第23話:作戦会議




 俺が社畜へと墜とされてから。

 いくらかの日が経ち。


 生活は、紛れもなく発展の一途を辿っていた。


 何せ、建築チートと武力チート。

 ただでさえ一般の魔獣など歯牙にもかけない戦士たちに、考える頭脳が加わり。


 更に文明の技術力だ。


 これで、まだ不足か?

 もう、アイツらいれば充分だろ。



 ……………。



 ……………。



 なんて。


 そう思っていたのも随分過去の話。

 新たなチート……いや。


 そろそろ女性。

 美人秘書が欲しくなってきた今日この頃。



 と、いうのも……。



「ラグナ殿。此方、周辺の地理と魔獣の周期を――」

「奴らの特性と核石の位置関係の確認を――」

「大将~、追加の調査資料だァ。今日中に遠征に行く奴ら居るから、急ぎで確認しておけよ?」



 ……………。



 ……………。



「――置いて行ってくれ、全部やっておく」


  

 今にも潰れそうな脳の容量。


 俺が過労死枠になるとはな。


 今なら、宰相や局長の苦労も分かるというもの。

 もとよりデスクワークにも慣れていた上に、なまじ知識があると知られてしまったことで、ほぼ釘付けで内政――地盤造りを任されてしまっているのが現状で。



 俺は、戦闘特化型の筈なのに。



 ……早く、文官。


 文官、はよこい。


 物語的には、そろそろ来る時期だろが。

 なんで何時まで経っても来ないんだよ。


 SSRのバルガスさんっていつ登用できます?

 フラグがあるんですか?

 それとも、何かの購入特典か、ダウンロードコンテンツとかですか?

 


 ―――あの爺さん、何時から宰相やってたんだよ。



 聞いておけば。


 こんな事には。



「現実は、そう上手くはいかない……か」



 溜息を吐きながらも。

 機械のように、手だけは動かし続ける。


 色々考えはしているが。


 所謂、ご都合主義。

 或いは主人公補正。

 現実で、そんな都合の良いことが起きる筈はなく。


 更に、現実的に考えるなら。

 この一寸先は闇といえる暮らしをしている彼らに、そんな分野に手を出せる道楽者はいない。


 生活優先。

 もとい、生き延びる事優先だ。



「――おう、大将。これ追加な? 今日の分は、絶対多分恐らくこれだけだ」

「……………」

「私も、立っているだけですからね。そろそろ息が詰まりそうです。何時頃終わりそうですか?」


「……この山だけ終わったら昼メシだ」

「これって……」

「どれだ……?」



 分からないだろうな。

 山だらけの部屋には足の踏み場もねーんだから。


 シオンは最近お出かけ多いし。


 そっちも心配なんだけどなぁ。



「都市の灯りが消える頃には終わる」

「「昼飯とは」」

「良いから、話しかけんな。仲良く駄弁ってろ」



 今のはおよそ冗談だが。

 二人の相手をしながらだと、本当に終わらないからな。


 後ろで、宜しくやっててくれ。


 聞いてるだけなら面白いから。



 ―――お前等の喧嘩。



「そもそも、法務整理は貴方の管轄では? 力の」

「考えるのは……な。許可はコイツ行きだ。んで、早急に許可が欲しいのが幾つかある」


「……成程。近頃は、無知で不躾ぶしつけな輩も増えていますからね」


「おう。そろそろ、嬢ちゃんの護衛も必要だろうな」

「――私で良いのでは?」

「お前はコイツの相手だ」 



 ……………。



 ……………。



 うしッ……確認……おーけー。



「ん、終わったか?」

「あぁ。コレで、ようやくと……」




「―――ラグナ殿ッ、エリゴス様っ―――――ッ!」




「……今度は、何だ」

「どうしました?」


「――おい、おい? 俺は? 俺も居るんだが?」



 確認を取る事なく。

 ノックすらもなく。


 急ぎ駆けてきた有角種の男。


 その貌は焦りに満ちていて。


 ロイドの不満も耳に入っていないようだが。

 恐らく、急いでいたから忘れただけさ。仲が悪いとかでハブられたわけじゃないさ。



 で……彼は、伝令だな。

 


 現在、俺達は角の氏族を中心として、四方八方へ偵察を出し。

 魔獣や支龍の動向を監視しているが。


 彼の所属は北方面。


 第12時班の筈だが。



「急ぎ、11時、12時の方面から伝令ですッ」

「……まさか」

「我々の班は、三日前に目的の集落へ到着。我々は大規模な遠征調査に備える為、物資の補給を。第11班は先んじて周辺集落の調査に赴いていましたが……」



 監視以外にも、彼等には任がある。


 他氏族たちの勧誘だ。

 それ迄、この都市は難民の受け入れは受動的だったが。


 現在の情勢、状況下では。

 一か所に集まる事が良策。

 そう考えた俺たちは、各地に使者を送り、セールスのように移住を薦めて廻っていた。


 そうする事で流入を促し。


 更に都市基盤を固めたが。


 今回も、その一環で。


 遠方の村々へと勧誘に向かわせた筈だが――しかし。

 この様子は、明らかに。



「北部方面。重要拠点であった集落全てが――か、壊滅していたとッ!!」

「…………なッ……!?」

「――だよなぁ……」



 ……………。



 ……………。



 おい。

 とうとう、始まりやがったのか?




