128話 封印されているのは?

ニコラスの研究室から帰ってきた日の夜のこと


私は見覚えのある真っ白な空間にいた。

「ここは…またか。」

「久しぶりじゃの。」

「何の用ですか。」

「何の用とは、ご挨拶じゃのう。この前は話せなかったことを話そうと思ってきたのに。」

「なぜ今さら。」

「神力に耐性があると言っても一週間は空けなければ魂が損傷するからじゃ。何か疑問はあるかの?勇者のこととか。」

「勇者なんて呼び名はどうでもいいんですよ。それよりも聞きたいのは、魔神が封印されていないなら何が封印されているのかです。」

「鋭いの。魔神と呼ばれ封印されているのは、魔獣グランド。全てを喰らい尽くす怪物じゃ。」

「魔獣グランドですか。」

「うむ、グランドは小さな村を丸呑みするほどの巨大な口と体躯を持ち、あらゆる攻撃を吸収し、己の糧とするのじゃ。おそらく、この星のすべてを喰い尽くすまで止まらんじゃろう。」

「どうしようもないのですか?神であるあなたが倒すとか。」

「無理じゃ。ワシらは動けない。神託や加護を与える以外の干渉は禁じられておる。」

「誰にですか。」

「上位管理者じゃ。」

「上位管理者…」

「うむ、ワシら神を管理している神のことじゃ。そいつらのルールに背けば、最悪この世界ごと消されかねん。それだけヤツらは強大なのじゃ。グランドが神格を持っていたならば話は変わっていたのじゃが。」

「グランドは知能を持っていない?」

「そうじゃ。神格を有するにはある程度の知能が無ければならなん。しかし、グランドは知能を有しておらん。じゃから神では無いし、これからも神になることはないじゃろう。」

「本当にどうしようも無いのですか。」

「そなたの超級魔法じゃったか?あれなら傷を付けられるじゃろう。しかし、魔力が足りん。生半可な傷は一瞬で再生するからの。そなたの前世ほどの力があれば倒せるがの。」

「知っていたんですか。」

「ワシは神じゃ。何でも知っておるぞ。だから今、そなたの考えていることも分かる。過去を知られたからって気持ち悪いは酷くないかの?」

「だって気持ち悪いし。」

「だってちゃうわ、不敬者め。まあ、それはそれとして、ワシの頼みの理由が分かったかの?」

「理解はしました。気持ち悪いですけど。」

「いつまで言っとんじゃ。それにしても、前世のそなたつよすぎない?ワシは神の中では戦えない方じゃが、それでも神なのに、普通にワシより強いぞ。一体どんな鍛え方をしたのか。」

「普通ですよ?」

「あれは普通とは言わん。というかそなた、学園に行っとるようじゃが、つまらんのじゃないか?全部知っとるじゃろ。」

「いきなり話変わりましたね。それに中等教育なんてあんなものですよ。私の目的は図書館の本を読破することなので。」

「知っとるどころかあの理論を完成させたのはそなたじゃろ?」

「前世では私のせいで魔法科学は数十年分進んだって言われましたからね。」

「皮肉なもんじゃな。」

「実際、私の理論で地球は破壊されましたから。間違ってないんですよ。」

「それは結果論じゃろ。」

「物事は結果がすべてです。過程を重視するのは社会に出るまでですよ。」

「世知辛いのう。あとはそうじゃのう、教会に勇者を選んだって神託を出してもいいかの?」

「ダメに決まってるでしょう。面倒事を増やさないでください。」

「わ、分かった。魔族が何かしようとしていたらまたこうして会いに来るからの、ではのう。」

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