第6話 痛み


小2の春、

近所のももちゃん家で、

さくらちゃん、すみれちゃん、

さゆりちゃん、冬美の5人でよく遊んでいた。


ももちゃんの家は木材の加工業を営んでいた。


お庭も広くて遊ぶにはうってつけの場所だった。


道路をはさんだ向かいには、

大量の木材が積まれていた。


いつも庭や木材置き場に集まり、

往復して遊んでいた。


その日も、5人でいつものように走り回って道路を横切ろうとしていた…。


その時、ドン!と鈍い音がした。

道路を走行していた車と冬美はぶつかったのだ!


気づいたら、空中に高く浮いていた。

その時、時間がとてもゆっくりと流れているように感じた。


走り高跳びの

背面飛びのような(多分)格好で、

ふわ~っと飛ばされて、材木置き場の一番端の地面にドサッと落ちた。


「きゃーっ!!!」という悲鳴が響き渡り、

みんな冬美に駆け寄った。


冬美は恥ずかしさのあまり、

慌てて起き上がろうとしたが、

体に力が入らず、動けない。


気がついたら既に救急車内で、

ピーポーと、サイレンが鳴り響いてる中

また意識が遠くなった…。


その後、

目を覚ました時は、

病院の手術室のような所で、お医者さんと春子が話しているのが聞こえた。


「先生、女の子なので将来のことを考えると傷痕が残るのは困るんです、手術しないで治せませんか?」などと、訴えていた。


先生は「わかりました、では手術をさけて暫く吊して様子をみましょう」などと、答えていた。


先生は、私が見たこともない、

ドリルのようなものを手にしていた。


20センチくらいはあっただろうか?

それを私の折れたであろう、

右足に近づけてきた。


「もしかして、これは恐い事をされる?」

直感でそう思った…。



今まで出した事のない(たぶん)大声を出して、

動かない体で必死に抵抗し叫んだ。


「イヤー!」



実際、大声が出たかどうかわからない…、ただ叫んだと思う…。


「危ないので押さえて下さい」と先生は言った。


春子と看護師さん数人に、

両手足、頭などを押さえつけられた。


そこまでは見ていた。

(押さえ付けられたあとの記憶が曖昧)

その後、二日間ほど意識不明になった。


多分それのせいではないか?(記憶関係の事案は)と今でも思っている。


ちなみに、

冬美がそういうことをやられていた時、

秋彦は待合室に行っていた。


「お父さんも来て下さい」と

お願いされたが、そこから動かなかった。


その時の事を今でも春子は、

「お父さんは、

あの時何の役にもたたなかった」

と愚痴っている。


その金属のような棒は、

2カ月あまり右膝を貫いたまま、

天井あたりからひもで吊してあった。


もちろんその間、冬美は全く動けなかった。


冬美にはとても心配している事があった。


目の前にある、ソレを見つめて、

外すときは、どうするのか?


痛いのかな、肉、はがれるのかな?

などと、いつも考えていた。


とうとうその日がきた。


また体を押さえ付けられ、

先生がそれを引き抜こうとしたが…。


まぁこれがなかなか抜けない。


当たり前だ。


冬美が心配していた通り、

ヒザの肉とくっついていて、

ほぼ身体の一部になっていたのだから…。


ちゃんと麻酔をしたのかな?痛みで、アタマがおかしくなりそう…。


手こずっている先生に向かって、

「いた~い~~早く抜いてょ~ほら~早く~痛いってばー!」

と、大声を出して怒鳴ってしまった。


先生が思い切り引き抜いた…。


肉片が付いていたのを、

冬美は、はっきりその目で見た。


・・・2カ月以上吊されていた右膝は、

やっと自由になり、車椅子生活になった。


リハビリを始め、松葉杖で歩き、

完全に歩けるようになってから

退院した。


その頃は既に、

肌寒い季節になっていた・・・。










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