第11話:昇格と脳筋
―ラグナ視点―
「では、完全に依頼達成ということで処理いたします。皆さん、本当にお疲れ様でした」
「「ありがとうございます!」」
教国第二支部の支部長…ハロルド氏に、感謝の言葉を贈るリクたち。
皆、疲れこそ残っているものの。
その表情は、一様に晴れやかで。
依頼の目的であるオーガを討伐した後。
俺たちは、そのまま遺跡を進んだ。
だが、襲い掛かってくるのはゴブリンばかりで、他の魔物は出ず。遺跡に居たオーガは、あの二匹だけだと考えるべきだろう。
まあ、大陸の最西端だし。
オーガ種がいること自体が稀なので、当然と言えば当然なのだが。
そのまま引き返して、入り口に戻るころには夜も更けてきていたので。そのまま野営をして一夜を過ごし、何事もなく都市に戻ってくることができた。
勇者の初依頼は、大成功という訳だな。
「――では。皆さんには、こちらを」
礼を言うリクたちに。
ハロルド氏が、あるものを渡す。
それは、ギルドの紋様が刻まれたワッペンのようなもので。
本来なら、もっと早く渡される筈だったのだが。
まあ、こういうこともあるな。
「これは…冒険者の証、ですかね?」
「はい、その通りです。本来であれば、見習いの証明であるF級の冒険者証なのですが、ナクラ様の力を借りずにオーガに立ち向かうその勇気と、実際に討伐した実力を考慮して。――その一つ上、E級の物になっています」
「「おおーー!」」
そう、冒険者証。
ギルドで依頼を受ける際に提示するほか。
人間国家での通行許可証としても使われる代物だ。
商人たちであれば商業組合の許可証を持っているが。冒険者証の場合は、危険区域に指定されている場所にも立ち入ることができる。
逆を言えば、これが無いと関所の通行も不便になる。
旅のお供に欲しいアイテムだ。
……最下級はFからだが。
これは、あくまでも採取任務や弱い魔物で自信をつけるためのもので、いわば仮免許。
故に、一定の実力があるとギルドが判断すれば。
すぐにE級になるのは、そこまで珍しくない。
「良いんですか?」
「えぇ、勿論。本来オーガ種は最西端にはいない種族。それだけ強力で、C級の討伐難度です。勿論、
その話は、俺が昨日陸たちに話したものと同じ。
―――だが、やはり。
あの時のことを根に持ってしまっているようで、席に座っているリクたちから鋭い視線を感じる。
ちゃんと伝えたんだから。
そろそろ、許してくれないかな?
「……先生」
「やっぱ、倒せないと思ってたんすね?」
「先生酷ーい」
「さすがに擁護できませんね」
ちッ、これだ。
ようやく皆が怒りを忘れてくれたと思ったのに。
……ハロルド氏? 恨みますよ。
―――でも、倒した。
彼らの戦闘センスは、間違いない。
これからも、凄まじい速度で磨かれていくだろう。
勇者という存在のポテンシャルは、非常に高い。
今までに何度も勇者とまみえた暗黒騎士が言うんだから間違いないさ。
ま、実際には言えないけど。
ともかく。これ以上、皆からの攻めるような視線は浴びたくないので。説明しなければいけないと思っていた話を振ることにしようか。
「ハロルドさん。そのこと自体は伝えられたんですから、冒険者のランクについて詳しく話しませんか? 実は、まだ彼等には説明してないんですよ」
「「あ、話逸らした」」
こうでもしないと。
ずっと睨まれそうだからね。
俺から話すより、専門であるギルドの支部長が伝えた方が分かりやすいだろう。
対面のハロルド氏も。
ひとしきり笑ってから、任されたと言葉を切り出す。
「仲がよろしいんですね。…では。ここは、ギルド職員である私からご説明いたしましょう。まず、大陸ギルドが定める通常の冒険者ランクですが――」
冒険者の階級は。
全部で7種類。
一般に、F級からA級までが存在する。
このうちF級とE級が下位冒険者。
D級とC級が中位冒険者。
そして、B級とA級が上位冒険者となっている。
冒険者は戦闘職。
やはり、多くの危険が伴うモノ。
だからこそ。
ギルドは少しでも生存率を上げるため、ランクによる制度を作り、危険が伴う高難易度区域への入場を制限している。
そういう理由もあってか。
大多数の冒険者が生涯で到達するのはC級まで。
これが凡人の限界とも言われ。
到達すれば、文句なしに一流ともされている。
そして、才ある者。
上位まで至れるものは、東側で活動する権利を得て、国家単位からの指名依頼をも受けられる。
「分かりやすくて良いっスね」
「そうでしょう? 二百年前に、異世界の勇者様がもたらした仕組みですから」
ハロルド氏の言葉に。
熱心に耳を傾ける四人。
これからのことを考えると、緊張を覚えてしまうのは当然だが。誰一人暗い顔をしていないのは、本当に素晴らしいことだな。
やはり、覚悟の質が違うようだ。
一通りの話を聞いた後。
ずっと考えるようにしていたリクが口を開く。
「あの。そう言えば、先生のランクは……?」
「……ナクラ様。教えていなかったのですか?」
「そういえば、上位冒険者とだけしか教わってませんでしたね」
「えーと。何か、自分で名乗るのって恥ずかしいじゃないですか」
うん、恥ずかしい。
いや、そもそもだ。
こういう世界のお決まり的に、先に正体を明かした方がやられるみたいなお約束あるじゃん?
