第20話

「付け加えるなら、既に『超越者トランセンダー』になっている者の中には『彩色』を擬装していない場合もありますから、見れば分かる場合も」


 更に追い打ちをかける霧虹。

 視線を感じた方を見てみたら、紫苑が眉間に皺を寄せていた。

 疑問符が乱舞している瑠華に、大きなため息を吐いた紫苑。

 やはり分からず混乱は加速する。

 ……ちなみに、『彩色』について知っているのは家族や本人が『超越者トランセンダー』の場合だけというのが常識だ。


「では、『杖』を出してみましょう。『超越者トランセンダー』はもうやり方を知っていますから、割愛。『覚醒者アーカス』は『紋章』を強く意識し、手の上に具現化したイメージをしましょう。目を閉じた方がやりやすいと思いますよ」


 先程同様に『組』で皆が整列しながら、大半の学生は心を弾ませながら輝いた目を閉じ意識を集中する。

 それを尻目に、誰がみても学生ではあれど『色変わり』した『彩色』を持つ者達は皆が皆、なんでもない調子で手に姿な『杖』を現出させていた。


 瑠華の『杖』は、華奢で繊細な細工が彫られた小さな銀色に煌めく水晶の様だ。

 彼女の肘より僅かに短く、指くらいの細さ。

 彫られているのは、水を表しているモノに加えて蝶の羽や鳥の翼と羽に薔薇。

 鮮やかな青と瑠璃の宝石が水だろう細工と羽や翼、薔薇を彩る。

 アクセントの金色や虹色は蒔絵や螺鈿細工を思わせた。

 淡く金色の後光を放つその『杖』は、誰がどうみても尋常ではない美しさ。

 多くのの『杖』とは月とスッポン。

 普通はただの棒切れ宛らな姿なのと比べれば、あまりにも異質だった。


 大きさや細さはまちまちなれど、基本的に『杖』と言われたら思い浮かべるだろう木製の物。

 それが大多数の者にとっての最初の『杖』だ。

 瑠華以外で木製を思わせる『杖』ではないのは紫苑と凱だけだった。


 紫苑の『杖』は漆黒の金剛石を思わせ、やはり蒔絵や螺鈿細工の様に黄金と虹が。

 至極色と真紅の宝石が彫られた雷と炎、竜のモノを思わせる翼と曼珠沙華を彩り、誰しもの目を奪う。


 凱の『杖』はシンプルだったが、黒系の金属を思わせる光沢がある中、銀細工で植物だろう美しい装飾がされていた。


 何より三人は『超越者トランセンダー』の中でも珍しい『色変わり』と呼ばれる、髪や瞳の色、肌の色が生まれつきとは変わってしまった存在だ。

『色変わり』した者の髪や瞳、肌の色の事を『彩色』と呼ぶのだが――――


 三人を含む学生で『彩色』を偽装していた者たち全員が、『杖』を出した瞬間、その偽装が剥がれてしまう。


「さて、まだ『杖』を出せない人も多くいますね。というより殆どですが。まずはコレが出来るようになりましょう。『紋章』を『杖』に具現化したかしないかでかなり影響が出ます。有り体に言えば身体能力全般に加えて、攻撃を受けた際の威力の減退、つまりは防御力ですね。『覚醒者アーカス』の状態では『シード』でない者は特殊能力は使えませんから、身体能力が低いままでは『怪物モンスター』に太刀打ちできませんよ。兎にも角にも『杖』の現出。これなくしては話にもなりません。今日を含め2,3日以内には必ず『杖』を出せるようになっていて下さい。因みに、偽物を出してきてもすぐに分かりますからね。無駄な事は止めましょう。場合によってはしてもらうことになりますからね」


 霧虹が大変良い笑顔で朗々と語り終わる。

 次いで魅夜が表情を消した美貌で堂々と前に出た。


「では、既に『杖』を具現化させた者は前に出ろ。それ以外は後ろに。『組』は無視して構わない」


 彼女の言を受け、おっかなビックリと皆が移動を開始する。

 前に出た事で瑠華と紫苑、凱の『杖』は非常に注目を浴びる事になった。

 その喧騒を無視し、暁が前に出て話し出す。


「『杖』を具現化させた者は『鑑定』と『識別』が終わり次第今日の予定は終了となる。以降は明日まで自由時間だ。”Sクラス”から始める。『鑑定』『識別』結果は発表されるが、外部に漏らすのは厳禁だ」


 号令の下、前に居る者から先程呼ばれた順番通りに”Sクラス”から並び始めた。


覚醒者アーカス』になったばかりの『杖』も出せない状態で分かるのは”クラス”だけだ。

 それが『杖』を出せるようになると大まかな能力の区分けが出来る。

 つまりは『攻撃型』『防御型』『支援型』のいずれであるのか。

 更に『攻撃型』の中でもスピード特化で気配を殺すのが格別に上手い『暗殺種』。

 一撃の威力が格段に高い『攻撃種』。

 戦闘全般に高い能力を持つ『戦闘種』という具合に、『防御型』『支援型』も『種別』までは判別が可能なのだ。


 瑠華は改めて椿が『鑑定』と『識別』を受けているのを見ながら、自分の場合はどういう発表がされるのかと不安になっていた。

 何せ彼女の能力は常に秘密にするように言い聞かされていたのだ。

 とはいえ『型』と『種別』は『超越者トランセンダー』の能力でも公にされるものなのだから、そこまで心配しなくても大丈夫だろうと、瑠華なりに思ってはいた。

 いたけれど、それでも不安は後から後から湧いてくる。

 終わったら気分転換しようと決め、なんとか息をつけていた。

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