清掃員の秋子さん

@ako025733

第1話 コロナ騒動顛末記

こんな面白いマンションはそうそう無い。

常日頃秋子サンはそう思っている。

秋子サンはマンションのパート清掃員である。

つい最近まで都心のホテルでばりばり働いていたが60歳の声を聞いて、なんとかゴマかしていた腰痛や頚椎捻挫、膝が悲鳴をあげだした。

そして、このコロナ。

ホテルの客足がぴたっと無くなった。仕事も無くなった。

助成金の支給に心は大いに揺れたけれどこの先を考え思い切って辞めた。

だが、そのまま家でのんびり余生を過ごす、は選択肢にはなかった。


子供達が独立しても自分が還暦を過ぎても夫婦2人であっても働かなければ秋子サンの家の経済状態はあまりよろしくない。例え短時間パートでもその収入が生活を少々、いや、かなり格上げしてくれるのは確かである。

まあ今どき60代は働く世代であるらしい。


が、しかしだ。

生来の働き者に加え明るく好奇心旺盛な秋子サンにとって清掃員の仕事は今のところ生き甲斐に近い。

良い運動になるし住民も親切でポイントが高い。

しかもホテルの清掃やチェック等の作業から比べるとかなり身体への負担は軽いし。

そりゃそうだ。清掃員のほとんどが60歳以上ですの求人広告をみて面接に行ったんだからね。


さて秋子サンの清掃するガーデンマンションは築30年、4棟全78戸の規模である。秋子サン1人で9時から13時まで綺麗にするのに充分なサイズ感だ。


朝9時に管理室の玄関からモップやバケツ等の清掃用品を抱えてそれぞれの棟へ出発する。


コロナ禍の今は1番欠かせない作業のひとつが消毒である。

入り口や階段の手摺り、エレベーター内の階数ボタン等など住民の手の触れる場所は消毒液でスプレーしながら拭きあげていく。

1日に一度の消毒で何か意味あんのか?とも思うが秋子サンは真面目だ。清掃会社の指導にはかなりキチンとやる派である。

もちろん各棟の一階エレベーター前にも消毒スプレーが設置してあり出入りするたびに手にシューシュー出来るようになっている。

今はどこの施設にも入り口に置いてあるアレである。

こんな事態がいつまで続くのか秋子サンは考えるだけで嫌になる。


ところで小さなマンションだと管理員が清掃も担っている所もあるが

だいたいにおいて管理員と清掃員が

セットでいるものらしい。

ガーデンマンションも例に漏れずアカシア不動産管理会社から管理員と清掃員秋子サンが派遣されている形である。

この管理員がまたすっとぼけたじっちゃんなんだな。と言っても実は秋子サンより年下らしい。

いつ見ても一坪ほどの管理員室にぼーっと座っている。

住民に存在を示す為に小さなガラス窓から目の開いてる顔を見せとかなきゃならんらしいが、なんだか額に入っている絵みたいである。

しかし噂では前職は自衛隊らしい。性格に似合わず?顔は怖い。自衛隊は定年が55歳と言う噂だ。で、次はここかい。


そして…そして大事件の始まりは…火曜日の昼であった。


いつものようにウォークマンで音楽を聞きながらマンションの階段を掃除している秋子サンのスマホが珍しく震えながら鳴った。

マンションの中を清掃中の時は管理員からの緊急連絡は個人のスマホに来る事になっている。

滅多に鳴らないスマホに出ようとして

切ってしまう60歳だ。

はい、はいと返事しながら、また切ってしまい管理員ハタさんの顔を思い浮かべて折り返す。

秋子サンだよ、何かあった?

と尋ねるとハタさんは

いや〜俺、熱あってさ…。これから保健所行ってくる。

でさ、悪いんだけど管理員室とか集会室とかのドアのぶ消毒しといてくれない?

えーっ!ええーっ!!!

聞いた瞬間、秋子サンモップ持ったまま階段途中で固まった。

そりゃこのコロナ禍である。

だが秋子サンの周りにあまりと言うか殆どまだ感染者が出たとは聞かない。がいつ自分の身に降りかかるかもと想像はしていた。いざと言う時の覚悟だってしていた、はず、である。

それにまだコロナと決まった訳でもないのにこの動揺は何だよ、と秋子サンは自分に突っ込む。

しかもだよ、前職の都心のホテルでならわかる。秋子サンの住んでいる街は

日本でも有数の観光地である。その都心のホテルは交通の便も良くコロナが始まってもしばらくは全国から、中国の武漢からだって団体客が暫くは途絶えなかった。クラスターとやらが出たっておかしくなかったのだ。それでもコロナ感染者はいなかった。多分。きっと。

比べてここは街外れの小さなマンションだ。住民は高齢者がほとんどだし人の出入りも少ない静かな環境でコロナの危険性はかなり低いと思ってすっかり安心しきっていた。

なのに。なのに、えーっ!である。

頭の中を言葉がぐるぐる回る

が、ごめんね、ごめんね、と言うハタさんへ最初に出た秋子サンの言葉が、わかったよ、ハタさんが悪いわけじゃ無いから!頑張って保健所行って来て!だった。

咄嗟に出た自分の暖かい言葉に涙が出そうになる。秋子サンはこれでも相当に優しい。

慌てて階段の掃除を中断して管理員室に続く集会室に戻る。管理員のハタさんと清掃員の秋子サンは玄関が同じで管理員室との共用玄関を通り、その廊下奥に秋子サンがロッカー代わりと休憩に使っている住民の為の12畳ほどの集会室がある。

ハタさんは私への連絡後すぐに帰宅したらしい。

集会室に戻った秋子サンはマスクを二重にし直してゴム手袋を履きドアのぶや扉を消毒しまくった。

でも、まだコロナと確定した訳じゃない、インフルエンザかもしれないと半ば願うような気持ちでいた。

しかも会社の営業担当者からも何の連絡もない。

私がびびり過ぎるのか?と思い、残した清掃作業を終え今日は秋子サンが管理員室の鍵を締め慎重に鍵がしまったか三度見して、いつも通りに帰宅したのであった。


夫の冬人さんが帰宅しても、この事はなんとなく言えなかった。


水曜日。

ハタさんがコロナでありませんように、インフルエンザか何かでありますように願いながら出勤する。

マンションに近づくにつれ管理員室のガラス小窓のシャッターが空いているのが見て取れた。あーやっぱりコロナじゃなかったんだ!良かった、と駆け寄ると、ありゃ?顔が違うけど管理会社の制服を着た、これまた人の良さそうなおじいちゃんがそこにいた。

あの、おはようございます、私はここの清掃員の秋子です。

ハタさん、大丈夫ですか?と尋ねると

そのおじいちゃん、いや、サイトウさんは、いや、ハタさん休みだから、ここに入ってと会社から連絡あって来たんだけど、と。

聞けば管理会社の担当する管理員や清掃員が休んだ時の穴埋めをする仕事なそう。70歳を超えたから少し働く、と言う雇用形態らしい。

何も聞いてないと言うので、実はハタさん発熱があり保健所に行くと言って早退されたんです。あの、こんな時期ですしコロナじゃないと良いんですけど何か聞いてませんか?と聞くなりサイトウさん固まった。

