第8話
早く寝たにも関わらず疲れが取れてはいなかったのか、瑠華が気が付いた時には入学式は終わっていた。
(……どうしよう……何も覚えていないなんて……寝ていたのを皆気がついたよね……穴があったら入りたい…というより埋まりたい……)
皆が立ち上がり出て行く中、彼女の内心は焦りと羞恥と自己嫌悪で大変な事態になっていたのだが――――
それでも叩き込まれた礼儀作法により、絹を思わせる柔らかで美しい髪をたなびかせ、泰然自若と新入生の最後尾を優雅に歩く様が、激しく人目を惹きまくっている事にもやはりこれっぽっちも気がつかない。
何せ瑠華の自己評価はマイナスを天元突破しているのだ。
だから本当に微塵も気がつかない。
入学式の最中、彼女は意識を確かに飛ばしてはいたが、既に本能に刷り込まれている諸々のお陰で、例え何が起ころうとも、神秘的で静謐な眼差しを湛えるまさに春風駘蕩な絶世の美少女にしか見えなかった事にも。
――――世界中の皆が、どの国かの区別もなく、『
この世界において、それこそあらゆる面で、言葉の綾でもなく真実全てを握っているのは『
その存在無しには人類は決して存在出来ない。
だからこそ、将来の『
強く優秀な『
関心を向けない方がおかしいだろう。
ましてや日本は質・量共にトップクラスの『
日本で唯一の『
それ故に方々からの凄まじい圧力が掛かりに掛かり、沖ノ鳥島にある国内無二の存在である『曙
それ以外の学校行事でさえも。
勿論テレビと動画両方で。
他の『
そう、時差をものともせず、全人類が同時に視聴していると言っても過言ではなかったのだ。
見ながらのSNS使用による回線のひっ迫は、もし『
同時に、それらが無ければここまでひっ迫する事態にもならなかったかもしれない。
自分達の多大なる価値にも、異常といえる注目度合いにも、人類皆が向けてくる枷の様に絡みつく逃げられない希望でさえ、現在の最上級生である三年生、去年入学の二年生、そして新入生といえど誰もが理解していた。
勿論瑠華を除いて。
故に在校生は新入生へと見合う十分な歓迎を示したのだ。
内外へと力を誇示し見せつけつつ。
能力を使うという最高のプレゼンテーションを兼ねながら。
それに一切揺るがず超然と座る、人間離れした美貌を誇る『
――――しかも見た事の無い肩章と飾緒の色。
『
そして制服に施された刺繍の意匠。
更に左手首にはめられたブレスレット。
止めに昨日の寮前での騒ぎ。
常に傅かれた上あらゆる優遇を受け、皆の視線も関心も心や命さえも全て自分に捧げられるのが当たり前な存在達にとって、彼等彼女達は毛頭眼中に無いと、こちらが目も心も奪われた存在に公然と言われたも同然だったのだ。
それが実は瑠華の記憶にさえ残っていないと知られたならば。
彼女の認識のズレと合わさったなら。
更に瑠華が現在無意識に提示している情報も加わって、一体何が起こるのかは未知数。
少なくともロクな事にはならなのが確定している。
自尊心を肥大させただけの弱者ならばまだ良い。
否、自尊心と性根が腐っている悪知恵に長けた小物は質が悪いのは周知の事実。
相手の足を引っ張り貶め引き摺り下ろす事に全てを賭ける者もまた。
それを焚き付ける存在には彼等彼女達は格好の薪にしかならない。
だが――――
コレ等が可愛いとさえ思える者。
何より力のある凶者や狂人。
普通でさえ危険な存在。
其れ等は瑠華が、というよりすべからく誰もが興味を持たれてはいけない相手だ。
その連中の心さえ、確かにうっかり消えない引っ掻き傷をつけてしまったのは……悲劇というか喜劇というべきか。
それが世界をどう動かすのかも、まだ全ては未知数だった。
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