聖ノーレア女学院
@Pz5
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「お姉様——さ、御御足を——」
少女の声が囁く。
優しく、艶めき、清らかに。
「ありがとう、
こちらも、少女の声が応える。
慈しみ、愛おしみ、包容するように。
ボタニカルな窓飾りに縁取られた窓からは初夏の陽光が部屋に注ぎ、窓の上に据えられた薔薇窓からはステンドグラスを通過した色彩が光に華を添えている。
部屋の両脇に置かれた二つのベッドの影が、その間にいる二人の少女の影を囲み、額縁となる。
奈保子と呼ばれた最初の少女の影が「脚」を片手に持ち、お姉様と呼ばれた少女の影の前に跪く。
「参ります」
奈保子の声にやや熱が籠る。
「ええ」
「お姉様」の声にもまた。
「それ」
「あっ——」
二人の少女の声はほぼ同時であった。
最初の少女が「お姉様」の脚に「脚」を繋げる。
「んっ——」
「お姉様」の声が漏れる。
最初の少女が「脚」の生体受けユニットのボタンを押す。
「あぁっ——」
「お姉様」の声だけが続く。
「脚」の受け部分が須臾の間光り、生体受けソケットのセンサが生体部分に残された腓骨と脛骨の位置を感知し、自動で締め付けを調整して空気を抜きながら「脚」を固定していく。
「ああ——お姉様——」
奈保子はそう呟くと、「お姉様」の膝から下の生体部分から「脚」へと、タンパク質から炭素繊維へと、ゆっくりと指を這わせる。
「お美しい——」
奈保子は思わず吐露する。
「んっんん——」
「お姉様」は排気と奈保子の指の動きに合わせて声を漏らし続けた。
やがて「脚」の動きが収まる。
「奈保子——さ、次は貴女の番よ——」
そう言うと「お姉様」は「腕」を持ち、奈保子の前に膝を下ろすと奈保子が撫でる手とは反対の腕に「腕」を繋げる。
「ああ、お姉様」
腕の断面から肘に掛けて「腕」の生体受けユニットで覆われると、奈保子もつい声を漏らす。
「いきますわね?」
お姉様は「腕」を着けてからその動きのまま、奈保子の肘の先まで指を這わせると「腕」のボタンに触れる。
こちらも「脚」同様、センサが生体部分に残された尺骨と橈骨を感知し自動で調整していく。
空気の漏れる音が響く。
「ああ——」
二人の少女の声が絡み合う。
清らかに。
「さあ、これで——」
「神を騙った愚かで劣った創造者の被造物である処の肉から——」
「我等がロゴスに基づいた、清らかなモノへ——」
二つの影法師は交互に語る。
「清らかな『生命の泉』を——」
「互いに分かち合いましょう——」
二人の少女の目が絡む。
「「知恵ある者として」」
最後は声を重ね、互いの「肢体」を撫で合い、立ち上がる。
ステンドグラスに染められた七色に光る世界の中を、二人の影法師少女が立ち上がる。
両脇を黒いベッドの影に囲まれて。
そのベッドの脇には厨子のような、あるいは祭壇のような物が開かれている。
そこには、互いに交換した肢体のホルマリン漬けが納められていた。
「罪」の自覚と「契」の証として——
少女と肢体達は、初夏の陽光の下、輝いていた。
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