もしハタさんコロナなら、この半坪ほどの換気の悪い管理員室に消毒もなしにそのまま入ったのは、そりゃ怖いだろうと察せられた。

いや、はっきりコロナと決まった訳じゃないけど…

念のため管理員室の窓開けた方が!ドアも開けっぱなしにして!机や椅子はもう一度消毒して!と消毒液の入ったスプレーと綺麗な布を渡す。ドアのぶは昨日私が消毒しましたからと取り繕う秋子サンだったがサイトウさんと顔を見合わせたまま2人してしばし固まってしまった。


歳を取っても怖い事ばかりだ。


一度は固まったサイトウさんだが

我に帰ったあとの反応はあっぱれであった。

いや、もう管理室に入っちゃったし。

まだコロナ確定でないんだしさ。その連絡待つしかないね。と。

もし違うのなら住民に要らぬ心配させても申し訳ないから普通に仕事するさ、だって。出来たお人だ。

だが、そのまま会社から何の連絡もなく心がざわざわしたまま秋子サンとサイトウさんはそれぞれの仕事をこなしてこの日は終わった。


木曜日。

出勤すると今日も代替管理員のサイトウさんがいた。会社からは何も連絡有りませんか?といの一番に聞いたが残念そうに何も無いと言う。

何か連絡あったらスマホ鳴らして下さいねといって清掃に向かったが

その日はとうとうスマホが鳴る事はなかった。


そして金曜日。

出勤すると今日も管理員室の小窓にはサイトウさんがいる。が、今朝は私の顔を見るなり管理員室から外まで飛び出してきた。

秋子サン、コロナだって!!

えーっ!!ええーっ!!!

やっぱりそうか…。

ちょっと待って!まず安定剤のんでくるから!

秋子サンまず集会室に入りカバンから安定剤を取り出すと水も無しに薬を一錠呑み込み、それからタイムカードを押してサイトウさんの所に戻った。サイトウさんは俺にも安定剤くれと言わんばかりの顔だ。

秋子サンはまだ更年期の影響で自律神経もいっちゃってるのか心身共に不安定になる事があった。

なので内科から頂いた安定剤はいつも持ち歩いている。

そうやって頑張って生きている秋子サンだが薬はいつも通り今日もいい仕事をする。

呑んだ瞬間効いてきた。


サイトウさんは管理員室の入り口で待っていてくれた。

じゃあ私どうすれば良いんですか?

ハタさんと一緒に働いているのだから、このままこのマンションを清掃するのは駄目なんじゃ…?

管理会社の担当はなんと言ってるの?と矢継ぎ早に聞くと

いや秋子サンの事は何も…と言うではないか。

え?何もって。コロナになったハタさんと一緒に働いていた私がマンションじゅう練り歩いて清掃して良い筈がない。だよね?

サイトウさんも

だと思うけど、と不安そうであるが会社から何も言って来ないし…と言う。

ところで今日夕方業者が消毒に入るんだって、とサイトウさん。

夕方って?!それまでウイルスの舞っているかもしれない所で仕事をしてろってか。いやもうしてるか。

いやいやサイトウさん、それじゃ駄目だよ。二次感染、いや、今はクラスターだ、それを防ぐ為にも今すぐしろと言わなきゃ!ウイルスはかなりの日数生き残るとTVで見たよ!


ざわざわと恐怖感が湧いてくる。


サイトウさんもそれを聞き慌てて直ぐ連絡するわ!と言いだした。だよ。私よりアンタの方が危ないって!と秋子サン心の中で叫んだ。

それから秋子サンは唯一の同居家族、夫に連絡する義務がある事をサイトウさんに伝える。場合に寄っては我が家の、ひいては主人の会社の危機である。

サイトウさんは会社からの指示があると思うから、それまで少し待ってて、まあ今日の午後には連絡来ると思うよとおっしゃっる。

秋子サン、私は?私はこのまま清掃してて良いのかな?とサイトウさんを頼りにするも、だって何も言ってこないんだから普通に清掃してて。だって。

またのんきなサイトウさんだ。


まあ確かにハタさんとは玄関が一緒ではある。が秋子サンはそんなにお喋りな方では無いし朝と帰りの挨拶以外に

ハタさんと話すことは殆ど無かった。秋子サンは短時間のパートなので、あまり作業時間に余裕は無い。

一方、ハタさんは基本管理員室に詰めていて住民の苦情を聞いたり、たまに不具合があると工具箱を携えて簡単に修理できる所は修理して歩いている。その他にもマンション周りの細々とした仕事があるらしい。

他のマンションはどうなのか知らないが秋子サンとハタさんはお互いの仕事に対して踏み入る事はなかった。


が、待てよ、ハタさんが早退する前日の月曜日、集会室にハタさんがカタログを持って来て秋子サン何か清掃に必要な物あるかい?と長机にカタログを広げ、マスクはつけたままだったが

隣同士で2、3分話したっけ。と思い出した。


しかし、である。非常事態だと秋子サンは思っているが、この管理会社の静けさって。ひょっとして私はTVで良く耳にする濃厚接触者にもならないって事なのかな。私がびびり過ぎなのか?

それならそれでそう言って欲しいもんだ。

あれ?そう言えばハタさんが早退して保健所に行ったのは火曜日だよね、確かその三日前の土曜日の午後にマンションの住民7人とアカシヤ管理会社の担当者と管理員のハタさんとでマンションの集会室で理事会やってるはず。

ヤバいじゃん!

そっちはどうなってるんだ?

それにだよ、例え私が濃厚接触者で無いとしてもマンションの住民からするとコロナになった管理員と一緒に働いている清掃員がマンションじゅう、うろうろするのは恐怖以外の何ものでも無いだろう。

もはや心にあらずとはこの事で清掃と言っても、ただモップを引きずって歩いているだけの秋子サンだった。

そう言えば…先週半ば辺りからハタさんが元気なかったような。いつもは管理員室のガラスの小窓にきちんと肩から上が収まっているのに、なんだかそれがずれて肩と顔が斜めになっていたので、おっ!ハタさんお疲れなのかな?と思った記憶があった。 

それにしても、このまま働いていて良いのか?コロナだよ!この危機的状況に何も言って来ない管理会社にかなりの不信感が湧いてきた。

しかしながらそのまま清掃するしかなかった。


そして昼過ぎ

秋子サンの清掃中に業者の消毒作業員が来て管理員室から集会室までの消毒作業をしたらしかった。さすがののんびりサイトウさんも消毒は夕方ではなく早くしろと会社に言えたらしい。

業者の消毒って、TVで見たアレだよね。入り口で宇宙服みたいな防護服を着て機械で消毒液を噴霧して歩く…

と言う事はいよいよマンションの住民達がただならぬ気配に気付く時がきたようだ。

好奇心旺盛の秋子サンも是非その現場を見てみたかったが働かずにずっと入り口で待っている訳にも行かず残念だが立ち会う事は出来なかった。

がしかし、これで大騒ぎになるだろう。管理員室の前に住民に向けて詳細を説明した注意書でも張りだすのだろうか。

この何日かの間に様々な用事で管理員室を訪れた住民もいるだろう。

ご高齢で耳の遠い方も多いから1m以内で会話もしているだろう。

色々な業者さん達だって、あの半坪ほどの狭い管理員室で打ち合わせをしているはずだ。一体どれくらいの人達と接触しているのだろうか。また保健所はどんな風に追跡調査をするのだろうと秋子サンは想像逞しい。


いや、ちょっと待った!それどころではない、自分はどうすれば良いのかが先じゃん!