   ◇

 



 早馬(馬抜き)報告の後。

 続くようにやってきた者たちからの詳細な報告を受けたが、結果は全て同様。


 第11班然り。


 第12班然り。


 口を揃えて同じ言葉。

 間違いなく、北部の村は全て壊滅だと。



「まぁ、確かな情報……だよなぁ。見て来た連中皆がそう言ってんだからよ」

「我が氏族は、嘘なぞ吐きませんよ」



 あぁ、そうだろうな。


 彼等は生粋の天然種。


 だからこそ、厄介なんだ。

 それが事実であることは、動かせないのだから。



「最後に、一つ聞きたい。生き残りは――居たのか?」

「…………いえ」

「では――いや。ご苦労だったな。ゆっくりと休んでくれ。必要なら、エリゴスが聞きに行く」



「は。失礼……いたします」



 やるせない表情のまま。


 最後に残らせた伝令は去って行く。


 正義感の強い戦士共は、コレだからな。

 多くの内憂を抱えていた魔皇国とは違い。


 現在の俺たちは。


 内側に、敵がいない。

 

 だからこそ、信用し合っていて。

 犠牲になるのは味方確定。

 騎士団などとは違い、同族殺しなんてものに慣れていない影響もあるから、心が死ぬのも早い。


 特に、二人の氏族は。

 性質上、方々に知り合いがいただろうからな。



「―――さぁ。どうする」

「………ぇ?」

「おう。そろそろ、目を背けてもいられんよな」



 従来ならいざ知らず。


 現在、この村は、多くの住民が生活していて。

 数多の技術者、又はその才を秘めた若者たちが集っている。


 魔物除けの術式もあり。


 警護できる戦士もいて。


 発展速度は疑いようもない程だ。

 更には、その噂によって、更に多くの魔族や亜人種が集っている。



 ある種、最高の循環だと言えるだろう。



 だからこそ。

 この一報は、久方ぶりに来た苦い情報で。

 

 この上なく、効いた。

 しかし、手をこまねいている暇もない。



「――おい、角。昨日、外回りから報告を受けたよな」

「……ぇ、えぇ」

「だな。統計は、有るか?」



 ロイドの言葉に思い出し。


 警備責任のエリゴスに問いかけると。

 彼は、すぐに紙面を取り出す。


 天然で、物書きが不得手でも。


 普通に行動は早いし。

 別に、地頭とかが悪いわけじゃないんだよな、コイツ。



「んで……? 北部――12時の方面は―――あぁ……確かに。比較的近辺で、これか」



 おい、おい。

 幾ら忙しかったからって、流石に報連相が不足だろ。


 目撃、被害、発生、移動。

 魔獣関連が、軒並み右肩上がりじゃねえか。


 業績ならば、まだしも。


 こんなん見たくねえぞ。


 背後で連中が話しているのをよそに。

 俺は、無言で、ただその文書に目を走らせ始める。




「……うちの被害も増えてやがる、と」

「王が復活する兆候、やもしれませんね。それに対して、どうすべきか……という事ですか」


「今からでも倒しに行くか?」

「……貴方は。非戦闘者でも、分析力だけはあると思っていたのですがね」

「んだよ。最強の戦士様は、その程度の敵も――あぁ。もう最強じゃ無かったな」


「「……………」」


「良いですか? 相手は――」

「神話に語られる厄災。今より遥かに技術も兵装も発展し、支龍さえ撃退し続けていた北部の都市が、王の目醒めにより一夜で壊滅した……だろ?」

「……分かっているではないですか」

「ちょっとした冗談だ。正直、絶望過ぎて何も浮かばねえよ」




 今まで目を逸らしていたが。

 魔物の発生は、増加するばかり。


 何時までも防戦のままでは打開は不可能。


 大前提として。

 未だ奴らが本領を発揮していない状態で、この始末。

 王なんてのが目醒めたら、目も当てられない……今度は俺達が泣き寝入りだ。



「あの、ラグナ殿」

「やっぱ、お前の意見も聞いといて良いか?」



「―――ん? 居眠り中の王様を倒しに行けば良いんだろう?」

「「………はい?」」



「お前、話聞いてたのか?」

「王は、伝説の厄災で――」

「あ、すまん。めんどくさいから聞いてなかったわ。書類見ながらだったし? というか、何か話してたのか?」



「「……………」」



 分かってはいる。

 

