第24話
剛はこの中で一番の年長だ。
だからこそ窘めながら話を逸らした。
「止めとけ。可能なのは分かってるけどな。あんな連中でも居ると居ないとじゃ違う。それよりもだ、瑠華。俺の事ちゃんと記憶はあるか? 弄られてる感じはないか?」
瑠華は慌てて自らに力を使う。
いざ彼女が力を使えば、どれほど隠蔽に優れていても痕跡は丸裸だ。
「剛兄様への認証を曖昧にするモノ以外は大丈夫、何も無いわ……ごめんなさい、剛兄様。気を許してはいけないのに…油断した」
油断することさえダメだと分かっていたにも関わらず、あまりに身近だった期間が長かったのだ。
それさえ意図的に計画されたことだろうに……!
紫苑からさえ引き離したのだから。
「謝るな。気を許したら駄目だと分かってても、いつも一緒にいたら情もわく。特に優しい瑠華だしな。それを見越して引っ付かせてたし引っ付いてたんだろうが」
剛の後半の言葉は吐き捨てるようだった。
当然だ。
人の良い瑠華に何しくさりやがってんだと怒り心頭。
紫苑と凱も言うに及ばず。
空気が澱む。
「それじゃ、瑠華。俺はお前とどういう関係か、俺の立場を正確に言えるか?」
剛は、一族以外には聞こえなくなる上に偽の光景が見える結界を、瑠華が湖に来て認識を歪められていたと気がついた時から周囲に張っていた。
それを今、一族特有の合図である幻の蝶を創る事で教える。
これを視れば、一族であれば創った相手が込めた情報を得る事が可能なのだ。
「剛兄様は、私の母方の従兄。紫苑の側近として育てられた。だから紫苑と私と凱と一緒に育つ、はずだった」
瑠璃色の蝶。
瑠華の家を表す蝶。
収まっていた感情があふれそうだったが……瞬時に消える。
自らの家の罪を……忘れてはいけない。
「それにしても、だ。なあ、紫苑。瑠華と一緒じゃなかったのか? オレはてっきり二人は一緒だと思ってたからそういうつもりで探していたんだけどな」
凱が当たり前の疑問を口にする。
それには剛も肯いた。
凱は紫苑と話して分かったのだが、剛の場合は凱の言葉で認識。
二人にしてみれば紫苑が瑠華を一人にするなど考えた事も無かったのだ。
だというのに……
紫苑の瞳に今までよりも強い虚ろの闇が宿る。
二人は地雷だったかと気を揉んだが、それでも知らなくては対策が取れないと視線で紫苑へと促す。
瑠華もどうして紫苑が居なくなったのか、正確な情報が欲しくて紫苑を見つめる。
自分にに与えられていた全ては嘘に塗り固められているのではないかと、ある種の確信を抱きながら。
三人の眼差しに、紫苑は一度大きく息を吐く。
綺麗過ぎる妖艶な美貌の眉根をこれでもかと寄せて目を閉じ、壁に身を預けながら腕を組み、突き放すような低い声音で語り出す。
「――――瑠華が……家族と……陽呂を探していると言っていた。陽呂は外国に居たから所在不明で……瑠華の為に海外に人探しがてら行ってくれないかと。瑠華は家族と……陽呂の為に戦闘に参加しているのだから、俺が戦えば瑠華を戦場にもう送らなくても済むとも言っていたな」
紫苑の言葉に目の前が真っ赤に染まるのを感じた。
だというのに、感情が冷えていく。
冷たい怒りが内心に渦巻いて決壊寸前。
瑠華にしてみれば、幼い頃一緒に育った身近な相手。
陽呂の一族は彼の祖父以外追い出された。
だから瑠華が探していたのは確かだ。
陽呂の一族の全員を。
――――ある日居なくなった陽呂の祖父を含めて。
「……そう、言われたの……?」
瑠華の声は震えている。
表情も抜け落ちたように能面だ。
それを目にして紫苑は余計に澱んだ瞳になった。
「ああ」
短く冷めた声で肯定の言葉を告げる紫苑。
瑠華は紫苑に行われた仕打ちに我慢ができず、思わず大きな声が口から漏れた。
「確かに探していたけれど……! 一族を探していて……それに私は紫苑が自分から志願して海外に行ったと聞いて……理由は何も……ずっと私待ってて…だから最前線の戦場に――――」
震えて途切れ途切れの言葉。
それ以上続ける事も出来なかった。
"最前線で戦い続ければ、人類の、強いては紫苑の負担が軽くなる"
そう言われたから必死に戦闘に望み続けた。
過酷な場所に狙いしまして送られて。
それでも子供が立っていられたのは……
――――やはり仕組まれて独りにされたのだ。
身近に居たのなら守れたはずの、守らなければならない紫苑から姦計で引き離された。
……幼い子供だったから気づけなかった等理由にもならない。
祖父母からも母からも……強く言われていたのに。
何より瑠華自身が自分に科したことだ。
行方不明になった一族を。
仕える一族も必ず見つける。
どれほどの地獄でも揺るがぬ決意を利用されたのだ。
本来、誰かを、何かを傷つける事が極端に苦手な瑠華。
常に自分より誰かを優先し、自らが傷つくより誰かが傷ついた方が痛手になる優しすぎる少女だ。
だからこそ力は守る事や支援に特化していた。
――――その力を厭いながらも。
自分が殺せない事が申し訳なかった。
誰かに殺させているのに、自分は守られてばかり。
その所為だろう、周りに居た者に罪悪感からより献身的になってしまった。
結果、いつの間にか心に隙ができたのだろう。
それを良いように使われた。
(絶対に落とし前はつけさせる!!!)
瑠華が自らを一番唾棄しながらも、内心強く誓った時だ。
慣れた彼女達でなければ正気を喪うほどの殺気がまき散らされる。
「――――瑠華。戦わされていたのか……? 最前線で?」
空間が軋む。
圧だけで存在が潰れる。
紫苑の瞳に獰猛で危険極まりない色が燃え盛っていた。
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