集会室に戻り水分補給をしていると

そこへサイトウさんがやって来た。

秋子サン、あのね、会社から連絡来たよ。秋子サン心配なら自分で保健所に連絡してって。

ほっそいピラピラしていかにも頼り無さげな青の付箋に市の保健所の電話番号を書いたものを申し訳無さそうに持ってきた。

えーっ。私が自分で保健所に連絡するの?びっくりだ。いよいよこの会社の危機管理が危機なんじゃ。

待っていた会社からの連絡はそれだけだと言う。

とにかく出勤している主人に連絡するよ!と言ったらサイトウさんも、良いんじゃない、困るでしょ。と。

もう充分秋子サンは困っとる。


スマホから会社にいる冬人さんに無料のライン電話をすると、ちょうどお昼休みだったらしく直ぐに繋がった。

冬人さん!大変、出た!!コロナでたよ!

秋子サンから詳細を聞いた冬人さんは

秋子サンの立ち位置がわかるまでは俺は自宅待機だな、とにかく引き継ぎして帰るわ!となんだかちょっと嬉しそうだ。学校をズル休みできた子供みたいな気持ちかなぁと最近忙しくて帰りの遅い冬人さんの疲れた顔を思いだした。

結局この日も秋子サンは普通に清掃を終わらせサイトウさんから貰った青の付箋を握りしめて定時に帰るしかなかった。

帰宅すると冬人さんはもう先に家に帰っていた。

秋子サンも手を洗い、うがいをして更に消毒液を手にすり込む。


家では愛鳥のセキセイインコのぴーちゃんが嬉しそうにで迎えてくれた。

ぴいは4歳になる雄のセキセイインコである。セキセイインコはその小さい身体に似合わず、なかなか賢いらしい。YouTubeで見るよそのお宅のセキセイの芸達者ぶりには感心してしまう。まあお喋りはするわ歌は歌うわ、小さなボールを投げると飼い主の所まで持ってくる強者もいる。

3歳くらいの知能があると言う人もいるくらいだ。が、我が家のぴいちゃんは無芸だ。お喋りも教えてはみたが自分の名前のぴいちゃんが精一杯である。しかもてんかん持ちで通院と薬は欠かせないときている。

ただ可愛いだけで生きている。

がそのしぐさやフォルムで秋子サンや冬人さんを全力で癒してくれる。

ただ、毎日餌をやり水を取り替え、カゴの掃除をする秋子サンにではなく夫の冬人さんにえらくなついている。

秋子サンは知っている。冬人さんは秋子サンに隠れて人間の食べるものをねだられ、ちょいちょい与えて点数を稼いでいるだけである。

毎朝新聞を読み始めると冬人さんの手に止まり可愛い頭を冬人さんの親指辺りに擦り付けて掻いてとねだる。

秋子さんには身体を触らせてはくれないので羨ましい。世話をしている私に感謝の気持ちは無いのかと悔しくなるので、その頭の中は鼻くそみたいな脳みそしか入ってないんだよね〜仕方ないよねーとインコ相手に嫌味をいうが、そんな時は、まあるい黒い可愛い眼でじっと秋子サンを見つめて、ぴいちゃん、と答えてくれる。

案外わかってるのかも。


そうこうしているうちに

3時になった。

いよいよ秋子サンは意を決して渡された青の付箋を確認しながら保健所に電話してみた。

繋がらない。小一時間かけ続けたが

常にお話中だ。

まあこのご時世なら仕方が無い。

秋子サンは清掃の仕事が終わり帰宅すると2時過ぎである。軽くお昼を済ませ奥様向け情報番組をゆっくり見るのが楽しみだが近頃は観る度にコロナ感染者の人数が増える一方である。

渡された保険所の電話番号は全市民に配布される広報に載っている健康相談番号と同じだった。

実際に具合が悪くなった人ばかりではなく、ただただ不安に思う人だってかけてくるだろう。

ひっきりなしにかかってきているに違いない。

それから更にかけ続けたが、お話し中で全く繋がらない。

思いがけず早く帰宅出来た冬人さんときたら、もう冷蔵庫からなんちゃってビールを出して飲んでいる。

秋子サンは諦めた。

私にもちょうだい!

電話をするのはやめて冷蔵庫から作り置きのおかずを出しながら、とうとうふたりは酒盛りを始めてしまった。

秋子サンは冬人さんのこんな緩い所が大好きである。


土曜日になった。

秋子サンの会社からは何の連絡もないままであった。

この辺りから秋子サンは自分の勤めるアカシヤ管理会社はコロナ感染者が出た時の対応が出来ないのでは無いかと疑い始めていた。

昨日、日の明るいうちから飲み始めた

2人だが、かなり詳しく今迄の経過を冬人さんは秋子サンから聞きだしていた。その上で、あのさ、会社から何も言って来ないって事は秋子サン濃厚接触者かどうかのふるいにもかからない、ってことなんじゃないの?

だよね。

昨日聞いた所に寄ると秋子サン、ハタサンと1m以内での会話は殆どないみたいだし唯一気にかかるのがハタさん早退する前の日に集会室の長机にカタログを広げて隣同士で何分か話した事でしょ。お互い不織布マスク付けてたわけだしさ、秋子サンの会社がそう言う判断なら俺は出勤できるんだけど。

そう言えば昨日の夕方に冬人さんの会社のコロナ対策課から電話来てたっけ。

その時に私から得た情報を元に話しあったらしい。ただ飲んでるだけではなかったのだ。

冬人さん凄いぞ。


冬人さんは都心のJR駅直結の証明書センターに勤めている。

公の職であるし接客が主であり職場の雰囲気もあるのか昨年コロナが流行り出した頃から自分ではなくても家族が発熱した、家族が濃厚接触者になる可能性が有るだけでも報告を受け次第、素早い対応を取る所である。今までに三件そのような報告があり、とりあえず状況がはっきりするまでは即自宅待機となる。

幸いコロナ感染者はまだでてはいないが、もし濃厚接触者にならなくても念のため数日リモート勤務となるそうだ。その事が今はとてもきちんとした誠実な対応に思えるが他の職場では

そうもいかないのかも知れない。

事実秋子サンのこの職場の対応はどうなんだよ、と考える。

パートだけどさ。

確か年明けにコロナ対策対応マニュアルとかいうものが配布されたよな、あれ、どこにやったかなと考えながら

今日こそは昨日業者が消毒に入っている事だし、それを見かけた住民が黙っていないだろうし大騒ぎになっていると思うから私にも何か進展があると思うよ、と冬人さんに言うと朝食後のコーヒーと新聞をいやにのんびり楽しみながら片手の親指に止まって頭を擦りつけるぴいに目を細める冬人さんを尻目に、行ってくるわ!と出勤する秋子サンであった。