 分かっているさ。


 無論、簡単じゃないだろう。

 物語に語られた魔物の王――白き龍。



 その力は。

 俺のいた時代でさえ物語にうたわれる程。


 厄災、天災、神話……挙げればキリがないが。

 総じて同じなのは、個にして全。

 本体が出てくれば、それだけで滅亡を懸けた戦いになるだろう存在だ。



 ……あぁ、不足はない。



「――そうだ。敵は、伝説の魔獣。だが、それがどうした。どうせ、遅いか早いかの違いだ。測るべきは、相手がどれだけ多く、強大なのかではなく、どうすれば護れるか、倒せるかだけで良い」


「……全部聞いてんじゃねえか」

「阿呆より、よほどたちが悪いですね、この方は」



 そりゃ、質が悪くて当然よ。


 俺は魔王に仕える騎士だぞ。


 理不尽など死ぬ程あった。

 不条理など、数え上げたらキリが無かった。


 だから、同じ。

 今回も、同じように。



 いつも通り、絶望に抗うだけだ。



「―――私は、やるぞ。最前線に立つ。――君たち二人の襟首えりくびを捕まえながら……な」



 それで、勿論だが。


 悪いが、お前等二人は逃がさん。

 途中で辞めたは、絶対に許さん。


 事情を話した以上。

 中枢に入った以上。

 コイツ等は、延々働かされる運命に変わったんだ。 



「――あぁ――こりゃあ……逃げられねえ。とんでもねえ奴に捕まっちまったなぁ? 角の」

「ええ、そのようです」




「――ですが、それも良い……いえ。それこそ我が一族の悲願でもあった。ラグナ殿。今一度、我が命を貴方に差し出しますよ」

「おう、今回は頼む。――んで、参謀は?」

「……んま、やるしかねぇよな。どっちにしろ死ぬんだ」



 ……………。



 ……………。



 良い覚悟だ。

 なら、こちらも。


 最終準備段階に移行するか。

 


「では、こっからが本題だ。実際、今の私達は、戦力として……どうだ?」



 都市の状況を纏めて管理するロイドへと。

 俺は、率直な意見を聞く。


 角の氏族。

 力の氏族。

 どちらも、名の知れた歴戦の戦士たち。


 魔物に対する最高の戦力。

 だが、そんな彼らが居て、今まで防戦一方だったという事を考えれば。



「勿論、正直な話で言やァ、まだ不足だな」

「……だよな」

「都市防衛の戦士を急ぎで育成してはいるが、何分時間が足りん。となりゃ。自然、俺以外の俺達が少数精鋭で大将首を取る事になるが……」



 それさえも、危うい。

 支龍の個体数は割れてるが、一体だけでも厄災級。


 ―――普通に無理。


 奴らが、都合よく纏まって来る筈もなく。

 分散してこられれば、それだけで終わり。


 どうにもならぬと考えていた課題で。


 こればかりは頭を悩ます俺とロイド。


 やはり、覚悟だけでは足りず。

 真に勝つためには、どうすれば良いのかをひりだそうとするが。



 ……………。



 ……………。



「―――あの。私に、心当たりがあります」

「「!」」



 長い沈黙。


 そんな中で。

 意見を申し出たのは、何とエリー。



 最も頭を期待してない奴だ。



「……角の。そりゃ、どういう事だ? そんなモン、俺ァ知らねえぞ」

「未だ私達が知らない武闘派氏族でも居るのか?」



 もしくは。

 戦況を丸ごとひっくり返す兵装。


 聖剣?


 魔剣?


 或いは、神器?


 勇者って事は無いだろうが。

 そんなん、全部あろうとも、状況はさほど変わらん筈で。


 

「……いえ。それは、武器でも、装備でも――氏族ですらなく。ある意味では、我々とは相容れない可能性もあります」

「エリゴス?」

「それは、どういう事だ」


 

 氏族でも、武器でもなく。


 相容れない存在?


 言ったきり、彼は口を閉ざし。

 それを迷うようだったか。


 捻り続ける俺たちの首がねじ切れそうな頃。


 悩むように言葉を詰まらせていた男は。

 決心したように、話し始める。



「支龍とは、眷属。かつて、王が自ら切り離した権能――分け御霊が変化せしモノと言われています」

「あぁ、それは知ってる」



 地の底より顕現した厄災。

 王は、自らの属性を模倣した四体の魔獣を送りだしたと。


 そういう話は一般的だ。



「あんまり焦らすんじゃねえよ」

「早い話で頼む」

「……では、知られていないであろう話から。今より遥か昔。源となる王より流れ出した、大いなる支龍。言い伝えでは、それらを統率する個体もまた、最初に王によって創られたと」



 エリゴスに曰く。

 王の生み出した龍は全部で五体。


 しかし、俺が知るのは。


 俺達が知るのは四体で。


 つまり、内一体は。

 北部で勃発した月の氏族との戦争でのみ現れた故に、他の氏族には記録が残っておらず。


 唯一、数千年前の都市の封印から逃れ。


 同時に、王の支配からも逃れた個体。


 奴らの仲間ではなく。

 しかし、こちらの味方かどうかも分からない。


 原初の魔獣にして。


 最強の個とされる。



 天辺の大妖魔。




「―――その個体は――本龍ステュクスと呼ばれています」

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