別に、隠してたわけじゃないんだからね?
聞かれなかったから答えなかっただけだし?
俺の言い訳に。
ハロルド氏は納得したように頷く。
「はぁ、なるほど。ナクラ様は、大陸ギルトのA級冒険者。――【
「暁闇……カッコイイな!」
「恰好、良い…ですかね?」
「――やーい、ぎょうあーん!」
ほれ、見ろ。
まるで中二病患者みたいな扱いみたいになる。
だから言いたくなかったんだよ。
俺はもう、そういうのは卒業しているんだけどな。
「――あの。二つ名って、ギルド公認なんですか?」
「はい。…というより、名付けているのがギルド側なのですよ。上位…B級に至った時点で送られることが多く、その人物の特徴や戦い方などから名付けるのです。ナクラ様はその黒髪から、でしたかね?」
「……えぇ、一応」
二つ名持ちの冒険者。
分野は様々だが、皆優れた使い手だ。
C級冒険者を超え…人の本来持ちうる限界を超えて、上位に至ったものたちなのだから、当然ともいえるが。
……前々から思ってはいたんだが。
戦闘スタイルとかならまだしも、黒髪ってだけで名付けるのはおかしくない?
もっとこう…うん。
自分でも思いつかない。
名前を付けるのは得意じゃないんだよ。
一通り皆から揶揄われた頃。
俺に助け舟を出すように、ハロルド氏が咳払いをする。
―――元凶あなたですけどね。
「話を続けますね。上位へと至り、国家からの依頼を成功させている内に、冒険者は英雄ともいえる働きを見せることがありますが。そういった者は、複数の国家より推薦を受け、やがてS級へと至ります」
「………ほぇー」
「やっぱり、特別枠あるんすね」
「上ってことは、先生よりも強いのかな?」
「あ、その人はただ昇格を蹴ってるだけらしいです」
また余計な事を。
もしかして、ハロルド氏。
俺に何か恨みでもあります?
俺が昇格を受けない理由は簡単だ。
S級になってしまうと、今以上に面倒な依頼や、東側関連の依頼が増えるが。
その中には、魔皇国に不利益なものも多い。
流石に自国に剣を向けるような行動は許されないので、これ以上の昇格は願い下げなんだよ。
「S級の人たちってどれくらい強いんですか?」
「単騎で小国の軍事力に匹敵すると言われています」
「「………!?」」
「じゃあ、その人たちがいれば。魔王を倒すことも…?」
「……いえ。彼らは、あくまで人類の守護者。攻めるためではなく、守るための戦力というのが正しいでしょう。――まあ、その殆どが問題行動ばかりの
「――なるほど」
うん、その通り。
例外はいるとしても。
あいつら、見事に人の話聞かないからね。
そもそも、俺がここに居るのも。
あいつらに勇者を任せる訳にはいかないからだし。何かの間違いで異界の勇者がいるなんて聞いた日には、それこそ全力で勝負を仕掛けてくる可能性だってある。
どう考えても教育者向きではない。
「……と。新人冒険者への説明はいつもこんなものですかね」
「はい、知りたかったことは大体わかりました」
「先生がぎょうあんってことも分かったしね」
「……ハルカ。あまり虐めないでほしいな」
これは、暫くネタにされるな。
ま、あまり虐めるようなら。
食後のデザートを抜きにしてやろう。
報酬を受け取れるようになったら各自で払ってもらうけど、今の生活費は全て俺が持っているからな。
「それで……遺跡で見つかった遺体ですが。数週間前に登録した新人冒険者の物だったようです」
話を切り替えたハロルド氏の言葉に。
リクたちの顔が強張る。
冒険者である以上は避けては通れない話だが、やはりくるものがあるのだろう。
でも、恐怖を忘れないのは大切なことだ。
ここは俺からも話を掘り下げておくか。
「――そうですか。では、勝手に遺跡へ?」
「えぇ。身の丈に合わないものだと分からなかったようですな。…こういう例もあります。冒険者たるもの、敵地ではどんな時も気を抜くことが無いようにしなければなりません」
「「……はい」」
確かな意志を込めて頷く四人。
リク達なら、この気持ちを忘れて油断をすることはないだろう。
「では、最後に後味の悪い話を申し訳ありません。これにてギルドの説明を終わります。依頼達成、本当におめでとうございます。今日はゆっくりと休まれてください」