いざ出勤してみるとマンション周りはいつもと変わらず静かであった。

その静けさを訝りながら朝イチでサイトウさんに主人が自宅待機になった事、昨日会社からの指示でサイトウさんから貰った保健所の電話番号は全然繋がらない事、このままだと私も安心して働けないし主人も出勤出来ない事等を伝え、会社の誰に相談したら解決するのかを教えて欲しい、自分で直接電話するからとすがった。サイトウさんはこの管理会社に勤めて一年半だそうだが70代という歳の功があると見た。

そうするとサイトウさんは考え考え、やっぱり営業担当の高山かなと言う。

更にサイトウさん親切に俺、高山に至急秋子さんのスマホに連絡するよう言ってやるからと約束してくれた。

…そうすると、なんだ?本日もいつもと変わらず清掃して帰ろ、と言う事かい。

それにしても管理員室の前に管理員コロナの為休みます。つきましては…みたいな掲示は無かった。

住民のざわつきが感じられないのも最もか。サイトウさんに住民には誰がどう説明するの?と聞いた所、サイトウさん俺は会社からも何も言ってこないし分からん、と言う。

でも昨日業者が管理員室や続く集会室などを消毒に入っている。消毒するにあたりがっちり防護服に身を固めて作業にあたった訳だよね。で、いつもの管理員は休んで代わりの人がいる、この状態はコロナ感染者が出たなと気付くには充分であろう。

のはずなのに、どうしてこんなにいつもと変わらず静かなんだろう。

サイトウさんも住民に公表して注意喚起するのが常識だと言う。

不思議に思いつつ昨日の業者の消毒作業はどんな様子だったか立ち会ったサイトウさんに聞いてみた。

昨日昼前秋子サンがマンションの階段を清掃している最中に業者が車で到着したらしい。

着いて管理員室の入り口外で防護服を着用して入ろうとした所をサイトウさんは会社から頼まれた訳でも無いのに

それは困るから入り口中に入ってから防護服を着てくれと言ったと聞き、サイトウさん、それが忖度と言うんじゃ!と秋子サンは思った。

へー。マンションの住民は知らないんだ。内緒か?そんなんで良いのか…

秋子サンは幸い今のところ倦怠感も発熱も味覚異常も無く体調に不安は無い。TVから得た知識を持ってしても多分あの程度の接触具合では濃厚接触者にはならないであろう気がしていた。

しかし今回流行っているコロナは最初に流行ったコロナから変異したイギリス株によるものらしく感染率も重症度も更に高いらしい。

油断大敵だ。

もし秋子サンが体調に不安がなかったとしてもウイルスを持ってない自信は無かった。

マンションの住民が管理員のコロナ感染を知る所になれば一緒に働いている秋子サンがそのままマンションじゅうをうろうろ清掃しているのは恐怖以外の何ものでも無いだろう。ウイルスをばら撒いているとみなされても当たり前である。

が、それは管理員のハタさんがコロナ感染して入院しましたと公表した場合である。

どうもいまだにそんな気配は無いし秋子サンはどうしたら良いのか心配になる。

しっかし、どこをどう考えてもアカシア管理会社の危機管理ってどうなってるんだと首を捻りながらもサイトウさんの、担当者から秋子サンに電話するように伝えておくと言う言葉を頼りに定時まで働いて帰るしかなかった。


帰宅して悶々としていると、やっと担当者、高山さんからスマホに連絡が来た。

だが、なんだか会話がしどろもどろでちっとも要領を得ない。秋子サンはいらいらしてきた。

だからですね、私の聞きたいのは私が濃厚接触者か否かと言う事なんです。

同居の主人にも連絡を入れましたが

主人の会社のコロナ危機管理上、濃厚接触者かどうかの家族が出た時点で、それがはっきりするまでは出勤停止になり現在自宅待機になっていて

仕事の進行上、予定が付かないと主人の会社にも迷惑をかける事になるのでそこがわからないと非常に困ると説明する。

でもだよ、そのまま私を働かせていた事からも会社として私は濃厚接触者かどうかの篩にもかからないと言う判断だろうと秋子サンは思っていた。

しかし高山さんは話し下手なのか頭が悪いのか、意図的なのか、どんどん話しが論点からするするとずれていく。

秋子サンは無駄な話しを避ける為に自分の考えや聞きたい事を文章にして

整理してあった。日頃から気になる事は何でも書き留めておく習慣がやっと役立つ日が来たのだ。

アカシア管理会社の担当者、と言うのはマンションに派遣している管理員や清掃員達がちゃんと働いているか見回ったり諸々の相談に乗ったり、またマンションの理事会に出席して住民の声を聞き管理員が解決出来ない問題点が有れば改善すべく会社に持ち帰り対処したりする窓口と言う意味の担当らしい。

もっとも秋子サンはこのマンションで働き始めて1年になるが採用時の面接を含めて担当者とは数回しか会った事は無いし、ましてや挨拶程度で話す事もほぼ無かった。

高山さんは、なんだか40代の割には髪は薄くてボサボサだしスーツはよれよれだし流行りの先の細い黒い革靴を履いていたが買ってから多分一度も磨いた事の無いような有り様だった。

あげくに何が入っているのか車で来るのにエライ重そうな黒のショルダーを肩からずり落ちそうに下げてくる。

なんだか運の悪そうな人だと秋子サンは思っていた。

加えて管理員のハタサンに何かを聞かれても前任者の資料を読んでわかりませんでした〜?と上から目線で感じが悪い。多分自分もわからないけど一緒に調べる気も無く聞かれる事自体面倒なんだろうと思っていた。


高山さん、電話で秋子サンが手短かに答えられるように段取りしてやっているのに、なんだかまだもぞもぞと歯切れが悪い。

しいては先日会社から配布されたコロナ感染対策対応マニュアル読みましたぁ?等と言う。

心配なら民間のPCR検査もやってますしね〜だとさ。

秋子サンはじれったくなり、わかりました。私はどうやら会社として心配する濃厚接触者の篩にもかからないと言う事なんですね、ならそのように主人の会社にも報告します、と言うと奴め

いきなり慌て出した。急に早口になると、それは私には判断出来る事では有りませんと妙にはっきり言いやがる。

じゃあ、どこのどなたが判断するんですか!と秋子サンの声が尖る。

それは保健所です!だと。

だ〜か〜ら〜!繋がりもしない保健所の電話番号もらったって困るんだって!と言ったら、いや繋がり易い他の

番号もあるし…と。

なんなんだよ、このオッさん、私は私用でこんな目に合っているんじゃ無い。仕事で出勤した為に、こうなっているのだ。

この緊急事態にふざけてんのか、まで言いそうになったその時であった。

いや、あの、実はですね、管理員がコロナ感染者とわかった時点で保健所から聞き取り調査があったんですけど…

秋子サンの事はすっかり忘れてまして…。いや、ほら感染がわかる3日前の土曜日に理事会あったでしょ、僕も出ましたけど他に管理員と理事の住民が出席していて。その方たちと連絡を取るのに忙しくて。それに秋子サンの名前は誰からも出なかったですし。と、とうとう白状した。

なんか変だと思ったよ。

忘れてた?!

