アンドロイドと忘れられた場所
むーこ
第1話 琺瑯看板
西暦20XX年。遠距離トラックドライバーをしているアンドロイドのケイとエンジニアのロウは、田舎の国道沿いに佇むボロ家の外壁に古さびた金属製の看板が複数掛けられているのを見つけた。
「これ琺瑯でできてるよ」
ケイが物珍しそうに看板に触れる。
ロウはケイより少し離れたところからボロ家全体を見渡していたが、やがて感慨深げに頷きながら「ここはずっとこのままなんだろうね」と言った。
「このまま?なんで?」
ケイが目を丸くする。ロウは「そうか、知らないか」と笑って、看板の1つ─『カクイわた』という字と共に赤子をおぶった少女の絵が描かれたものを指した。
「これは昭和時代に作られたものだよ」
「つまり今から100年くらい前?」
「四捨五入するとね。そんな昔の物が当たり前に貼りつけられてるこの場所は約100年もこのままなんだ。都会は科学の発展に合わせてどこまでも発展していくけど、ここはずっと昭和のままだ。多分これからもそうだろう」
そういえば。ロウに言われてからケイは自分達の地元である都市部の風景を思い出した。
強化アクリルのトンネルに覆われた高速道路も、空を自由に飛ぶ自家用ジャイロコプターも、他のアンドロイドらしき人間もこの辺では一切見ない。
あるのは轍のついたコンクリ製の国道と、その両サイドを埋め尽くす杉林、そして井戸端会議をする老婆たち。
どれも都市部ではもう見ることの無い風景で、この地が時代の流れから外れていることを思い知らされる。
「でも味があって良いと思う」
ケイの主張にロウが「そうだね」と優しく頷いた。ケイは何だか嬉しくなった。
「さぁ仕事に戻るぞ。届け先の畜産公社まであと山1つ越えるだけだ」
「はーい!」
ケイは快活に返事をし、トラックの運転席に乗り込むロウに続いて助手席へと駆け込んだ。
その後、ケイとロウは畜産公社の受付嬢がアンドロイドであることに気づき「発展するところは発展するんだね」と笑い合うのだった。
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