カストールの憂鬱

鈴ノ木 鈴ノ子

第1話

 ジョン・カストールは女性である。

 ジョンであるが女性である。これは間違いない。

 カストール家には代々、男性につけるべき名を配した女子が当主の座を譲り受ける。これは脈々と受け継がれた伝統であったが、当の本人には不満である。

 名前で揶揄われることの多い日々を過ごしながら、ジョンは嫌気がした。他の令嬢たちはみな、お茶会だ、ダンスだ、なんだと女性らしい趣味を満喫していると言うのに、私は、剣術、射撃術、軍隊格闘術、と汗まみれの男達と過ごした。

 そうなれば必然的に女性らしさは失われて、筋骨隆々ながら立派な胸もある筋肉女子が出来上がるのは当然のことであった。

「カストール家の次期当主は凄いらしい」

そんな噂がカストール領の彼方此方で聞こえ始める頃には、領内一の武芸者で師匠でもあったアッテンボローを叩きのめした女傑にまで上り詰めていた。

さて、貴族の家柄であるカストール家も、もれなくグラドリアン王国の一貴族な訳で貴族としての義務も負っている訳である。

「次期領主様へ、召集令状が来ております」

執事のメランコリックが恭しく、現当主で母親のガンツに手紙を渡した。年を経てなお、逞しいガンツはその逞しい腕で手紙を受け取ると嘆いた。

「私より招集が2年は遅い」

招集による悲しみではない、自分に招集がかかった時より2年も遅いことを問題視していた。

「メランコリック、すぐにジョンを叩き出しなさい」

というわけで、私は貴族の令嬢のはずなのに屋敷から叩き出された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る