まる1年真面目に働いて来たのに忘れてたと言われた事に驚きすぎて秋子サン空いた口が塞がらなかった。

私って幽霊社員だったんだ。

かなりのショックだった。

しかしここでめげている訳にはいかない。忙しい仕事を宙ぶらりんにして自宅待機になり困っている冬人さんの事をなんとか解決しなければ。

高山の奴、そうですね〜じゃあこうしましょう、私、保健所の聞き取り調査の担当者から連絡先を貰っているので追加で聞き取り調査をお願いしておきますわ。秋子サンのスマホに直接連絡するよう言っときますから。だと。

怒りに震えていても秋子サンは、それいつ連絡くるの?と確認を怠らない。

いやーわかりませんねー。保健所忙しいらしいし。なるべく早くと言っときますから、と話しを終わらそうとした。

ちょっと待った、主人はそれが分かるまで出勤出来ないから急いで貰わないと困ります!それと私の事だけど

もし濃厚接触者でなくてもウィルスを持っていない自信は無いし、いつ住民に公表するのか知らないけど潜伏期間も考えて出勤しないのが当たり前だと思いますけど。てか休みますから!

ハタさんに最後に会った日を思い出す。その日から2週間はうろうろしちゃいかんだろうと思う。

が驚く事に、マンションの住民に公表なんてしませんよ、とあっさり高山は言う。

え!何故ですか?

と秋子サンは聞いた。

それは風評被害があるからですよ!と高山は力強く言い切った。

風評被害?公表したら?

どんな被害が有るのか具体的にはわからない秋子サンには返す言葉がなかった。

風評被害と言う言葉は秋子サンも知っている。この場合は…と秋子サンは想像してみる。

例えばこのマンションに住む数少ない小学生や中学生達が友達にお前のマンション、コロナ出たんだってな、こっち来るな!コロナうつるぞ!とか言われて仲間外れにされるとか?

回復して復帰したハタさんを露骨に避けたり、どこでうつったのか等と行動を責めたりするとか?

はたまたマンションの評判が落ちて売れなくなるとか?

直ぐには、それくらいしか想像出来なかったが風評被害は重くて悪質な性質を含むのだろうと感じて秋子サンはやはり何も言えなくなった。

でも、だよ。このコロナと言う命に関わるタチの悪い感染症が流行っているんだよ。

公表して保健所が追い切れない、ハタさんと接触したなるべく多くの人達に注意喚起するべきではなかろうか。

管理員室前に簡易でも良いからPCR検査キット置くとかさ。もし万が一発熱する人がいたとしたら思い当たり迅速にPCR検査受けるであろう。そうやって広げない努力が必要ではないのか。

それより風評被害を抑える方が大事なの?秋子サンは益々わからなくなった。

高山め、休みはいつまでにしときますか?あー来週いっぱいね〜、わかりました、だってさ。それって私から言うべき事?それとも私がパートの分際で要らぬ忖度をしてしまったのか?日本って忖度の国なの?と秋子サンはまだ文句を言おうと思ったが、高山は自分も民間のPCR検査予約してあり、その時間に遅れるから、と言って電話を切った。

なんなんだ。なんなんだよ!

自分は良いとして冬人さんはどうなるんだ?

その頃冬人さんはTVの水戸黄門を見終わり冷蔵庫の中を物色していた。

ちょっと!まだ飲まないでよ!聞いて!と今の高山の会話を教えてやった。

冬人さんはそんな事だろうと思ってたらしい。が、マンションの住民に公表しないんだってと聞いて、え?それで良いの?と驚いていた。

しばらく出勤出来んなーと言いながらなんだか嬉しそうだ。

あのさ高山の奴これから民間のPCR検査受けに行くんだって。

私も行きたい!今、自分の出来る事はそれくらいしか無いもの、と秋子サンは言った。

高山が民間のPCR検査受けに行くの?最早冬人さんも高山の事は呼び捨てである。

予約時間が迫っているからと電話切られたよ。

こうなると直ぐやる課の冬人さんである。スマホで検索して市内の民間のPCR検査を調べ直ぐ予約を入れてくれた。

おっ。1時間後に出来るぞ。車で行くから用意して。

ラジャー!

こうして秋子サン達は1時間後、都心から少し外れた所にある、民間のPCR検査期間にいた。

ここでもまず入り口で検温と手指の消毒を済ませる。

この民間PCR検査機関は需要に応じて

ビルの空き店舗になっていた一階を時間とお金をかけずにパタパタと作ったような場所だった。

入って直ぐ受付と採取ブースがある。

以前はブティックか何かだったらしく全面ガラス張りで明るいのが幸いだ。

一階角に幅広い踊り階段があり、その上が検査室と表示してある。

秋子サン達の他には誰もいなかった。

積極的に足の進まない秋子さんを尻目に冬人さんは無情にもさっさと会計を済ませ購入したPCR検査キットを、ほら行っといでと秋子サンに渡した。

冬人さんが儲かるだろなーと小さい声で呟く。

キットの中には尿の検査をする時に渡されるよりは短い試験管みたいなのが入っていた。これに唾液を入れろ、と言う事らしい。採取する唾液は必ず容器の線の所まで入れてくださいね。泡は含まれませんからと受付の綺麗なお姉さんに注意される。

キットを受けとり採取ブースさに移動する。採取ブースと言っても選挙の投票所みたいに本当に簡単に隣りとパーテーションで4つに区切ってあるだけのものが間をおいて4列並んでいるだけだ。

正面のパネルには梅干しの写真が貼ってあり笑えた。秋子サンは出来ればレモンのスライスの方が良くないか?と思いながらキットを袋から取り出した。ややっ。唾液採取量の目安線が試験管の意外と高い位置にあるではないか。えーっ。唾液ってこんなにでるか?秋子サンは簡易ブースから斜めに顔を出して本当にここまで溜めないとダメなの?と受付のお姉さんに助けを求めたが若くて手も綺麗なお姉さんは握り拳を作りファイト!だって。

それから約30分…。

梅干しの写真を睨みレモン丸ごと一個入っているスッパい缶チューハイの缶の柄を思い浮かべ、得意な想像力を駆使して秋子サンの唾液は基準線を超えたのであった。

注意された通り泡を除いて線に達しているか確認してから薬液を足して容器のふたを締め二階にある検査室に自分で提出するようになっている。

二階の検査室はガラス張りになっていて防護服を着てゴーグルをしている検査員が1人いた。

採取者と直接接触しないようガラス張りのところに小さい小窓があり試験管立てみたいな所に自分で置いてくる仕組みになっている。

ガラスの中をじっと見ると右手奥がまたガラスで仕切られていてその中では集められた試験管が器械に設置されて

くるくる不気味に回っていた。

結果が出るのは最短4時間と言う説明だったが冬人さんのスマホにメールで検査の判定が来たのは、それから7時間後であった。

冬人さんは検査費用も払ってくれて

検査結果も自分のスマホにくるように

したらしい。

秋子サンは生来小心者なので生きた心地のしない時間を過ごしていた。

自宅に戻り7時間後。

あ、来た。

冬人さんがメールを開く。

そして、ふーん…。と。

きゃーっ!何?なんて来たの?

と聞くと

いや、低リスクです、だって。

陰性とか陽性とかでは無いと言う事?

