

 ベッドで横になったラックが訊いた。

フェルサは隣のベッドに入ろうとした時に「えっ」と振り向いた。

 「まだ決めていないんだ。何だか俺が帰るとゼラミアも追ってきそうな気がして……」

 「あの女。しつこそうだからな。まあその方がいいだろう。あんなのが襲ってきたら町はひとたまりもないからな。それなら一緒にお宝探しでもやるか」

 「お宝?どっかの家に盗みに入るのか?」

 フェルサが嫌な顔をした。

 「いや、そういうのじゃなくて頼まれた物があってな。洞窟の奥にあるらしいが強い怪物がいるらしい」

 「そのお宝か。いいぞ、助けてもらったからな」

 「良かった。そう言ってくれると思った。じゃあ細かい話は明日するから」

 ラックはそう言うとフェルサに背を向けて眠った。

 (何かこいつに振り回されているな……まあいいか)

 フェルサもベッドで横になって休んだ。

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