「「ありがとうございます!」」
お話、終わりっと。
やーっとこさゆっくりできるな。
「――みんな、お疲れ様」
「あたし、甘いものが食べたい!」
「私は…図書館、行ってみたいですね」
「いやー、ようやくゆっくり休めるな」
あぁ、本当にみんな頑張った。
ここ数日間は働き詰めだったこともあり、皆かなり疲れが来ている頃合いだろうし、休息の大切さも教えなければいけない。
今日ばかりは自由な時間を過ごさせてあげよう。
―――でも、その前に。
「――コウタ」
「なんですか? 先生」
「ちょっと確認したいことがあるから。一緒に来てくれるかい?」
「「???」」
◇
「……んッ! …なんで、俺! こんなことさせられてるんですかね?」
「205…206…さあ? ……207 康太、凄いね」
「康太君ファイトー」
「頑張ってください、桐島君」
ハロルド氏に挨拶してから応接室を後にしたのち。
訓練室で俺はコウタに身体強化である“練気”を使わせずに腕立てなどのトレーニングをさせていた。
勿論、それは理由あってのことだ。
この数日間で。
俺は、コウタの長所を生かすための特訓をさせていたのだが。
今回の依頼で。
疑惑が、確信へと変わっていた。
事実、既に多くのトレーニングで負荷をかけているのにも拘らず、コウタは問題なさそうだからな。
「少し前からそうなんじゃないか思ってたんだけど……コウタの異能が分かったよ」
「――ホントですか!?」
「あぁ。…あ、コウタ。そのまま続けて?」
「なんで!?」
すまんな、コウタ。
意味は無いけど。
俺の憂さ晴らしのための犠牲になってくれ。
一応、訓練になるし。
「――先生。康太の異能は?」
「何なんですか!?」
「気になりますね」
「ああ、コウタの異能は――筋肉疲労が高速で回復する能力だ」
その能力は。
聞いただけだと、とても地味かもしれない。
しかし。この世界に存在する回復薬などでも、肉体的な損傷や精神的な疲労を癒すことは出来ても、筋肉に溜まった疲労や、それによってもたらされる筋肉痛を治すことは出来ない。
それを考えれば。
汎用性は、極めて高いと言える。
「つうことは? どれだけ戦っても腕が上がらなくなったりすることはない?」
「その通り。聞くだけだと地味だが、とても強い力だ。体力をつけてさらに
「1日……凄いですね」
「やっぱり、脳筋なんだね。康太君」
「さすが康太だね」
「……おかしいな。褒められている気がしないんだが」
仲が良いことは素晴らしいことだよ。
これからも君たちは一緒に戦い続ける。
イザという時。
その絆の固さが生存、そして勝利をもたらすことだってあるだろう。
……コウタの異能の名前はどうする。
まあ、いつもので良いか。
「異能の名前はリカバリーでいいんじゃないかな?」
「いつも通り、安直ですね」
「ウッス。俺はそれでOKです」
「……え? いいの?」
「戦闘中に名前叫ぶような異能でもないしな」
「ひどくない? 君たち」
仲良きことは素晴らしいのだが。
彼らは、先生の事を何だと思っているんだろう。
……さて。
取り敢えずの疑問も解消されたし、今日のところは解散でいいか。
「じゃあ、二人目の異能も分かったところで。ここからは自由時間だ」
「私、図書館見てきますね」
「僕は少しだけ訓練していきたいです」
「――先生!! 私、もっと皆の役に立つために攻撃用の魔術とか覚えてみたいです!!」
「そうだね。じゃあ、ハルカはその方向で進んでいこうか。……各々、好きなように過ごしてくれ。ハルカは良い感じの魔術を紹介しよう」
「「ハイ!」」
さて、彼女にはどんな魔術を覚えてもらうべきか。
少なくとも魔力量に問題がないのは検証済みだから、あとは適性の問題だな。
遠距離型のメンバーが必要なのは勿論だが。
それでも、ある程度の近距離戦闘ができたほうがいいし。
―――ともあれ。
もう少し、この支部を拠点として訓練する必要があるだろう。
そして、次に向かうのは……うん。
丁度良いし、【セフィーロ王国】にするか。
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