いやいや、わたしゃ良いよ。それで良いよ。

その低リスクと言う言葉に安心した秋子サンは身体中の力が抜けてしまった。夕飯だってろくに喉を通らなかったのだ。安心したら急に喉が渇いてきた。今夜はなんちゃってビールも飲む気にならなかったのだ。明日は日曜日で冬人さんも秋子サンも休みだ。 

500mlのビールを冷蔵庫から出して自分と冬人さんのコップに注ぐ。

明日は私を起こさないでよ!寝たいだけ寝かせて!と宣う秋子サンであった。

ああ今日も一日なんとかなった。


日曜日。

朝から何もしたくない秋子サンであったが世話を待つぴいがいる。お腹を空かせる冬人さんもいる。

頑張れ!と7時には起き上がった。

幸い今日は良いお天気だった。

こういうのを家事日和と言うのだ。

寝具を片付けて一日を始める。

明日はどうなるのか心配しながらも粛々と家事をこなしているうちに、ちゃんと夕方になった。

今日も何とかなったのだ。


月曜日。

冬人さんの自宅待機は変わらなかったが9時に冬人さんの会社のコロナ対策課から連絡が来た。その時に秋子サン

が民間のPCR検査を受けた事も報告したが自宅待機が解けるには、やはり保健所の判断が基準になると言う。

と言う事はいつ来るかわからない保健所の追加聞き取り調査の電話待ちと言う事になった。

会社から自宅で作業出来るようパソコンを届けると言う。

もうこうなったら仕方が無い。

考えてみたら何日も2人共に休みで家にいる事はなかなか無い。

秋子サンは、ゆっくりのんびり、ぴいの可愛い顔を見ながら家事と珈琲タイムを楽しむしかないと割り切った。

1週間の日中の殆どをお留守番のぴいは今日も朝から籠から出して貰ったままなのが嬉しいのか、ご機嫌さんだ。

最近はてんかんの発作もほとんど無いし結構な事だ。かかりつけの動物のお医者さんの説明に寄ると、てんかんの発作には周期があるのだと言う。マグマみたいに溜まって発作が起きるそうで、しばらく発作を起こさないからと言って治った訳では無いと教えてくれた。こんな小さな身体なのにね。

秋子サンは、ぴい〜と話しかけて顔を近づけけると唇をがっつり噛まれた。

もう!だから鼻くそみたいな脳みそだって言うんじゃい!秋子サンに対する感謝と尊敬がやっぱり足りない。


その日も予想通り何の進展も無く、また夕方が訪れた。ささやかに、なんちゃってビールで一日の無事を祝う冬人さんと秋子サンであった。


そして火曜日になった。

ハタさんが早退してから7日目になる。

秋子サンも冬人さんも体調に異常は見られない。良かった。

今日も9時に冬人さんの会社のコロナ感染対策課から電話が来た。冬人さんの会社には本部に医務室があり医師、看護師、保健婦等が常駐している。

軽い風邪程度なら電話での問診で、その日のうちにメール便で薬が届くのだ。

今の我が家の状況をその医務室と相談したところ晴れて出勤となったとの事だった。ただし秋子サンに保健所の追加聞き取り調査の電話が来たら結果は直ぐ冬人さんの会社に報告することになった。


水曜日。

晴れて今日から冬人さんは出勤である。冬人さんは急に休む事になったので仕事も溜まっているから遅くなるよ、と言って

元気に出かけて行った。

秋子サンは保健所からの電話が来ない事にじりじりし始めていた。

が昨日のTVでも市内の高校2校とコールセンターでクラスターが発生したと言っていた。高校生ならばクラス全員聞き取り調査するのだろう。保健所も作業が追いつかず大変だ。

こんな漏れてしまった1人くらい、元気なら勘弁してくれと言いたいだろうと申し訳無くなってきた。

しかし、その日のお昼過ぎである。待ちにまった保険所から秋子サンのスマホに連絡が来た。

秋子サンは会社の不手際を目一杯ちくりたかったが保健所の方も忙しいだろうと話しを簡潔にと思い自分のメモを整理し直してあった。

なので濃厚接触者では無いと判断を頂くまで非常にスムーズであったと思う。

ちなみにハタさんが早退する3日前にマンションの集会室で行った理事会への出席者全員が濃厚接触者では無いと聞き意外な気がした。

濃厚接触者にならない判断材料が出席者が席の間を空けていた事、会議中誰も飲食をしなかった事、1時間半程度の集まりであり、また全員不織布のマスクであったからだそうだ。

濃厚接触者になるか否かの重大なひとつにマスクの存在がある。

お互いに不織布マスクであれば濃厚接触者とはならない。片方だけ布マスクであればグレー、どちらも布マスクだとアウトだと保健所の方が言っていた。

勿論その前に接触者に発熱や倦怠感、味覚異常などが有れば即保健所でPCR検査を必要とする。

へー…。

一年前にコロナ感染者が出始めた頃は

マスクが世の中からあっという間に無くなった時期があった。

秋子サンはホテルで働いていた時から

ほこりアレルギーもあり勤務中は必ず不織布マスクを付けていたのでマスクは箱で自宅に常備してあった。

なので秋子サンの家族はマスクに困らなかった。


思い起こせば秋子サンの子供時代、昭和40年頃は小学校で風邪が流行ると母親達は一斉に薬局からガーゼを買ってきてはマスクを縫って子供にさせたものである。

なので秋子サンの年代辺りマスクに対する違和感は無く逆におおいなる信頼感があるだろうと思っていた。

しかもマスクは買うものではなく作るものと認識しているご婦人方がまだまだ残っていると思う。

TVでも感染を防ぐ為には外出後の手洗い、うがい、外出時のマスクが誠に有効であると報道し注意喚起を促した効果か、あっという間にマスクは世の中から消えてしまった。ドラッグストアではマスク目当てに開店前に行列が出来る始末であった。

代替品としてキッチンペーパーが紹介されるとスーパーの棚からキッチンペーパーも無くなった。

あまりの品薄にガーゼマスクが政府から国民に1人一枚郵便で配られたくらいだ。

だかこれはサイズが小さめだし髪の毛が入っていたりと多くの国民に不評だった。

秋子サンは周りでマスクが無くて困っている友人が沢山いたのを知りGoogleでマスクを検索、YouTubeで作り方を見つけ型紙をプリントアウトして、使用してないハンカチやお土産の手ぬぐいなどを利用してミシンで作りまくり配るともの凄く感謝された。

あれから一年。

マスク不足は解消されたが感染状況は国や地方自治体が出す色々な宣言や、それを補う対策を出すたびに増えたり減ったりを繰り返してきた。

オリンピックも近づいてきた。

政治家って日本の国は大切だけれど日本の国民は大切だと思ってないに違いない。

今は変異種が流行り感染者とそれに伴う重症患者は増加の一途である。初めの頃は諸外国から比べ厳しい生活制限も無しにこれくらいの人数の感染者で済んでいるのは奇跡とまで言われたのはマスクを拒まない日本人の国民性も一役かっているといわれたが、もうそれも限界であった。

