左肩の刺し傷が痛む前【『絶望のツンドラ』シリーズ】

筑紫榛名@9/8文学フリマ大阪

(一)

 僕たちは森に入り、逃げていた。国境を越えてアディレバイジェン共和国を目指していた。

 敵に見つかる恐れがあったから、僕たちは森の中で広がって歩いていた。集団で歩けばすぐ見つかるけど一人ずつなら見つかる可能性もさらに低くなるはずだ。

 山の斜面は歩きづらく、町からはずいぶん歩いてきたはずだったのだが、苦労の割にはあまり遠くまではきていないだろう。

 とはいえ新月の夜だったので、森の中は暗かった。だから敵からは見つからないはずだ。大丈夫、絶対逃げられる。僕たちはそう思っていた。

 しかし、森に入って一時間ほど歩いた頃、僕たちは気づくことになった。その考えが甘かったことに。

 というのも、僕たちはイルマ・ショータの死体を見つけたからだ。ついさっきまで、一緒に歩いていた仲間だった。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る