タンタイル・バリィの蒐集記

錫樹ゆひこ

第0話 『All I need is you.』

1850年。

インドで起きた、多国籍カルト教団による集団自殺事件。


鉱山跡地に遺された寄宿舎に、推定120名のカルト教団員が立てこもり、人質として拘束されていたツアー観光客30名が巻き添えになった。


自殺に使用されたのは、毒ガス。アヘンを原材料とする新種のドラッグを含んでいた。

このドラッグの使用者は、多幸感を伴う深いトランス状態へと陥り、苦痛に鈍感になる。信者たちは、致死毒に侵されながらも、夢見心地で死亡したのだろう。


生存者はただ一人。

ジョン・バッカス氏。

イギリス人。当時24歳。人質になった観光客の一人だ。

折り重なって倒れた犠牲者の中に、彼は埋もれていた。

何故、彼だけが一命を取り留めたのか。明確な理由は今でもわかっていない。


しかし。

この事件に関わった、一部の人物だけが知る事実がある。

バッカス氏は、事件現場から重大な証拠品を、密かに持ち出していたのだ。


信者たちが息絶える瞬間まで崇めていた、祭壇と思わしき遺物。

そこに座していたはずのもの。



それは、ひとつの赤い宝石だったらしい。

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