後遺症も聞けばタチが悪いらしい。

最近はマスクをしていても感染する例があると報道されている。

今や最後の望みはワクチンだとされている。

そのワクチンも早い段階で国民に足る量を確保するのにどうも失敗したらしい。

75才以上で第一回目の接種が済んだ方はやっと2%だそう。


さて秋子サンの聞き取り調査は順調に進みやはり濃厚接触者にはならなかった。また理事会の出席者達も全員濃厚接触者にはならなかったが保健所の進めで念のため全員保健所のPCR検査を受け陰性だったと言う事であった。本当に良かった。

濃厚接触者にはならなかったが秋子サンも、無料の保健所のPCR検査受けて、もっとスッキリしましょうよ!と声の主に進められたが気力がどうしても湧いて来ない。だいたい、あと何日かで潜伏期間とされる2週間だって終わる。

民間のPCR検査も受けたし体調に異常も無く潜伏期間を終えるまで出勤もしない。疲れた。自律神経もぼろぼろだ。更年期も有るしこれ以上精神的負担を負いたく無いと保健所の若いお姉さんに泣きを入れる。民間のPCR検査結果を待つ間も恥ずかしながら本当に怖かった。

お姉さんはひょっとして保健婦さんなのかもしれなかった。

わかりました!大丈夫ですよ。おっしゃる通り潜伏期間ももう直ぐ終わりますし、心の健康だって大事ですよね。

自律神経を乱すと回復するのに時間がかかりますもん。念のため私のスマホの番号お伝えしておきますので今後何か心配な事がありましたら連絡くださいね!と言ってくれた。忙しくてお休みだってろくに取れない状況かも知れないのに、そんな優しいことを…と思うと涙腺が崩壊した秋子サンであった。

その後直ぐに、急に休みを余儀なくされ忙しいであろう冬人さんにはLINEで連絡を入れて置いた。

もう急がなくたって構わないであろう。

そうしてやっとこの何日かの恐怖感から解放された思いであった。


しかし追加の聞き取り調査の連絡が来た事を自ら高山に報告する気にはなれない秋子サンである。

そもそもハタさんが早退する前に秋子サンにコロナ感染の可能性を隠さず教えてくれたから、その後の事をしつこく会社に追求して判明したのである。ハタさんからの情報が無ければ秋子サンは何も知らないまま働き続けていた

に違いないない。

ひどくないか?ひどい。

高山に対する、ひいてはアカシヤ管理会社に対する信頼は無くなった。

怒りがじわじわとまた湧き上がる。

高山に間違い無く当たる砲弾を用意しとかねばならない。

放置してやった高山から連絡がきたのは次の日の午前中であった。

保健所から聞き取り調査来たでしょ。

自分の所にも秋子サンが濃厚接触者では無いと連絡きましたから〜と軽い調子で言う。

秋子サンまず一発目の玉を投げてみる。

ところでお宅の会社から配布されたコロナ感染対応対策マニュアルだかを、よおく読み返してみたんですけど。

その4の1に、自分の行った所でコロナ感染者が出た場合、所属長に直ちに連絡して自宅待機とする、と有りますがパートの私には適用にならないんですかね?と言ってやった。

高山は無言になった。

たいした読んでも理解してもないとみた。

そもそも一緒に働いていた私を忘れるなんてコロナ対策も何もあったものじゃないでしょ!

ハタさんがコロナに感染したのはハタさんが悪いわけじゃありませんよ。けどあんたのおかげで私も私の主人まで不必要な日数仕事を阻害され、私だって不必要な時間恐怖心を長引かされました。それをどう考えるんですか?と言ったら高山の奴、俺のせいですか?ときた。不服らしい。

あんたのせいじゃなくても会社の落ちどでしょ!

まあ…そうですね。

私は特に主人を巻き込んでしまっただけでも辛かったのにお宅の対応がなっていなかったせいで主人は休まなくても良い日数休まなければならなくて仕事に支障が出たんですよ!

それって人的被害でしょ!

と2発目の玉をおもいっきり投げつけた。

私の辛さがあなたにはわかりませんか?となんだか情け無くなって涙声で畳み掛けた。

そうするとやや間があって

わかります。と答えた。

この場合私が報告すべき所属長は誰なんですか?と聞くと、それは鈴木課長です!と言う。パートの私には初めて聞く名前だ。ではその人に相談します、と言った途端、高山の慌てっぷりが伝わって来た。

いや、私が報告を上げますから!とか言い始めた。

ゴマかされたり握りつぶされたりしたら困るんですけど。

こちとらもう辞めても良い覚悟である。ここを辞めても清掃の仕事なら他にもあるだろう。それにこの件で仕事仲間を巻き込む心配も無い事が秋子サンの気持ちを後押ししていた。

しかも休んでいて高山に放置されている間に考える時間がたっぷりあった。

秋子サン、パート110当番にだって電話をかけて相談していた。

相談員曰く、いきなり上に掛け合うのは宜しくないと言う。

まずは直接の担当者と話し合い貴方からは納得の行く答えが得られないから貴方の上司と相談します、みたいな2段階戦法が宜しいらしい。こちらは玉砕するつもりなのに何を手緩いと思って電話を切ったが、冷静になってよくよく考えてみると苦情を申し立てるこちら側もなるべく誠実でなければならない。生活の為に働かなければならないのは一緒だ。高山をやっつけるつもりであってはならないと秋子サンは自分を戒めた。

働く事は理不尽な事との向き合い方を学ぶ場でもある。

今まで秋子サンは色々なパートを経験してきたが理不尽だと怒っても訴える事はせず殆ど泣き寝入りをしてきた。

前職はホテル清掃、俗にメイクさんと呼ばれるが9割女性の職場である。

毎日のように事件があった。

ホテルの部屋清掃は時間と正確性を問われた。インバウンドやらで海外からの団体客も多くコロナ騒動前は常に満室であった。メイクの仕事を始めた頃は、その身体的きつさとミスのないように神経をすり減らす作業に何日持つかと思ったが慣れるに従い技術もあがり仲間にも恵まれて10年も頑張れた。

途中契約社員にならないかと持ちかけられたが腰痛と腱鞘炎で限界だった。


話しは戻るが…

秋子サンは高山の電話の相手をしながら怒っていた。

矢継ぎ早やに問いかける。

アナタ方が私の事を忘れ無ければ被害は最小限で済んだ、お金を払って民間のPCR検査を受ける必要だってなかっかじゃないですか。

その民間で受けたPCRの検査費用は出るんですか?

私は自主的に休んでいるけれど、本来なら会社の方から潜伏期間を考慮して自宅待機をお願いされる立場ではないですか?

私が自分の有給を差し出して休まなければならないものですか?

この2つの件について会社と相談して

迅速に答えて下さい、と秋子サン最後の球を放り投げた。どっかーん。


高山の奴、わかりました。キチンと上と相談して早急に連絡させて頂きます、と神妙に答えるしかなかったようだ。

が、初めて申し訳ありませんでした。と言った。

多分秋子サンが1番聞きたかった言葉だった。

高山と話し終わると秋子サンは力尽きて放心状態になった。しかし自分の言った言葉にひとつの後悔も無かった。


ハタさんが早退してから10日経っていた。

そして

明けて金曜日。

今度は午前中の早い時間に高山から連絡が来た。しおらしい事に今、お時間宜しいですか、まで言う。

えー、まず民間のPCR検査費用はこちらで負担させて頂きます、と。

秋子サンはそこで突っ込んだ。

自家用車で行き直ぐ側の駐車場を利用しましたが、その駐車場代金も出ますか?

