『じっくり転んでみる』

やましん(テンパー)

『じっくり転んでみる』


 最近、歳のせいだろうけれど、わりによく転ぶのであります。


 直近は、急性腎盂腎炎で高熱を出して入院し、なんとか4日で退院した、その日の晩。


 台所で、後ろ向きに、ひっくり返ったのであります。


 なんでまた、わざわざ、後ろ向きに転ぶのか?


 大抵は、前に進もうとしていて、なにかにつまずくとか、お空を見上げていて、穴に落ちるとか、とにかく、前向きに転ぶのが通常のように思います。


 ところが、このところ、やたらに、後ろ方向に向かって転ぶようになったのです。

 

 まあ、転ばないまでも、ヒヤッとすることは、しょっちゅうであります。


 つまり、上向きになって、背中かから転がるのです。


 バランス感覚に問題があることは、解っていて、目眩を防止するお薬もいただいていますから、ものすごく、異常だとは、言えないだろうと、おもうのですが。


 そこで、思い起こされるのは、職場での話し。


 私は、わりに、慎重で、石橋は叩いても、なかなか渡らないほうです。


 危ないことは、やりたくない。


 で、ある日、上司から、『きみは、後ろ向きだね。それに、考えが硬い、かちかちだ。かちかち。』


 と、批判されたのを、思いだしたのです。


 かちかちやましん、ですか。


 それと、後ろ向きに転ぶことと、何か関連があるのだろうか。


 人生、まだまだ、若い、何て言ってみたところで、還暦をとっくに越えて、仕事も出来かねて、若いかたからの批判にさらされ、いやになって辞めてしまって、もう、5年近くになりますが、性格が後ろ向きだと、転ぶのも、後ろ向きに、なるのか。


 証明は出来ないが、可能性がないとは、言い切れないです。


 最近は、あまり見かけないが、子供がひっくり返って、駄々こねてる風景に、なんだか、良く似ているような。


 昔に比べると、経済状況が豊かになったぶん、そうしたストライキも、減ったのかもしれないですが、子供のいない私ゆえ、あまり、子育ての実情は、わからないです。


 今は亡き母が、最晩年になって、ときどき、ストライキを起こし、息子の対応が悪いと、怒りを爆発させ、スリッパで廊下をばんばん殴り付けたりして、ずいぶん、扱いに困ったことがありました。


 母の狂気は、息子にとっては、衝撃です。


 まあ、あの、母ありて、自分ありでありますから、こりゃ、まずい兆候かい。


 ときに、いまのところ、大きな怪我にはなっておりませんが、転ぶときには、あまり、逆らわないようにしております。


 頭だけは抱えたりしながら、まるで、スローモーションのように感じながら、転がるのです。


 さすがに、階段でやると、非常にまずいとは思いますし、それも、やりかけることは、ありますが。(つまり、踏み外したりでありますが。)


 で、転がりながら、何が起こったのか、考えてみるのです。


 なぜ、転んだのであろうか?


 しかも、後ろ向きに。


 それから、起き上がる前に、激しく痛むかどうか、ちょっと、確かめるのです。


 それで、何回かこうして、転がったり、転がりかけたりして、結局のところ、これは、やはり、後ろ向きに生きてきた自分そのものなのであろう。


 そう、結論付けするしかないと、考えたのです。


 子供のない年よりは、思い出に生きるものです。


 そうそう。


 かの、上司さまは、退職後に送ってきてくださった葉書のなかで、『色々、失礼を言って申し訳なかった』、と、お詫びをしてくださいました。


 気遣って頂いたのは、感謝に絶えませんが、気にはしていた、ということなのでしょう。


 また、明日、はでに転ぶのか、今夜なのか、わからないけど、後ろ向きに転んでも、じっくり、色んなことを、前向きに、考えてみたいものです。


 ただ、転ぶ場所が悪く、死んだら、おしまいだなあ。

 

 


 


 


 

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『じっくり転んでみる』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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