高山の奴め、えー駐車場代もですかあ?と途端に面倒臭そうな態度にでた。

秋子サンはキレた。

あのね、自分が白か黒かわからないのに公共の交通機関を利用しては駄目でしょ!それに…何故私がたかが何百円かの駐車場代金を口にすると思うんですか?

もの凄く怒っているからですよ!あなたがたの誠意の問題でしょ!と、とうとう声を荒げた。

繋がりもしない保健所の電話番号なんか寄越しやがって、と秋子サンは思い出す。

人の辛い気持ちを慮る事ができないのか。たかがパートのくせにと心の底で馬鹿にしているのかも。がっかりだ。

高山はその件は社内的に相談してまたかけ直すと言う。

その後、とって付けたように体調は大丈夫ですか?だと。

今更かよ。ふざけてる。

そして保健所のPCR検査は受けられましたよね?と聞いてきた。

PCR検査は濃厚接触者でなければ任意である。秋子さんは受けなかった。高山が、あーまずいな〜それじゃあ自宅待機の分が支給出来ないかも、と訳分からん事を言う。

まずいのはあんたの対応だろ!

いや、良いですよ。有給はたっぷり残っている。なんなら全部使ってやめたろか、くらいな勢いだ。

高山はそれも含めて社内的に相談します、と言って電話を切った。

秋子サンは電話を切った後から色々自分の身に起こった事を思い返してまた泣けた。こんな事で、と悔しくもあったが古くなった自律神経にとっては多大なダメージだったらしい。

秋子サンは今回の休みをあんたの忖度でしょとばかりに有給申請出してと言われた時に備えて書類に書く理由を練り始めた。


土日の週末。

世の中はまだまだコロナ感染者と重症者が増え続けていた。医療が逼迫して

感染しても入院出来なかったり医療従事者の激務や疲労等が心配された。

後遺症に苦しむ人も多いと言う。


久しぶりの良いお天気に恵まれたが

出かけない事が冬人さんと秋子さんに出来る唯一の協力である。

家の中と家周りのささやかな庭でのんびり過ごさせていただいた。


明日から秋子サンは職場復帰である。

これからもアカシア管理会社の手下となり働く気持ちが湧いてくるのかどうか。休んだのはアンタの忖度!みたいな態度に出られたら、そうはいかない。夜になると明日の出勤の事を色々考えてしまい、また悶々とするのであった。


そして月曜日。

ハタさんと最後に会ってから13日目になる。潜伏期間としては充分であろう。冬人さんや秋子サンも元気でいられて何よりだった。

8時30分に会社に着くと1週間ぶりサイトウさんがまた外に飛び出してきた。

聞いたよ、大変だったね!

サイトウさんとお互いの無事を喜びあった。ハタさんは大丈夫だろうか。

管理会社からは誰もきていなかった。

サイトウさんに会社からあの後、何か説明があった?と聞くと、何日か前に高山から電話があって業者が管理員室に消毒に来た時の様子を詳しく聞かれたそうである。特に防護服を扉の中で着て欲しいと言った件を聞き、それで良いです。と言ったそうだ。

抜け抜けのくせに運の良い奴だ。

住民に見つかり吊し上げられたら良かったのに。

秋子サンは清掃の前に有給届けの用紙に昨夜練りに練った理由、社内のコロナ対策はなってない等を書き始めたところに、おはよーございまーす。と

軽い高山の奴が現れた。

私の顔を見ると

いや〜今回は何せ初めての事でして。

色々対応が後手後手に回って本当に済みませんでしたぁ。と一応の謝罪だ。

PCR検査と駐車場代のレシートは持ってきましたぁ?

レシートを渡すとちょうどピッタリの現金が入った封筒を手渡された。

社内的に駐車場代金も良しとされたようだ。

更に、今回の休みですけど6日間のうち3日は出勤にさせて頂いて〜残りの3日を有給届け出していただくと言う形で〜と言う。

ふんっ。痛み分けか?

まああまり期待はしていなかったがその通りに3日分申請書を記入した。

理由については、かなり言葉が柔らかくなったがコロナ感染者が出た事により二次感染を防ぐために潜伏期間を鑑みて、とした。

舐めんなよ。

ため息が出たが、出来る事は頑張ったのだ。

それから秋子サンはマンションの清掃を始めたが身体を動かし、あちこち磨いているうちに何もかも忘れる事ができた。


その後、退院してから連休を経て元気になったハタさんが職場復帰した。

幸い後遺症も殆ど無いと言う。

サイトウさん、ハタさんと3人でハタさんの生還とお互いの無事を喜びあった。

ハタさんは保健所でコロナ陽性反応が出た後は肺炎を起こしていて直ぐ入院できたそうである。そこで処方された薬を一日のんだところ身体が楽になり

食欲も出て生きる望みを持ったそうだ。その後回復具合によりホテルの宿泊型療養所、また病院、次の病院と10日間で4箇所移動し、退院して自宅療養も充分に無事職場復帰したのだった。本当に怖かっただろうと思う。

ハタさん、俺は入院できたから最初にかかってラッキーだったと言っている。かもしれない。


そしてまた何事も無かったように毎日秋子サンはガーデンマンションに清掃に来ている。

高山は信頼出来ない。

だが、いくら初めての事とは言え、恐らくこれと似たような事が日本中で起こっているのではないだろうか。

これでは感染経路不明者が全体の7割だと言うのもうなづける気がする。

迅速な一次対応が何事も大切だと言うではないか。

でもだからと言って国民1人1人の行動を管理されたり制御されたりはしたくない。とても難しい。

日本でもココアと言う可愛い名前のコロナ感染者に接触したら連絡が来るアプリを作ったらしいが、ちっとも広がらなかった。そもそも作った人や管理する人にアプリへの愛情が無かったのか何ヶ月も不具合のまま放置されていたらしい。大金と人手をかけて開発したであろうに残念な事である。

駄目だな、こりゃ。と呟いてみても何が駄目なのかもわからない。


ところで秋子サンはハタさんどこで感染したと思うのか聞いてみたかったが

さすがに口にはしなかった。

が、ある日清掃中の秋子サンをハタさんが呼び止めた。

秋子サン、住民さんとあまり至近距離で話さない方が良いよ、気をつけてねと言う。

聞けば1人暮らしで自宅とマンションの往復の毎日だったと言う。交通手段は自転車だそうでどうやら少なからずマンションの住民からか、出入りの業者からうつされたかもと疑っているらしかった。

うっ。秋子サンは何故かそこまで考えていなかった。そうか。そういう事もあり得る。その日から秋子サンは不織布マスクを二重にして清掃する事にした。

その後もワクチン接種は現実味がまだなく感染者や重症者は増える一方である。

事業補償金や協力金等もあるようだが

充分な額とは思えなかった。

この先の光はまだ見えない。

けれどこの中でそれぞれが自分の出来る事を頑張って生きていかねばならなかった。

昨日も何とかなったから今日もなんとかなるだろう。

秋子サンは思う。

でも明日は何とかなるだろうか。

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